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第二章
成長していく。
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2ヶ月後マグダレーナが出産したのは、ぱっちりとしたお目目の女の子……スティファーリア。
スラヴォミールは小さかったが、スティファーリアは顔立ちの整った可愛らしい女の子で、顔を見に来たグスタフが、
「可愛い! 連れて帰る!」
と言い出し、騒動になったのは繰り返していたものの困ったものだとため息をつく者もいたとかいなかったとか……。
「マグダレーナさまの赤ちゃん、生まれたんですか?」
この日、祖父とともに時々訪ねてきたツィリルは、一緒に遊んでくれていたラディスラフに問いかける。
「あぁ。女の子だぞ。スティファーリアって言うんだ」
「……そうなのですか……ボクにも妹が生まれました。でも、とーさまもかーさまも妹ばかりでボクと遊んでくれないです……」
小さな拳を握りしめ、俯く。
「そっか……寂しいなぁ」
「とーさまが、お兄ちゃんだから我慢しろって叩くんです。かーさまも……」
赤くなった手の甲をもう一方の手で隠しながら、肩を震わせ泣き出すツィリルを抱きしめる。
「大丈夫だぞ? ツィリルは悪くないぞ! それに、ツィリルをいじめる家族なんて気にするな! うちにいればいいんだ」
「あら……どうしたの?」
四輪の赤ん坊が眠ったまま移動できる乳母車が、ナニーに押されてゆっくり近づいてくる。
その後ろから、マグダレーナに手を引かれたスラヴォミールが歩いてきた。
「あ、ラディにー、ツィリル!」
スラヴォミールは10日ほど前に熱を出し、下がったもののしばらく外出禁止となり、遊びに来ていたツィリルと会えなかった。
「どしたの?」
「……大丈夫!」
涙をぬぐい、笑顔を作る。
「ミール、元気になった?」
「うん!」
「じゃぁ、遊ぼ?」
「うん!」
手を握り歩き出す二人に、ナニーが、
「スラヴォミールさま、ツィリルさま? 待ってくださいね?」
「ゆっくりでいいわよ? それに二人をお願いね?」
「はい。奥さま」
スティファーリアの乳母車を決まった場所に留めると、マグダレーナとラディスラフに頭を下げて二人の後を追いかける。
「ラディスラフがツィリルをいじめることはないと思うけれど、あの手の甲はどうしたのかしら?」
「父親に叩かれたみたいです。向こうにもグラフィーラが生まれたのでしょう? 前からツィリルは両親のことは余り言わなかったですけど、寂しいんでしょうね」
「子爵さまもおっしゃられていたわ。ここにくるのが楽しそうだと。それに、子爵さまは領地に行かなくてはならないけれど、ツィリルを連れて行こうかとも」
「ここで預かるのはダメなんでしょうか? 子爵のおじいさまもお忙しいでしょう?」
ラディスラフは下の妹に手を伸ばしながら、母を見上げる。
「そうね……旦那様に相談しましょうか……あぁ、ありがとう」
メイドが準備していたハーブティーをテーブルに置いていく。
ラディスラフにはジュースである。
マナーレッスンではティーカップで練習しているが、まだまだ味はわからない。
「母様。ボクは大人びてるって本当ですか?」
「そうね……マティアーシュやカシュパルほどではないけれど……賢いわね」
「……でも、ボクより年下のツィリルも大人びてますよ?」
「……そうね」
マグダレーナは、今世では深く関わるようになったツィリルがとても我慢しているのだとわかっていた。
時々羨ましそうにマグダレーナの子供たちを見ていた。
それにまだ3歳だと言うのに、聞き分けもいい。
子爵も、
「息子たちは贅沢と自分たち以外に関心がないのですよ。領地に目を向けることもないですし、ツィリルのことも放置しているくらいです。もう、息子に跡は継いで欲しくない。私がツィリルを育て、直接継がせようと思っています。あの理解しない馬鹿に育てられるより、私が愛情を持って育てた方がましでしょう」
と眉を寄せ辛そうに何度か洩らしていた。
