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第一章
魔法構築に時間がかかります。
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カシュパルが戻ってきても、マティアーシュとグスタフは戻ることはなかった。
最初はすぐ戻るだろうと楽観視していた三男のラディスラフだが、時間が過ぎるのが耐えきれず父親を見る。
「父上。何かあったのでしょうか?」
スラヴォミールの準備を見つめていたイェレミアーシュは静かに、
「……陛下に頼んでおいた。殿下とマティアーシュを頼むと。何かあっては国に関わる……お前たちの命を軽んじているわけではない……すまない」
「……お、俺は、父上がそんな風に思っていないことはわかってる!」
ラディスラフは首を振る。
「……兄上には生きて欲しい。俺たちが死んでも、スティファーリアのそばにマティ兄上やグスタフ兄上がいてくれるだけで……」
「言っとくけど、死ぬつもりないからね? ラディ兄さん。そんなチンケな魔法を構築したりしないし? 一応、アルチョム男爵とダグマル子爵令嬢の命と魔力だけじゃなく、来世に転生する力も頂く予定だから」
「はぁぁ? そこまでする気なのかい?」
末の弟の物騒な一言に、カシュパルはゾッとする。
スラヴォミールは男兄弟一細身で、二つ下の妹とさほど身長も変わらない上に、見た目は垂れ目で優男と言うよりも母親似の美少女に見える。
両親が他の息子たち同様、公爵家の男児としてマナーを教え込もうとしたのだが、二つ上のラディスラフが暴れん坊だったのに手こずった。
代わりに、スラヴォミール自身は生まれつき魔力過多で身体が弱かったのと、2つ下のスティファーリアと乳母が同じだったので、共に過ごすことが多かった。
スティファーリアも、おっとりとした優しい兄と遊んだり、同じことをしたがった。
可愛い妹の我儘にほだされたスラヴォミールは、出来る限り一緒にいて成長した。
……つまり、12歳になって学院に入学するまでは、妹とお揃いのドレスコードで生活し、マナーレッスンをしダンスを覚えた。
その為、ダンスはギリギリ男性側を覚えられたが、マナーは完璧に女性側のものだったりする。
喋り方もそのままだったので、学院に入った当初は同級生にからかわれたり笑われたりしたが、魔法と成績で黙らせた。
その当時の暴走から、魔法と妹のこと以外は頭に入らない『美貌の魔法狂』とも呼ばれている。
「当たり前でしょ? わたくしの可愛いリリーを苦しませたんだから。転生なんてさせるものですか。消滅よ消滅」
「……スラヴォミール。喋り方が戻ってるぞ」
「あぁ、カーシュ兄さん。喋り方程度で文句言わないで欲しいわ。わたくしは普通なのよ。喋り方とマナーをリリーと一緒に学んだだけじゃない」
口を開くとそう言われるのを、うんざりしているスラヴォミールである。
意識して喋る時は自分のことを『僕』と言い、長兄と従兄の喋り方を真似ているものの、普段言い慣れた喋り方ができないのは相当疲れるのである。
自分はオカマではなく、自由に生きているのだ。
こう言う時くらい許してもらいたい。
結婚はこの歳だし、兄たちも結婚していないしまだ考えていない。
まず、スティファーリアが無事戻ってきて、自分よりスティファーリアを大事に出来る女性で、自分のこの喋り方を気にしない人なら身分は問わずOKである。
一応言っておくが、同性を好きと言うわけでもない。
「本当に、億劫だわ……」
「お前が佇んでいるだけで、本当に男装の麗人に見えるな……母上とスティファーリアと並ぶと姉妹にしか見えない……」
「母様に似てるのがありがたいわ。父様に似たら……まぁ、マティ兄さんに似るかしらね? カーシュ兄さんは母様寄り」
「ラディは陛下や先代陛下に似てるものな」
「……戦闘狂は困る。俺は普通なんだ」
ラディスラフはボヤいた。
兄たちは次期宰相と若くして外交官として大陸を飛び回り、弟はあまり丈夫じゃないものの天才魔法使いで、可愛い妹がいる。
兄弟仲は悪くない。
