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第二章
時が巻き戻っても変わらないものは変わらないようです。
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スラヴォミールとスティファーリアの手を引いて散歩していたツィリルは、姿を見せた少女に顔をしかめる。
ブレイハ公爵家の庭だというのに、花を引きちぎり、踏みにじる見知らぬ少女……。
「誰? 君は?」
二人を庇うように一歩前に立ち、問いかける。
「ふんっ! なんだって良いでしょ?」
「やめて! 庭師のおじいさまと兄さまたちと姉さまとで、一緒に育てたのに!」
半泣きで訴えるスティファーリアをチラッとみた、目のつり上がった少女は、
「ふーん、あんた、この家の侍女の子?」
「何を言ってるの? わたくしたちは、この家……ブレイハ公爵家の長女と次女。人の家で何をしているの?」
フード付きマントのスラヴォミールは睨み付ける。
スラヴォミールは人見知りもあるものの、妹よりも肌が白いため、日焼けすると熱を出すことが最近わかり、外に出るときにはフードをかぶるようにしている。
「うわっ、この時期にフードをかぶるなんて、きもっ。きっとあんた、ブサイクだからそんな格好してるのね?」
「わたくしより年下で、厚化粧よりマシよ。わたくしたちは日焼けしないようにかぶっているだけだもの」
可愛い妹も余り日焼けしないようにフードを直しながら、毒を吐く。
「何ですって! ブス!」
「貴方よりも心も顔も美しくてよ? 誰か? わたくしたちの大切にしてきた庭を荒らし、わたくしたちに暴言を吐いた、この不心得ものを追い出しなさい」
スラヴォミールは侍従をチラッとみた。
「かしこまりました」
「な、何よ! わたくしは、ダグマル子爵令嬢なのよ! 子爵令嬢を勝手に追い出して良いの?」
「あら? ツィリル。貴方のおじいさまに、こんな歳の娘さんなんていたかしら?」
スラヴォミールは、ひょろっとした幼なじみ兼最近婚約が内定したツィリルを見る。
「こんな叔母上はいないよ? おじいさまはお嫁に出した叔母上は二人いるけれど、そのお家にはボクと同じくらいの従兄弟たちがいるくらい。ほら、時々会いに来るでしょう?」
「あぁ、確か、美しい織物とか贈ってくださるバレンティン伯爵夫人と、鉱石や植物から染料を生み出すヴィシー子爵夫人ね? 前に一緒に染め物をさせていただいたわ」
「わたくしもお手伝いしました! ねっ? ツィー兄さま」
「リリーは上手だったね」
ツィリルは可愛い妹に言葉をかける。
「あっ、わたくしは? わたくしも頑張りましたもの!」
「ミールはちょっとムラがあったけど、それはそれで模様みたいで綺麗だったよね?」
「えへへ」
大好きなツィリルに頭を撫でてもらい、二人は笑顔になる。
「ふんっ! 何よ! あんたたち、それより、わたくしのお兄様を呼びなさいよ!」
「お兄様?」
ツィリルは首を傾げる。
「ボクのおじいさまには、君のような子供はいないよ」
「ツ……つりるって」
「そんな名前の子供もいない。嘘を言うと本当に捕まえてもらうからね? みんなお願い」
「はい」
今度こそ3人の侍従たちによって少女は追い出される。
最後まで暴れて暴言を吐き大変だったらしいが、もう二度と入れないようにと表門裏門の門番にも頼んでおいたといわれ、ツィリルは微笑む。
「ありがとう。お疲れ様。あ、ハーブティと3人で作ったクッキー食べよう?」
「いつもありがとうございます」
ツィリルには公爵家の子息たちと同じ3人の侍従兼幼馴染みがいる。
3人とも公爵家に縁のある騎士だったり文官の家の男爵家や子爵家の次男、三男坊だったりするのだが、ツィリルは温厚で同世代の少年たちに威張ることも、逆に卑屈になることもなく遊んだり一緒に剣の稽古をしていた。
「ツィリル。さっきの女の子、知ってる?」
探るように問いかける幼なじみに、渋い顔をしたツィリルは、
「……多分、妹。でも、聞いたんだけど、弁護士を通じて向こうにおじいさまが持っていた男爵位を渡して縁を切って、もう二度とボクとおじいさまに近づかないようにって言ってるはずなんだ。今日、おじいさまとブレイハの父上、母上が帰ってこられたら相談しようと思う」
「その方がいいよ」
「うん!」
未来の侍従候補で、幼なじみたちは頷く。
もう数年、一緒に遊んだ仲である。
大親友のツィリルに近づく者は容赦しないよう、公爵家からも親からも言いつけられている。
この後、親や公爵たちに言いに行こうと思っている。
「ありがとう。みんな。今日は余り遊べないけど、また明日遊ぼうよ」
「うん!」
今日は遊ぶからお茶会になったが、6人で楽しく過ごせたとほっとしたのだった。
そして、3人はちゃんと父親や公爵家の執事たちにも、伝えておいたのだった。
後日、ダグマル子爵とブレイハ公爵から、ダグマル男爵家に書状が届き、
『そちらのグラフィーラ嬢が家に侵入して、庭を荒らし、ブレイハ公爵令嬢たちに暴言を吐いた。次にこのようなことがあったら、国王陛下に申し上げる。そして、グラフィーラ嬢には兄はいないはず。何故、ブレイハ家に探しにきたのか問いたい。明日、男爵一人で下記の場所に来られたし』
等々書かれてあったらしい。
そして、翌日、妻と娘を引き連れた男爵に、
