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緑の精霊王と紅の狼
過去と現在
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大好きだったシュークリームを食べ切るよりも、泣くだけで精一杯だったティアは、いつの間にか寝入っていた。
そして、いつになく全身のだるさやひどく重苦しい息のし辛い感じに、薄く目を開けた。
泣きすぎたせいか?
それにしても、なぜ腕が持ち上がらないのと、頭を殴られた後のような痛みが続いているのだろうか?
首を動かそうとするものの目眩がひどく、ゆっくり、ただ眼球を動かし、周囲を確認する。
「エ……」
エレナの名前を呼ぼうとしたものの、声が掠れ、その後咳が続く。
どうしたのだろう……。
「大丈夫? 琥珀ちゃん」
冷たい手が、燃えるようなティアの手を握ってくれる。
汗ばんだ手を冷やしてくれるその冷たさにホッとし、ゆっくりと彷徨わせた目で、再会した恩人を見つける。
見た目はほっそりとしていて頼りなげな少年だが、手は大きく角張っている。
「……リー……」
「うん、なあに? 琥珀ちゃん」
「エ、レナ……」
「大丈夫。隣の部屋で寝てるよ? ここは僕の弟の屋敷で、馬車で言ってた目的地だからね?」
「目的地……」
言葉を繰り返すと、ちろっと唇を舐める。
思ったよりも喉がカラカラな上に、声が出ない。
「あぁ、喉渇いた? 冷たいの飲める?」
「……うん」
身体を起こしてもらい、適度に冷えた飲み物を口にする。
ひんやりとしたそれは、喉を通るとスッとした感覚になり、熱っぽくひりついた喉を潤してくれる。
「もう少し飲める? 一応ほんの少し薬を混ぜてるから、飲めるだけ飲もう」
「……お薬苦いもん、嫌い……」
イヤイヤと顔を顰め首を振る。
熱のせいか、いつもなら絶対言わない我儘や文句が口につくが、クスクス笑う。
「大丈夫だよ。琥珀ちゃん。これは、苦いのじゃないよ。昔飲んだことある、ベリーミントの喉に効く飲み薬。ちょっとスーッてするのだよ。昔うがいの時に使ってたのとおんなじ味」
「……あんまりよく覚えてない……」
「そうだねぇ……もう9年も前だもんね。じゃぁ、冷たいゼリー食べる?」
「ゼリー……」
「うん。オランの実の入ったの。琥珀ちゃん大好きでしょ?」
冷やした薬湯の代わりにリーが取り出したのは、小さなガラスの器に入ったお菓子。
スプーンですくった一口をティアに食べさせる。
「ひやひや……つるんって消えた……」
「うん、昔は少し硬く作ってたけど、今日は口に入れやすく作りました。僕が」
「僕……リーが、作ったの?」
二口目を口に入れてあげつつ、リーはニコニコと話し始める。
「そうだよ~一応僕は料理も大好きなんだ。ちなみに昔のあの発掘時代の料理のレシピは元々僕が作ってたのをミリアムやビリー達が覚えて作りだしたんだよ。あの頃の料理は元々僕が若い頃に海の向こうの国にいた時に教わったものでね? それをこっちで手に入れられる食材やスパイスで作れるようにしたものだから、あんまりこの辺じゃ食べられない料理も多いかもね」
「……そういえば、今まで住んでいた城だったら、硬い干し肉みたいな肉料理と、しなびた野菜に固い黒パンしか出なかった。何とか食べられるのはスープに浸したパンくらい……」
「あぁ、あそこの地域って肉は塩を山のように振って、塩漬けにした肉だもんね。しかも状態が悪いし……ずるずるになってたり、料理にすると筋しか残らないとか……エレナ姫の伯母上の嫁ぎ先の方が貧しいって言われているけど、肉は寒さを利用した冷凍保存で、逆に新鮮だし味も旨味が出て美味しいくらいだよ」
地域の違いを聞きつつ、それは熱のあるティアにとって一種の子守唄のようであり、近くにいること安心できることをホッとする材料でしかない。
とろんとした顔のまま、ゼリーを促されるまま完食したティアは薬湯をもう一口口にしてすぐにベッドに戻る。
毛布をかけてもらいつつ、モゾモゾと居心地悪そうに身動きをし、
「リー……」
「なぁに? 琥珀ちゃん」
「あのね……ピット……が、あたしを人買いに売ったの……」
と小声で告げた。
ピクッ
よく知った……いまだに交流がある元同僚の愛称に手が止まる。
毛布を頭からかぶろうとしていたのをやめさせたのだが、その隙に潜り込んだ少女は絞り出すように掠れた声で辛すぎる過去を話す。
「リーに会えるって言ってたのに……会わせてくれるって言ったのに……連れてったの。行く方向が違うって言ったら殴られて……目が覚めたら、エレナといっしょにいた……」
「……そうだったんだ……」
「会えて……良かった……会いたかった……」
何とかそう呟くと目を閉じそのまま全身の力を抜いた。
リーは、額に乗せる濡らしたタオルを準備しながら、今まで見つからなかった裏切り者の一人の名前を呟く。
ピット……
発掘の仲間の中の中堅……
神経質そうな外見の割に、ものすごく雑な作業しかできず、発掘した貴重な化石を壊した数はダントツ、道具の紛失数も多く、ペアを組みたくないとメンバーからは拒否される事が多かった。
そして、リーの大切な琥珀ちゃんを売ったと言うのか……。
「……許されると思うな」
拳を握り締めたリーは、ピットといういわゆる三下の裏の存在に吐き捨てたのだった。
そして、いつになく全身のだるさやひどく重苦しい息のし辛い感じに、薄く目を開けた。
泣きすぎたせいか?
