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第一章
「なんで先に逝っちまったのかね……」
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ベンヤミーンは、二番目の孫を一番近い部屋に連れて行き、周囲のものを下がらせる。
そして、近くに呼び寄せると、
「何があった。短く簡潔に言え」
と低く告げた。
「実は……」
気持ちを落ち着け、簡潔に説明する。
聞いていたベンヤミーンは、最愛の孫娘の身に起きた悲劇に息を呑んだ。
「スティファーリア……スティファーリアは!」
「……今はなんとか持ち直し、眠っておりますが……受けた忌まわしい仕打ちに、元気になったとしても再度命を絶つのではないかと……」
「……くぅぅっ! アルチョムとダグマルの親族郎等、全てツブせ!」
「ベンヤミーンさま。リリーはそのようなことを望む子ではありません。望むのは、きっとその噂が起きないこと……」
「そのようなこと、無理ではないか!」
一度広がった噂を消すことなど、無理。
それこそ、過去に戻るしかできない。
力なく首を振る祖父にカシュパルが、
「スラヴォミールが、スティファーリアが何かあったときに、甦りの魔法を使うことができると言いましたが、かなりの魔力が必要だそうです。それよりも遡りの魔法を完成させた。その魔法は甦りよりは少なくて済むと」
「……そうなのか?」
「私は専門外です。ですが、スラヴォミールが可愛いリリーのこのようなときに嘘をつくなんてしません。それ以上に、具体的にどれほどの人の力が必要か説明もしないでしょう」
「……何人の魔力と言ったのだ?」
ゆっくりと問いかける。
見つめ、覚悟を決めたように口を開いた。
「スティファーリアへ甦りの魔法を使う際は私たち家族全員と、当事者二人の命は最低必要のようです。遡りなら、当事者二人とスラヴォミールの魔力のようです」
「……俺の命を使え」
「いえ、ベンヤミーンさまは残り、私たち……スティファーリアの未来を見届けてくださいませ。私たち兄弟がどんな道に……存在すら無くなったとしても、あの子の未来が変わるのなら本望です。どうか、よろしくお願いします」
立ち上がると、深々と頭を下げる。
そのつむじをじっと見つめていたベンヤミーンは、
「……クソガキ。スラヴォミールに伝えろ。力を尽くせと」
「はい!」
「そして、マグダレーナに……アレを使え、と」
「アレ……ですか?」
顔をあげキョトンとするカシュパルの頭を拳で殴りつける。
「知らんでいい。言えばわかる。行ってこい!」
「イテテ! ベンヤミーンさま……ありがとうございました」
「……武運を祈る」
もう一度頭を下げ、思い切るように出て行った孫の、いつの間にかたくましくなった背を見送り、ベンヤミーンは舌打ちした。
「……本当に、腕っぷしのいい孫は一人もできなかったな……早くひ孫の顔を見せるかと思ったのに! ……戦場より過酷な場所に送り出すとは……オレも歳をとったもんだ」
首の後ろに腕を回し、ソファの背もたれに体を預けると天井を見上げた。
「……なんで先に逝っちまったのかね……お前らは……愚痴もいえねぇじゃねえか」
そして、近くに呼び寄せると、
「何があった。短く簡潔に言え」
と低く告げた。
「実は……」
気持ちを落ち着け、簡潔に説明する。
聞いていたベンヤミーンは、最愛の孫娘の身に起きた悲劇に息を呑んだ。
「スティファーリア……スティファーリアは!」
「……今はなんとか持ち直し、眠っておりますが……受けた忌まわしい仕打ちに、元気になったとしても再度命を絶つのではないかと……」
「……くぅぅっ! アルチョムとダグマルの親族郎等、全てツブせ!」
「ベンヤミーンさま。リリーはそのようなことを望む子ではありません。望むのは、きっとその噂が起きないこと……」
「そのようなこと、無理ではないか!」
一度広がった噂を消すことなど、無理。
それこそ、過去に戻るしかできない。
力なく首を振る祖父にカシュパルが、
「スラヴォミールが、スティファーリアが何かあったときに、甦りの魔法を使うことができると言いましたが、かなりの魔力が必要だそうです。それよりも遡りの魔法を完成させた。その魔法は甦りよりは少なくて済むと」
「……そうなのか?」
「私は専門外です。ですが、スラヴォミールが可愛いリリーのこのようなときに嘘をつくなんてしません。それ以上に、具体的にどれほどの人の力が必要か説明もしないでしょう」
「……何人の魔力と言ったのだ?」
ゆっくりと問いかける。
見つめ、覚悟を決めたように口を開いた。
「スティファーリアへ甦りの魔法を使う際は私たち家族全員と、当事者二人の命は最低必要のようです。遡りなら、当事者二人とスラヴォミールの魔力のようです」
「……俺の命を使え」
「いえ、ベンヤミーンさまは残り、私たち……スティファーリアの未来を見届けてくださいませ。私たち兄弟がどんな道に……存在すら無くなったとしても、あの子の未来が変わるのなら本望です。どうか、よろしくお願いします」
立ち上がると、深々と頭を下げる。
そのつむじをじっと見つめていたベンヤミーンは、
「……クソガキ。スラヴォミールに伝えろ。力を尽くせと」
「はい!」
「そして、マグダレーナに……アレを使え、と」
「アレ……ですか?」
顔をあげキョトンとするカシュパルの頭を拳で殴りつける。
「知らんでいい。言えばわかる。行ってこい!」
「イテテ! ベンヤミーンさま……ありがとうございました」
「……武運を祈る」
もう一度頭を下げ、思い切るように出て行った孫の、いつの間にかたくましくなった背を見送り、ベンヤミーンは舌打ちした。
「……本当に、腕っぷしのいい孫は一人もできなかったな……早くひ孫の顔を見せるかと思ったのに! ……戦場より過酷な場所に送り出すとは……オレも歳をとったもんだ」
首の後ろに腕を回し、ソファの背もたれに体を預けると天井を見上げた。
「……なんで先に逝っちまったのかね……お前らは……愚痴もいえねぇじゃねえか」
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