いや、職場の近衛隊の同僚によると、ブレイハ家の兄弟仲は異様に良いらしい。
先日、こう言われた。
「ラディスラフ、お前、兄弟を妬んだりないのか?」
「はぁぁ? なんで?」
「お前の兄さんたちは次期宰相に若手外交官。弟は天才魔法使い。妹はまだ学生だけど、あの美貌に王太子殿下の妃最有力候補だろう?」
「普通だろ? ま、俺は平凡だけど。兄貴たちは優しいし、ミールもリリーも可愛いし」
自慢だな~。
と、特に弟妹を思い出し頬を緩める。
スラヴォミールは身体が弱くてよく熱を出していたが、最近は元気になって学院をトップの成績で卒業して魔法省に就職した。
スティファーリアは、素直で優しく可愛い。
「はぁ? 腹たたねぇの? お前ほっとかれたんだろ?」
「ほっとかれた? ないけど。ミールが身体が弱かったのは確かだけど、兄貴たちとグスタフ兄上……殿下が遊んでくれたし、両親も気遣ってくれたし。まぁ、兄貴たちと違って俺は馬鹿だからなぁ……」
「お前、欠点とか赤点だったのか?」
「はぁ? 普通に勉強してたら、そんな成績取らないだろ? でも、一位はとったことない。悪くて10位だ。じゃないと先代陛下にぶん殴られる」
そう……両親や兄妹は優しいが、怖かったのは祖父と伯父。
にっこり笑って時間を作ってマナーとダンスの講師となってくれたのは、伯母である王妃。
勉強は兄たちが見てくれたが、女性をエスコートするのは難しいと悩んでいたので、本当にありがたかった。
「あっ、今日は王妃様に呼ばれているんだ。悪い! シャワー浴びていかないと」
今日もマナーレッスンである。
元々ガサツだと理解している為、定期的に伯母ガブリエラに見てもらえてありがたい。
そそくさとシャワールームに向かうラディスラフを見送り、同僚たちは、
「アイツって絶対モテてるのに、あぁも家族ラブだったら結婚できないよな」
「シスコンだし、ブラコン。やばくないか?」
「だよな?」
「ホォ……近衛のクソガキどもは、仕事より他家の詮索か? 余裕だなぁ」
振り返った彼らは青ざめる。
立っていたのは先代陛下ベンヤミーン。
ちなみにラディスラフの祖父でもある。
「てめえら、これから、竜の森に行くぞ!」
「ひえぇぇ!」
断ることもできず、引きずられて行くのだった。
最初はすぐ戻るだろうと楽観視していた三男のラディスラフだが、時間が過ぎるのが耐えきれず父親を見る。
「父上。何かあったのでしょうか?」
スラヴォミールの準備を見つめていたイェレミアーシュは静かに、
「……陛下に頼んでおいた。殿下とマティアーシュを頼むと。何かあっては国に関わる……お前たちの命を軽んじているわけではない……すまない」
「……お、俺は、父上がそんな風に思っていないことはわかってる!」
ラディスラフは首を振る。
「……兄上には生きて欲しい。俺たちが死んでも、スティファーリアのそばにマティ兄上やグスタフ兄上がいてくれるだけで……」
「言っとくけど、死ぬつもりないからね? ラディ兄さん。そんなチンケな魔法を構築したりしないし? 一応、アルチョム男爵とダグマル子爵令嬢の命と魔力だけじゃなく、来世に転生する力も頂く予定だから」
「はぁぁ? そこまでする気なのかい?」
末の弟の物騒な一言に、カシュパルはゾッとする。
スラヴォミールは男兄弟一細身で、二つ下の妹とさほど身長も変わらない上に、見た目は垂れ目で優男と言うよりも母親似の美少女に見える。
両親が他の息子たち同様、公爵家の男児としてマナーを教え込もうとしたのだが、二つ上のラディスラフが暴れん坊だったのに手こずった。
代わりに、スラヴォミール自身は生まれつき魔力過多で身体が弱かったのと、2つ下のスティファーリアと乳母が同じだったので、共に過ごすことが多かった。
スティファーリアも、おっとりとした優しい兄と遊んだり、同じことをしたがった。
可愛い妹の我儘にほだされたスラヴォミールは、出来る限り一緒にいて成長した。
……つまり、12歳になって学院に入学するまでは、妹とお揃いのドレスコードで生活し、マナーレッスンをしダンスを覚えた。
