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第2章
『Everything』ー中編
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「あ、の……先輩……」
巴の声がする。
「も、もしかして、さっき運ばれたのは、おじ様ですか? 彰一おじ様」
「……俺たちがお世話になってるバーのマスター。粟飯原彰一さん。あまり言いたくないけど、巴の親族が押しかけて行って怪我をさせた。それに、お前の兄さんにお金をせびっていたらしい」
するとうなだれ、
「お、お兄様がある女の人と付き合っていて、子供ができたそうです。兄はすでに結婚していて、完全に不倫です。子供を堕してくれと頼んだとか。それを聞きつけた叔母達に脅されたんだと思います」
「自業自得だな」
「今、義姉さんともギクシャクしていて、不倫のことで会社でも孤立していて……」
「それこそ自業自得」
大輔はきっぱり言い捨てる。
「大会社の総帥の孫なんて、甘ったれるな。もっと自覚を持たないと。これじゃぁ、マスターの努力の意味がない」
「……ごめんなさい」
「おい、お前のことを言ってないぞ! 言ってるのはお前の兄貴にだ」
「二人とも、こっちで待とうか」
雄洋は空いていたベンチに腰を下ろす。
「お、おじ様は……」
「結婚して、最近赤ん坊が生まれて幸せそうだ。見るか?」
大輔はスマホを操作し写真を見せる。
泣く赤ん坊をあやす彰一、赤ん坊を抱きしめて、夫を見上げる遼。
「赤ちゃん可愛い……おじ様のこんな穏やかな顔、初めてです。前にお会いした時は、無表情でとても険しいお顔でした。解体しかけた財閥を必死に立て直して、元の数倍も収益が見込めるまで、家にも帰らず会社で寝泊まりしていたそうです」
「うえぇ……マスター。無茶すんなぁ……」
「おじ様はおじいさまが信頼する程の才覚がおありでした。お父さまも自分は追いつけないと、だからおじ様に帰ってきて欲しいのだと思います」
「帰って貰って、君の家は良いだろうね。自分達が起こした不祥事をまた、おじさんに尻拭いしてもらえて、のうのうと財閥のトップ一族でいられるんだから」
雄洋は皮肉げに言い放つ。
「それに、君のおじいさんはおじさんに言ったんだって。戻ってくれ。ダメならお前の息子を息子か孫の養子に引き取りたいって。君のおじいさんはおじさんを心配するふりして、おじさんが財閥に戻るか、この子を渡せと言いにきたんだよ」
「そ、そんな……」
「雄洋。きついこと言うなよ。巴は知らなかったんだ。それじゃただの八つ当たりだ」
「現場を見てないから言えるんだ!」
「雄洋!」
大輔が強い口調でたしなめる。
その声にバツの悪そうな顔になった雄洋は、
「……ごめん。八つ当たりだ。頭冷やしてくる……」
と、立ち上がり離れていった。
しばらく周囲はざわついているが、静かになる。
大輔は腕を上げ背伸びをすると、首の後ろで組んだ。
「……まぁ、雄洋は俺たちと違って、小さい頃から時々マスターに会ってたんだろう。雄洋の父さんはマスターの親友だから。だから余計に距離が近い。でも、俺もそうだけど、カッとなるのは良くないよな」
小さくなる巴を見る。
「あのさぁ、巴。雄洋はマスターを慕っているから……本当に、俺もそうだけどもう一人の親父みたいなもんで、カナダに転勤した森田は親父がいなくて、数年前お袋も逝ってるから、本当の親父のように思ってる。だから、こっちに戻ってきた時は必ずマスターに会いに行く。心の支えなんだ。でも、マスターが靫原の元総帥だからじゃなくて、マスターはマスターで、それ以上でもない」
「……」
「それにな? 雄洋が怒ったのは、普通に名前だけで良い戻って欲しい。お前が本当の当主だと言ってくるなら兎も角、問題が起きてどうすれば良いかわからない。問題を解決する間だけ戻ってくれ。とお前のじいさんや親父さんが言ってきたことだ。一度は許せる。それにマスターは覚悟があっただろう。自分達一族を守るんじゃなく、社員や会社、そして取引のある会社に迷惑をかけてはいけないと」
