絶対に可愛い妹をバッドエンドから取り戻す。

刹那玻璃

文字の大きさ
10 / 26
第一章

魔法構築に時間がかかります。

しおりを挟む
 カシュパルが戻ってきても、マティアーシュとグスタフは戻ることはなかった。

 最初はすぐ戻るだろうと楽観視していた三男のラディスラフだが、時間が過ぎるのが耐えきれず父親を見る。

「父上。何かあったのでしょうか?」

 スラヴォミールの準備を見つめていたイェレミアーシュは静かに、

「……陛下に頼んでおいた。殿下とマティアーシュを頼むと。何かあっては国に関わる……お前たちの命を軽んじているわけではない……すまない」
「……お、俺は、父上がそんな風に思っていないことはわかってる!」

ラディスラフは首を振る。

「……兄上には生きて欲しい。俺たちが死んでも、スティファーリアのそばにマティ兄上やグスタフ兄上がいてくれるだけで……」
「言っとくけど、死ぬつもりないからね? ラディ兄さん。そんなチンケな魔法を構築したりしないし? 一応、アルチョム男爵とダグマル子爵令嬢の命と魔力だけじゃなく、来世に転生する力も頂く予定だから」
「はぁぁ? そこまでする気なのかい?」

 末の弟の物騒な一言に、カシュパルはゾッとする。



 スラヴォミールは男兄弟一細身で、二つ下の妹とさほど身長も変わらない上に、見た目は垂れ目で優男と言うよりも母親似の美少女に見える。
 両親が他の息子たち同様、公爵家の男児としてマナーを教え込もうとしたのだが、二つ上のラディスラフが暴れん坊だったのに手こずった。
 代わりに、スラヴォミール自身は生まれつき魔力過多で身体が弱かったのと、2つ下のスティファーリアと乳母が同じだったので、共に過ごすことが多かった。
 スティファーリアも、おっとりとした優しい兄と遊んだり、同じことをしたがった。
 可愛い妹の我儘にほだされたスラヴォミールは、出来る限り一緒にいて成長した。

 ……つまり、12歳になって学院に入学するまでは、妹とお揃いのドレスコードで生活し、マナーレッスンをしダンスを覚えた。
 その為、ダンスはギリギリ男性側を覚えられたが、マナーは完璧に女性側のものだったりする。
 喋り方もそのままだったので、学院に入った当初は同級生にからかわれたり笑われたりしたが、魔法と成績で黙らせた。



 その当時の暴走から、魔法と妹のこと以外は頭に入らない『美貌の魔法狂』とも呼ばれている。

「当たり前でしょ? わたくしの可愛いリリーを苦しませたんだから。転生なんてさせるものですか。消滅よ消滅」
「……スラヴォミール。喋り方が戻ってるぞ」
「あぁ、カーシュ兄さん。喋り方程度で文句言わないで欲しいわ。わたくしは普通なのよ。喋り方とマナーをリリーと一緒に学んだだけじゃない」

 口を開くとそう言われるのを、うんざりしているスラヴォミールである。

 意識して喋る時は自分のことを『僕』と言い、長兄と従兄の喋り方を真似ているものの、普段言い慣れた喋り方ができないのは相当疲れるのである。
 自分はオカマではなく、自由に生きているのだ。
 こう言う時くらい許してもらいたい。

 結婚はこの歳だし、兄たちも結婚していないしまだ考えていない。
 まず、スティファーリアが無事戻ってきて、自分よりスティファーリアを大事に出来る女性で、自分のこの喋り方を気にしない人なら身分は問わずOKである。

 一応言っておくが、同性を好きと言うわけでもない。



「本当に、億劫だわ……」
「お前が佇んでいるだけで、本当に男装の麗人に見えるな……母上とスティファーリアと並ぶと姉妹にしか見えない……」
「母様に似てるのがありがたいわ。父様に似たら……まぁ、マティ兄さんに似るかしらね? カーシュ兄さんは母様寄り」
「ラディは陛下や先代陛下に似てるものな」
「……戦闘狂は困る。俺は普通なんだ」

 ラディスラフはボヤいた。



 兄たちは次期宰相と若くして外交官として大陸を飛び回り、弟はあまり丈夫じゃないものの天才魔法使いで、可愛い妹がいる。
 兄弟仲は悪くない。

 いや、職場の近衛隊の同僚によると、ブレイハ家の兄弟仲は異様に良いらしい。



 先日、こう言われた。

「ラディスラフ、お前、兄弟を妬んだりないのか?」
「はぁぁ? なんで?」
「お前の兄さんたちは次期宰相に若手外交官。弟は天才魔法使い。妹はまだ学生だけど、あの美貌に王太子殿下の妃最有力候補だろう?」
「普通だろ? ま、俺は平凡だけど。兄貴たちは優しいし、ミールもリリーも可愛いし」

 自慢だな~。

と、特に弟妹を思い出し頬を緩める。



 スラヴォミールは身体が弱くてよく熱を出していたが、最近は元気になって学院をトップの成績で卒業して魔法省に就職した。
 スティファーリアは、素直で優しく可愛い。

「はぁ? 腹たたねぇの? お前ほっとかれたんだろ?」
「ほっとかれた? ないけど。ミールが身体が弱かったのは確かだけど、兄貴たちとグスタフ兄上……殿下が遊んでくれたし、両親も気遣ってくれたし。まぁ、兄貴たちと違って俺は馬鹿だからなぁ……」
「お前、欠点とか赤点だったのか?」
「はぁ? 普通に勉強してたら、そんな成績取らないだろ? でも、一位はとったことない。悪くて10位だ。じゃないと先代陛下にぶん殴られる」

 そう……両親や兄妹は優しいが、怖かったのは祖父と伯父。

 にっこり笑って時間を作ってマナーとダンスの講師となってくれたのは、伯母である王妃。
 勉強は兄たちが見てくれたが、女性をエスコートするのは難しいと悩んでいたので、本当にありがたかった。

「あっ、今日は王妃様に呼ばれているんだ。悪い! シャワー浴びていかないと」

 今日もマナーレッスンである。
 元々ガサツだと理解している為、定期的に伯母ガブリエラに見てもらえてありがたい。



 そそくさとシャワールームに向かうラディスラフを見送り、同僚たちは、

「アイツって絶対モテてるのに、あぁも家族ラブだったら結婚できないよな」
「シスコンだし、ブラコン。やばくないか?」
「だよな?」
「ホォ……近衛のクソガキどもは、仕事より他家の詮索か? 余裕だなぁ」

振り返った彼らは青ざめる。

 立っていたのは先代陛下ベンヤミーン。
 ちなみにラディスラフの祖父でもある。

「てめえら、これから、竜の森に行くぞ!」
「ひえぇぇ!」

 断ることもできず、引きずられて行くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...