「そうね……スラヴォミールが傷を癒していると思うけれど、傷薬を用意しておきましょう」
メイドの一人に頼むと、ハーブティーを一口口にしたのだった。
スラヴォミールは小さかったが、スティファーリアは顔立ちの整った可愛らしい女の子で、顔を見に来たグスタフが、
「可愛い! 連れて帰る!」
と言い出し、騒動になったのは繰り返していたものの困ったものだとため息をつく者もいたとかいなかったとか……。
「マグダレーナさまの赤ちゃん、生まれたんですか?」
この日、祖父とともに時々訪ねてきたツィリルは、一緒に遊んでくれていたラディスラフに問いかける。
「あぁ。女の子だぞ。スティファーリアって言うんだ」
「……そうなのですか……ボクにも妹が生まれました。でも、とーさまもかーさまも妹ばかりでボクと遊んでくれないです……」
小さな拳を握りしめ、俯く。
「そっか……寂しいなぁ」
「とーさまが、お兄ちゃんだから我慢しろって叩くんです。かーさまも……」
赤くなった手の甲をもう一方の手で隠しながら、肩を震わせ泣き出すツィリルを抱きしめる。
「大丈夫だぞ? ツィリルは悪くないぞ! それに、ツィリルをいじめる家族なんて気にするな! うちにいればいいんだ」
「あら……どうしたの?」
四輪の赤ん坊が眠ったまま移動できる乳母車が、ナニーに押されてゆっくり近づいてくる。
その後ろから、マグダレーナに手を引かれたスラヴォミールが歩いてきた。
「あ、ラディにー、ツィリル!」
スラヴォミールは10日ほど前に熱を出し、下がったもののしばらく外出禁止となり、遊びに来ていたツィリルと会えなかった。
「どしたの?」
「……大丈夫!」
涙をぬぐい、笑顔を作る。
「ミール、元気になった?」
「うん!」
「じゃぁ、遊ぼ?」
「うん!」
手を握り歩き出す二人に、ナニーが、
「スラヴォミールさま、ツィリルさま? 待ってくださいね?」
「ゆっくりでいいわよ? それに二人をお願いね?」
「はい。奥さま」
スティファーリアの乳母車を決まった場所に留めると、マグダレーナとラディスラフに頭を下げて二人の後を追いかける。
「ラディスラフがツィリルをいじめることはないと思うけれど、あの手の甲はどうしたのかしら?」
「父親に叩かれたみたいです。向こうにもグラフィーラが生まれたのでしょう? 前からツィリルは両親のことは余り言わなかったですけど、寂しいんでしょうね」
「子爵さまもおっしゃられていたわ。ここにくるのが楽しそうだと。それに、子爵さまは領地に行かなくてはならないけれど、ツィリルを連れて行こうかとも」
「ここで預かるのはダメなんでしょうか? 子爵のおじいさまもお忙しいでしょう?」
ラディスラフは下の妹に手を伸ばしながら、母を見上げる。
「そうね……旦那様に相談しましょうか……あぁ、ありがとう」
メイドが準備していたハーブティーをテーブルに置いていく。
ラディスラフにはジュースである。
マナーレッスンではティーカップで練習しているが、まだまだ味はわからない。
「母様。ボクは大人びてるって本当ですか?」
「そうね……マティアーシュやカシュパルほどではないけれど……賢いわね」
「……でも、ボクより年下のツィリルも大人びてますよ?」
「……そうね」
マグダレーナは、今世では深く関わるようになったツィリルがとても我慢しているのだとわかっていた。
時々羨ましそうにマグダレーナの子供たちを見ていた。
それにまだ3歳だと言うのに、聞き分けもいい。
子爵も、
「息子たちは贅沢と自分たち以外に関心がないのですよ。領地に目を向けることもないですし、ツィリルのことも放置しているくらいです。もう、息子に跡は継いで欲しくない。私がツィリルを育て、直接継がせようと思っています。あの理解しない馬鹿に育てられるより、私が愛情を持って育てた方がましでしょう」
と眉を寄せ辛そうに何度か洩らしていた。
「そうね……スラヴォミールが傷を癒していると思うけれど、傷薬を用意しておきましょう」
メイドの一人に頼むと、ハーブティーを一口口にしたのだった。
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