その為、ダンスはギリギリ男性側を覚えられたが、マナーは完璧に女性側のものだったりする。
喋り方もそのままだったので、学院に入った当初は同級生にからかわれたり笑われたりしたが、魔法と成績で黙らせた。
その当時の暴走から、魔法と妹のこと以外は頭に入らない『美貌の魔法狂』とも呼ばれている。
「当たり前でしょ? わたくしの可愛いリリーを苦しませたんだから。転生なんてさせるものですか。消滅よ消滅」
「……スラヴォミール。喋り方が戻ってるぞ」
「あぁ、カーシュ兄さん。喋り方程度で文句言わないで欲しいわ。わたくしは普通なのよ。喋り方とマナーをリリーと一緒に学んだだけじゃない」
口を開くとそう言われるのを、うんざりしているスラヴォミールである。
意識して喋る時は自分のことを『僕』と言い、長兄と従兄の喋り方を真似ているものの、普段言い慣れた喋り方ができないのは相当疲れるのである。
自分はオカマではなく、自由に生きているのだ。
こう言う時くらい許してもらいたい。
結婚はこの歳だし、兄たちも結婚していないしまだ考えていない。
まず、スティファーリアが無事戻ってきて、自分よりスティファーリアを大事に出来る女性で、自分のこの喋り方を気にしない人なら身分は問わずOKである。
一応言っておくが、同性を好きと言うわけでもない。
「本当に、億劫だわ……」
「お前が佇んでいるだけで、本当に男装の麗人に見えるな……母上とスティファーリアと並ぶと姉妹にしか見えない……」
「母様に似てるのがありがたいわ。父様に似たら……まぁ、マティ兄さんに似るかしらね? カーシュ兄さんは母様寄り」
「ラディは陛下や先代陛下に似てるものな」
「……戦闘狂は困る。俺は普通なんだ」
ラディスラフはボヤいた。
兄たちは次期宰相と若くして外交官として大陸を飛び回り、弟はあまり丈夫じゃないものの天才魔法使いで、可愛い妹がいる。
兄弟仲は悪くない。
いや、職場の近衛隊の同僚によると、ブレイハ家の兄弟仲は異様に良いらしい。
先日、こう言われた。
「ラディスラフ、お前、兄弟を妬んだりないのか?」
「はぁぁ? なんで?」
「お前の兄さんたちは次期宰相に若手外交官。弟は天才魔法使い。妹はまだ学生だけど、あの美貌に王太子殿下の妃最有力候補だろう?」
「普通だろ? ま、俺は平凡だけど。兄貴たちは優しいし、ミールもリリーも可愛いし」
自慢だな~。
と、特に弟妹を思い出し頬を緩める。
スラヴォミールは身体が弱くてよく熱を出していたが、最近は元気になって学院をトップの成績で卒業して魔法省に就職した。
スティファーリアは、素直で優しく可愛い。
「はぁ? 腹たたねぇの? お前ほっとかれたんだろ?」
「ほっとかれた? ないけど。ミールが身体が弱かったのは確かだけど、兄貴たちとグスタフ兄上……殿下が遊んでくれたし、両親も気遣ってくれたし。まぁ、兄貴たちと違って俺は馬鹿だからなぁ……」
「お前、欠点とか赤点だったのか?」
「はぁ? 普通に勉強してたら、そんな成績取らないだろ? でも、一位はとったことない。悪くて10位だ。じゃないと先代陛下にぶん殴られる」
そう……両親や兄妹は優しいが、怖かったのは祖父と伯父。
にっこり笑って時間を作ってマナーとダンスの講師となってくれたのは、伯母である王妃。
勉強は兄たちが見てくれたが、女性をエスコートするのは難しいと悩んでいたので、本当にありがたかった。
「あっ、今日は王妃様に呼ばれているんだ。悪い! シャワー浴びていかないと」
今日もマナーレッスンである。
元々ガサツだと理解している為、定期的に伯母ガブリエラに見てもらえてありがたい。
そそくさとシャワールームに向かうラディスラフを見送り、同僚たちは、
「アイツって絶対モテてるのに、あぁも家族ラブだったら結婚できないよな」
「シスコンだし、ブラコン。やばくないか?」
「だよな?」
「ホォ……近衛のクソガキどもは、仕事より他家の詮索か? 余裕だなぁ」
振り返った彼らは青ざめる。
立っていたのは先代陛下ベンヤミーン。
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