Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第二章……帰還後、生きる意味を探す

60……sechzig(ゼヒツィヒ)……元祖野生児登場

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 DVDでは、10台ほどのマイクが置かれ、薄暗い中、入れ替わり立ち替わりでドラマ化されたゲームの話が続く。
 その中では、

「おーい、叔父貴~じゃなかった、ディ兄さん」
「誰が叔父だ。テオ」

と言う那岐なぎ雅臣まさおみのやりとりや、

「テオ」
「あ、みっちゃん。どーかした?」
「刺すよ?」
「腹黒兄貴が二人になった……うおっ! カーシュ兄さん、マイクは武器じゃないよ!」
「くそっ! この野生児が!」

と、何となく生々しいというか、リアルなやりとりが合間に入る。

「カーシュ様、テオ様……いい加減になさい! 鞭で殴るわよ」
「女王様だ!」
「カサンドラが女王様になった!」
「……私の武器でしょうが! 誰が女王様よ! 本当に殴るわよ!」

 最後にカサンドラ役の未布留みふるに説教され、

「すみませんでした。グィネヴィア様」
「本当にすみませんでした。女王様じゃなくて、王妃様でしたね」
「はい! 光流みつると那岐、その飼育員のおみくん。この後、5時間正座で本気でやりましょうか」
「な、何で俺が? 俺はちゃんとしてるよ。それより、あぁ困ったなぁ、ヒュルヒデゴット様! 何とかして下さい!」

最後にトバッチリを受けた雅臣が嘆いていると、

「えっ? 誰?」

マイクを消した光流の声。

「リハにはなかったよね?」

 余り強くないが、ライトが当てられ一人のゲームの時代の衣装を着た少年が、小柄な同じような時代のドレスを着た少女の手を引いて裏手から現れる。

「ディ! カーシュ! テオ! アスティが道に迷ってたよ」

 ざわざわ……

観客はざわめき、そして、上段にいた雅臣と那岐が飛び降りると、小柄なお姫様の元に駆けつける。

「ま……いや、アスティ! どうしてここに!」
「えと、リューンがこっちに行けと……えと、ここは? そ、それに、ま、雅臣さんじゃなく、ディさまですか?」

 上品なピンクのドレスを、纏った瞬である。
 頭を隠すような布も、繊細な刺繍がされ、ドレスも今風のゴスロリではなく、ボビンレースは部分部分のみ。
 それでも、当時では相当高価なドレスである。

 ボビンレースと言うのは、クッションの上に型紙を置き、模様にピン打ちしてボビンという糸巻きのようなものを数十本から、多い時で数百本使い、組む、ねじる、絡める、結ぶを繰り返し、作り上げる。
 アンティークレースの代表であり、現代でも高額で流通する。
 一つの作品をその型紙で作る場合と、幾つもを作り、切って布に縫い付ける場合もある。
 特に高額になるものは、一つの大きな作品を数十年かけて作ることもあり、修道院ではシスター達が飾りの為に編んだものの、余りにも細かく、熟練した人ほど目を悪くして若くして失明することもあったらしい。
 今では編む機械ですぐ編めるが、当時は手づくり。
 小さいものでも高価である。
 それを飾ったドレスを着た少女は可愛らしい。

 そしてイタルも細身で垂れ目、それにどことなく雅臣の兄貴分の一人で、イタルの異母兄の祐也ゆうやに似ていた。

「……どうしよう、可愛い……」
「あんた、変態ですか。アストリット。お兄ちゃん所においで」

 那岐は、アストリットを自分の前に立たせると、持ってきて貰ったマイクを向けた。

「じゃぁ、アスティ。お兄ちゃんと挨拶しようね。初めまして。アストリットですって」
「は……初めまして、わ、私は、アストリット・エリーザベトと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「良くできました。やっぱりアスティだね。じゃぁ、兄さん達。カサンドラ、後は頼むよ。イタルはこっち」

 当時の衣装を着た瞬を見せびらかせるように、軽々と抱き上げ片腕に乗せると悠然と去っていった。

 その後も続くのだが……。



「あぁぁ! 可愛すぎるわ。さすがは私の孫! 瞬ちゃん。あのドレスはもしかしてあの飾ってあるドレスかしら?」

 瞬の祖母になる由良ゆらは微笑む。
 示されたのは、クリーニング店でちゃんと綺麗に洗って貰ったものである。

「あ、うん。そうなの……」
「まぁ! あのボビンレース素晴らしいわ。手作業だとあの小さい飾りだけで、1日8時間でも最低でも数ヶ月だわ。あれ一つで、数万は下らないわ」
「エェェェ! そうなんですか? お詳しいですね」
「私は、今、世界中ののみの市を転々として、様々なものを購入しては、好きな方に売っているのよ。レースやテディベアなんかも多いわね。その縁もあって、ヴィヴィアン・マーキュリーに何度か会ったわ。気に入ったベアのほとんどはあの人が買うんだもの。テディベアの目利きなのよ」
「ヴィヴィと知人なのですか?」

 日向ひなたは感心したように呟く。

「えぇ。ところで、せいちゃん。この方どなた?」
「あ、小説家の日向糺ひなたただす先生と、その旦那さんで同じく歴史小説家の日向先生」
「あぁ! そうなの。若いわね~。あんなに心の奥まで繊細に書き出す方だから、もっと私位かと思ったわ。これからも凄い作品が生まれそう」
「ありがとうございます。努力致します」
「うふふ」