「……!」
「でも、今度はダメだ。マスターはお前のじいさんや親父さんの操り人形じゃない。いくら優しいマスターにも自分の暮らしがあり、最愛の奥さんに生まれたばかりの息子がいる。しかも、じいさんはマスターが嫌がるなら息子を自分の息子の養子にするって言った……脅迫スレスレだ。マスターは元々そんなに弱い人じゃない。でも最愛の家族を取り上げるなんて言われて、納得できるか? 精神的にも追い詰められてただろう」
片方の手を巴の頭にやり、くしゃくしゃ撫でる。
「極端な話、お前に関係ないが、図々しいといえば図々しい。迷惑な話をお前のじいさんと親父さんは今、関わりのないマスターに押し付けようとした。だから雄洋は怒った。ここまでは解るか?」
「……はい……先輩。私たち家族が……おじ様に……」
「お前は抜きでな。マスターはお前なら笑って迎えてくれるさ」
「そうでしょうか……」
「あぁ……戻ってきたか? 雄洋」
戻ってきた雄洋は苦笑する。
「ごめん……。向こうでコーヒー飲んできた。本当にダメだね」
「俺より先にキレるって、珍しいな」
大輔はからかう。
すると、扉が開き、頭や手足に包帯を巻き点滴をした彰一が、寝台に横たわり出てくる。
目を閉じているのは、麻酔が効いているのだろうか。
「おじさん!」
「ご家族の方ですか? ガラスを全て抜き、傷の治療をしました。額の傷が深く縫っています」
「無事ですか……」
「今日はこのまま。明日MRIをします。最低でも数日検査入院です」
「分かりました」
「手続きをお願いできますか?」
雄洋はその場で別れ手続きに向かい、大輔と巴は病室につきそう。
夜中に他の人のいる大部屋にと言うのは駄目だろうと、個室に案内される。
「明日、荷物を持って遼さんか雄洋のお母さんは来てくれる。それまでギリギリまで付いていてあげようと思う。巴、タクシーに乗って帰ってくれるか?連れて来ておいて何だが」
「い、いえ、残ります」
巴はちょこまかと看護師さんに話を聞いては飲み物や、病院内にあるコンビニに行って必要なものを購入して来たのだった。
巴の声がする。
「も、もしかして、さっき運ばれたのは、おじ様ですか? 彰一おじ様」
「……俺たちがお世話になってるバーのマスター。粟飯原彰一さん。あまり言いたくないけど、巴の親族が押しかけて行って怪我をさせた。それに、お前の兄さんにお金をせびっていたらしい」
するとうなだれ、
「お、お兄様がある女の人と付き合っていて、子供ができたそうです。兄はすでに結婚していて、完全に不倫です。子供を堕してくれと頼んだとか。それを聞きつけた叔母達に脅されたんだと思います」
「自業自得だな」
「今、義姉さんともギクシャクしていて、不倫のことで会社でも孤立していて……」
「それこそ自業自得」
大輔はきっぱり言い捨てる。
「大会社の総帥の孫なんて、甘ったれるな。もっと自覚を持たないと。これじゃぁ、マスターの努力の意味がない」
「……ごめんなさい」
「おい、お前のことを言ってないぞ! 言ってるのはお前の兄貴にだ」
「二人とも、こっちで待とうか」
雄洋は空いていたベンチに腰を下ろす。
「お、おじ様は……」
「結婚して、最近赤ん坊が生まれて幸せそうだ。見るか?」
大輔はスマホを操作し写真を見せる。
泣く赤ん坊をあやす彰一、赤ん坊を抱きしめて、夫を見上げる遼。
「赤ちゃん可愛い……おじ様のこんな穏やかな顔、初めてです。前にお会いした時は、無表情でとても険しいお顔でした。解体しかけた財閥を必死に立て直して、元の数倍も収益が見込めるまで、家にも帰らず会社で寝泊まりしていたそうです」
「うえぇ……マスター。無茶すんなぁ……」
「おじ様はおじいさまが信頼する程の才覚がおありでした。お父さまも自分は追いつけないと、だからおじ様に帰ってきて欲しいのだと思います」
「帰って貰って、君の家は良いだろうね。自分達が起こした不祥事をまた、おじさんに尻拭いしてもらえて、のうのうと財閥のトップ一族でいられるんだから」