それにしても、なぜ腕が持ち上がらないのと、頭を殴られた後のような痛みが続いているのだろうか?
首を動かそうとするものの目眩がひどく、ゆっくり、ただ眼球を動かし、周囲を確認する。
「エ……」
エレナの名前を呼ぼうとしたものの、声が掠れ、その後咳が続く。
どうしたのだろう……。
「大丈夫? 琥珀ちゃん」
冷たい手が、燃えるようなティアの手を握ってくれる。
汗ばんだ手を冷やしてくれるその冷たさにホッとし、ゆっくりと彷徨わせた目で、再会した恩人を見つける。
見た目はほっそりとしていて頼りなげな少年だが、手は大きく角張っている。
「……リー……」
「うん、なあに? 琥珀ちゃん」
「エ、レナ……」
「大丈夫。隣の部屋で寝てるよ? ここは僕の弟の屋敷で、馬車で言ってた目的地だからね?」
「目的地……」
言葉を繰り返すと、ちろっと唇を舐める。
思ったよりも喉がカラカラな上に、声が出ない。
「あぁ、喉渇いた? 冷たいの飲める?」
「……うん」
身体を起こしてもらい、適度に冷えた飲み物を口にする。
ひんやりとしたそれは、喉を通るとスッとした感覚になり、熱っぽくひりついた喉を潤してくれる。
「もう少し飲める? 一応ほんの少し薬を混ぜてるから、飲めるだけ飲もう」
「……お薬苦いもん、嫌い……」
イヤイヤと顔を顰め首を振る。
熱のせいか、いつもなら絶対言わない我儘や文句が口につくが、クスクス笑う。
「大丈夫だよ。琥珀ちゃん。これは、苦いのじゃないよ。昔飲んだことある、ベリーミントの喉に効く飲み薬。ちょっとスーッてするのだよ。昔うがいの時に使ってたのとおんなじ味」
「……あんまりよく覚えてない……」
「そうだねぇ……もう9年も前だもんね。じゃぁ、冷たいゼリー食べる?」
「ゼリー……」
「うん。オランの実の入ったの。琥珀ちゃん大好きでしょ?」
冷やした薬湯の代わりにリーが取り出したのは、小さなガラスの器に入ったお菓子。
スプーンですくった一口をティアに食べさせる。
「ひやひや……つるんって消えた……」
「うん、昔は少し硬く作ってたけど、今日は口に入れやすく作りました。僕が」
「僕……リーが、作ったの?」
二口目を口に入れてあげつつ、リーはニコニコと話し始める。
「そうだよ~一応僕は料理も大好きなんだ。ちなみに昔のあの発掘時代の料理のレシピは元々僕が作ってたのをミリアムやビリー達が覚えて作りだしたんだよ。あの頃の料理は元々僕が若い頃に海の向こうの国にいた時に教わったものでね? それをこっちで手に入れられる食材やスパイスで作れるようにしたものだから、あんまりこの辺じゃ食べられない料理も多いかもね」
「……そういえば、今まで住んでいた城だったら、硬い干し肉みたいな肉料理と、しなびた野菜に固い黒パンしか出なかった。何とか食べられるのはスープに浸したパンくらい……」
「あぁ、あそこの地域って肉は塩を山のように振って、塩漬けにした肉だもんね。しかも状態が悪いし……ずるずるになってたり、料理にすると筋しか残らないとか……エレナ姫の伯母上の嫁ぎ先の方が貧しいって言われているけど、肉は寒さを利用した冷凍保存で、逆に新鮮だし味も旨味が出て美味しいくらいだよ」
地域の違いを聞きつつ、それは熱のあるティアにとって一種の子守唄のようであり、近くにいること安心できることをホッとする材料でしかない。
とろんとした顔のまま、ゼリーを促されるまま完食したティアは薬湯をもう一口口にしてすぐにベッドに戻る。
毛布をかけてもらいつつ、モゾモゾと居心地悪そうに身動きをし、
「リー……」
「なぁに? 琥珀ちゃん」
「あのね……ピット……が、あたしを人買いに売ったの……」
と小声で告げた。
ピクッ
よく知った……いまだに交流がある元同僚の愛称に手が止まる。
毛布を頭からかぶろうとしていたのをやめさせたのだが、その隙に潜り込んだ少女は絞り出すように掠れた声で辛すぎる過去を話す。
「リーに会えるって言ってたのに……会わせてくれるって言ったのに……連れてったの。行く方向が違うって言ったら殴られて……目が覚めたら、エレナといっしょにいた……」
「……そうだったんだ……」
「会えて……良かった……会いたかった……」
何とかそう呟くと目を閉じそのまま全身の力を抜いた。
リーは、額に乗せる濡らしたタオルを準備しながら、今まで見つからなかった裏切り者の一人の名前を呟く。
ピット……
発掘の仲間の中の中堅……
神経質そうな外見の割に、ものすごく雑な作業しかできず、発掘した貴重な化石を壊した数はダントツ、道具の紛失数も多く、ペアを組みたくないとメンバーからは拒否される事が多かった。
そして、リーの大切な琥珀ちゃんを売ったと言うのか……。
「……許されると思うな」
拳を握り締めたリーは、ピットといういわゆる三下の裏の存在に吐き捨てたのだった。
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