と微笑む由良だが、部屋の外で数人の声が響いた。

「えっ……」

困惑する声に、

「あっ……あ、あぁぁ!」

低い声だが、苦悶する声が響き、倒れ込む音。
 日向は立ち上がり、部屋を出ていくと、

「祐也! どうしたんだ!」

意識のない大柄な男を支えるのは、仕事を終えてきた雅臣。

「兄さん! 祐也兄さんが!」
「看護師さん呼びます!」

 いたるが走っていく。
 そして呆然としているのは、由良の息子で瞬達の父の紀良きら

「どうしたの? 紀良」
「あの……どうしたらいいのか……あってすぐ倒れちゃったんです」
「……祐也の野生の勘か……」

 雅臣は祐也をゆっくりと壁にもたれさせ、日向は頭を抱える。

「あいつ、見た目は温厚ですが手負いの虎なんです。心の傷が……なかなか癒えなくて。もしかしたら一目見て、異母兄弟だと分かったのかも」

 その言葉に、由良は目を伏せる。

「……本当に辛い目に遭ったのね。テレビではあっさりと放映して、すぐに消えてしまったけれど……」
「……紀良さん……結城さん達は全く似てないと思います。でも、祐也は感づいてしまったんでしょう」
「えっ? 母さん……」
「あの子、貴方の異母弟よ。紀良。昔あったでしょう? 家で父親達に虐待を受けて逃げ出して、オーストラリアでヒッチハイクした少年が見つかったって」
「えっ……」

 紀良は目を見開き、壁にもたれぐったりした祐也を見る。

「この人が?」
「えぇ。貴方の弟。安部祐也あべゆうやさんよ」
「いえ、奥さんの家に婿養子に入ったので、清水姓です」

 日向は首筋に手を当てると、

「脈は少し早いか……最近、仕事も、家の方も忙しかったしな……」

眉をひそめる。

「イベントは欠席、入院させるか……」
「い、やです……入院するなら蛍や子供達……の所に帰ります」
「アホか!」

 頭を叩く兄に、真っ青の雅臣は、

「兄さん! 祐也さん、病人!」
「病人でも、アホな子には殴って言うことを聞かせる。それがうちのやり方だ。それに、こいつはこの程度じゃけろっとしてる。ですよね? 一平さん」
「よくやった。一条。祐也は、これ位じゃ死ぬこともない。何せ俺もやったことない、妖精をフルボッコだ。それに、卵の殻の中に小麦粉と胡椒、一条愛用の一味をつめた爆弾を作って、暴走する妹と投げてたらしいしな。よく考えたと褒めてやった」

腕を組んだ小柄な男は、自分とさほど身長の変わらない紀良を見る。

「……うーん、叔母さん……俺たちの親父の方に完全に似てると思ってたんですけどね。やっぱり少し似てますね。結城紀良さん。俺は祐也の従兄で、兄の一平です。……祐也はオーストラリアから父が連れ帰って、本当は実の母である叔母さん夫婦の子供となるはずだったんですが、叔母さんが丁度妊娠中……切迫早産で入院していて、伯父さんはオリンピック強化選手だったので、うちで引き取ったんです。ほら、祐也。入院は後で考えてやる。まずは寝てこい」

 寝台に、大柄な雅臣ではなく、一平が祐也を軽々と抱き上げ横たえる。

「昶。でっかい兄ちゃんを頼んだ」
「は、はい! 父さん」

 連れて行かれるのを見送り、頭をかく。

「言うか……俺馬鹿なんで、祐也さえ良ければ、良いんですよ。まぁ、最近、ちょっと仕事が重なってるってのに、この一条や一条嫁に、祐也の嫁はいいんですが、腹黒馬鹿が失敗したらしくて、祐也の娘婿が泣きついてきたんですよ」
「はぁ? 先輩。うちの風早かざはやが?」
「あぁ、あ、お前が頼りないんじゃないぞ。あの、松尾まつのおが、お前が忙しいのを良いことに、やっちまったらしい」
「……あの馬鹿……又やったか。酒は控えろと言ったのに!」
「まぁなぁ、あいつ、見た目は良いが、酒癖最悪だな。しかも周囲より早く酔いが回る安く済むから、絡み出して……。一回、嵐山らんざんの親父を呼ぶしかねぇかと、櫻子さんには伝えといたわ」

 日向が頭を抱える。

「それに、俺んとこと、めぐみ叔母さんとこには、祐次から連絡が来て、フルボッコいつにするか話し合い中だ。この後、親父のとこに行くから、ヴィヴィとシェリルと昶、頼むわ。ちゃんと迎えに来るって言っといてくれ」
「本当に……一平さんにはいつもご迷惑ばかり、すみません……息子達が小さい頃には、サマースクールとか、短期留学とか……」
「そんなん気にすんな。それより、祐也。まぁ若いが、ここで一旦検査入院させといてくれ。何かあったら、お袋やくれないひめが絶叫する」
「分かりました。本当によろしくお願いします」

 一平は、紀良とその母に、糺に笑いかけ頭を下げると歩き去っていった。
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