雄洋は皮肉げに言い放つ。
「それに、君のおじいさんはおじさんに言ったんだって。戻ってくれ。ダメならお前の息子を息子か孫の養子に引き取りたいって。君のおじいさんはおじさんを心配するふりして、おじさんが財閥に戻るか、この子を渡せと言いにきたんだよ」
「そ、そんな……」
「雄洋。きついこと言うなよ。巴は知らなかったんだ。それじゃただの八つ当たりだ」
「現場を見てないから言えるんだ!」
「雄洋!」
大輔が強い口調でたしなめる。
その声にバツの悪そうな顔になった雄洋は、
「……ごめん。八つ当たりだ。頭冷やしてくる……」
と、立ち上がり離れていった。
しばらく周囲はざわついているが、静かになる。
大輔は腕を上げ背伸びをすると、首の後ろで組んだ。
「……まぁ、雄洋は俺たちと違って、小さい頃から時々マスターに会ってたんだろう。雄洋の父さんはマスターの親友だから。だから余計に距離が近い。でも、俺もそうだけど、カッとなるのは良くないよな」
小さくなる巴を見る。
「あのさぁ、巴。雄洋はマスターを慕っているから……本当に、俺もそうだけどもう一人の親父みたいなもんで、カナダに転勤した森田は親父がいなくて、数年前お袋も逝ってるから、本当の親父のように思ってる。だから、こっちに戻ってきた時は必ずマスターに会いに行く。心の支えなんだ。でも、マスターが靫原の元総帥だからじゃなくて、マスターはマスターで、それ以上でもない」
「……」
「それにな? 雄洋が怒ったのは、普通に名前だけで良い戻って欲しい。お前が本当の当主だと言ってくるなら兎も角、問題が起きてどうすれば良いかわからない。問題を解決する間だけ戻ってくれ。とお前のじいさんや親父さんが言ってきたことだ。一度は許せる。それにマスターは覚悟があっただろう。自分達一族を守るんじゃなく、社員や会社、そして取引のある会社に迷惑をかけてはいけないと」
「……!」
「でも、今度はダメだ。マスターはお前のじいさんや親父さんの操り人形じゃない。いくら優しいマスターにも自分の暮らしがあり、最愛の奥さんに生まれたばかりの息子がいる。しかも、じいさんはマスターが嫌がるなら息子を自分の息子の養子にするって言った……脅迫スレスレだ。マスターは元々そんなに弱い人じゃない。でも最愛の家族を取り上げるなんて言われて、納得できるか? 精神的にも追い詰められてただろう」
片方の手を巴の頭にやり、くしゃくしゃ撫でる。
「極端な話、お前に関係ないが、図々しいといえば図々しい。迷惑な話をお前のじいさんと親父さんは今、関わりのないマスターに押し付けようとした。だから雄洋は怒った。ここまでは解るか?」
「……はい……先輩。私たち家族が……おじ様に……」
「お前は抜きでな。マスターはお前なら笑って迎えてくれるさ」
「そうでしょうか……」
「あぁ……戻ってきたか? 雄洋」
戻ってきた雄洋は苦笑する。
「ごめん……。向こうでコーヒー飲んできた。本当にダメだね」
「俺より先にキレるって、珍しいな」
大輔はからかう。
すると、扉が開き、頭や手足に包帯を巻き点滴をした彰一が、寝台に横たわり出てくる。
目を閉じているのは、麻酔が効いているのだろうか。
「おじさん!」
「ご家族の方ですか? ガラスを全て抜き、傷の治療をしました。額の傷が深く縫っています」
「無事ですか……」
「今日はこのまま。明日MRIをします。最低でも数日検査入院です」
「分かりました」
「手続きをお願いできますか?」
雄洋はその場で別れ手続きに向かい、大輔と巴は病室につきそう。
夜中に他の人のいる大部屋にと言うのは駄目だろうと、個室に案内される。
「明日、荷物を持って遼さんか雄洋のお母さんは来てくれる。それまでギリギリまで付いていてあげようと思う。巴、タクシーに乗って帰ってくれるか?連れて来ておいて何だが」
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