「男爵一人で来いと書いていたのに!」
「約束を守らない人間など信用できない!」
と厳しく断じて追い返したのは、ブレイハ公爵夫人と次男だった。
ブレイハ公爵家の庭だというのに、花を引きちぎり、踏みにじる見知らぬ少女……。
「誰? 君は?」
二人を庇うように一歩前に立ち、問いかける。
「ふんっ! なんだって良いでしょ?」
「やめて! 庭師のおじいさまと兄さまたちと姉さまとで、一緒に育てたのに!」
半泣きで訴えるスティファーリアをチラッとみた、目のつり上がった少女は、
「ふーん、あんた、この家の侍女の子?」
「何を言ってるの? わたくしたちは、この家……ブレイハ公爵家の長女と次女。人の家で何をしているの?」
フード付きマントのスラヴォミールは睨み付ける。
スラヴォミールは人見知りもあるものの、妹よりも肌が白いため、日焼けすると熱を出すことが最近わかり、外に出るときにはフードをかぶるようにしている。
「うわっ、この時期にフードをかぶるなんて、きもっ。きっとあんた、ブサイクだからそんな格好してるのね?」
「わたくしより年下で、厚化粧よりマシよ。わたくしたちは日焼けしないようにかぶっているだけだもの」
可愛い妹も余り日焼けしないようにフードを直しながら、毒を吐く。
「何ですって! ブス!」
「貴方よりも心も顔も美しくてよ? 誰か? わたくしたちの大切にしてきた庭を荒らし、わたくしたちに暴言を吐いた、この不心得ものを追い出しなさい」
スラヴォミールは侍従をチラッとみた。
「かしこまりました」
「な、何よ! わたくしは、ダグマル子爵令嬢なのよ! 子爵令嬢を勝手に追い出して良いの?」
「あら? ツィリル。貴方のおじいさまに、こんな歳の娘さんなんていたかしら?」
スラヴォミールは、ひょろっとした幼なじみ兼最近婚約が内定したツィリルを見る。
「こんな叔母上はいないよ? おじいさまはお嫁に出した叔母上は二人いるけれど、そのお家にはボクと同じくらいの従兄弟たちがいるくらい。ほら、時々会いに来るでしょう?」
「あぁ、確か、美しい織物とか贈ってくださるバレンティン伯爵夫人と、鉱石や植物から染料を生み出すヴィシー子爵夫人ね? 前に一緒に染め物をさせていただいたわ」
「わたくしもお手伝いしました! ねっ? ツィー兄さま」
「リリーは上手だったね」
ツィリルは可愛い妹に言葉をかける。
「あっ、わたくしは? わたくしも頑張りましたもの!」
「ミールはちょっとムラがあったけど、それはそれで模様みたいで綺麗だったよね?」
「えへへ」
大好きなツィリルに頭を撫でてもらい、二人は笑顔になる。
「ふんっ! 何よ! あんたたち、それより、わたくしのお兄様を呼びなさいよ!」
「お兄様?」
ツィリルは首を傾げる。
「ボクのおじいさまには、君のような子供はいないよ」
「ツ……つりるって」
「そんな名前の子供もいない。嘘を言うと本当に捕まえてもらうからね? みんなお願い」
「はい」
今度こそ3人の侍従たちによって少女は追い出される。
最後まで暴れて暴言を吐き大変だったらしいが、もう二度と入れないようにと表門裏門の門番にも頼んでおいたといわれ、ツィリルは微笑む。
「ありがとう。お疲れ様。あ、ハーブティと3人で作ったクッキー食べよう?」
「いつもありがとうございます」
ツィリルには公爵家の子息たちと同じ3人の侍従兼幼馴染みがいる。
3人とも公爵家に縁のある騎士だったり文官の家の男爵家や子爵家の次男、三男坊だったりするのだが、ツィリルは温厚で同世代の少年たちに威張ることも、逆に卑屈になることもなく遊んだり一緒に剣の稽古をしていた。
「ツィリル。さっきの女の子、知ってる?」
探るように問いかける幼なじみに、渋い顔をしたツィリルは、
「……多分、妹。でも、聞いたんだけど、弁護士を通じて向こうにおじいさまが持っていた男爵位を渡して縁を切って、もう二度とボクとおじいさまに近づかないようにって言ってるはずなんだ。今日、おじいさまとブレイハの父上、母上が帰ってこられたら相談しようと思う」
「その方がいいよ」
「うん!」
未来の侍従候補で、幼なじみたちは頷く。
もう数年、一緒に遊んだ仲である。
大親友のツィリルに近づく者は容赦しないよう、公爵家からも親からも言いつけられている。
この後、親や公爵たちに言いに行こうと思っている。
「ありがとう。みんな。今日は余り遊べないけど、また明日遊ぼうよ」
「うん!」
今日は遊ぶからお茶会になったが、6人で楽しく過ごせたとほっとしたのだった。
そして、3人はちゃんと父親や公爵家の執事たちにも、伝えておいたのだった。
後日、ダグマル子爵とブレイハ公爵から、ダグマル男爵家に書状が届き、
『そちらのグラフィーラ嬢が家に侵入して、庭を荒らし、ブレイハ公爵令嬢たちに暴言を吐いた。次にこのようなことがあったら、国王陛下に申し上げる。そして、グラフィーラ嬢には兄はいないはず。何故、ブレイハ家に探しにきたのか問いたい。明日、男爵一人で下記の場所に来られたし』
等々書かれてあったらしい。
そして、翌日、妻と娘を引き連れた男爵に、
「男爵一人で来いと書いていたのに!」
「約束を守らない人間など信用できない!」
と厳しく断じて追い返したのは、ブレイハ公爵夫人と次男だった。
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