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第7章

アマーリエの心と、バルナバーシュの想い

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 昨晩、大喧嘩をして兄を追い出したアマーリエは、朝、目覚めると起き上がりため息をつく。
 すると耳元で、甘い声が聞こえてきた。

「おはよう、可愛い人」

 はっとして我にかえると、慌てて毛布を被り顔を隠した。

 一緒に寝たアルフィナが早起きをして、遊んで欲しいとねだられたので、アマーリエが起きないように遊んでいたバルナバーシュである。
 アマーリエが毛布の中で、もぞもぞと後ろを向く。

「どうしたのかな?」
「は、恥ずかしいですわ……どうして昨日あんなことを言ってしまったのかしら……それに早く起きるつもりだったのに……」

 顔を覆い、恥ずかしがる。



 昨日、アマーリエと一緒に寝ると言ったアルフィナが、

「おばあしゃまとおじいしゃま、いっしょにねんねダメ?」

とバルナバーシュに可愛いおねだりをして、二人の間にアルフィナが寝るという形で寝たのである。
 しかし、婚約をしたとは言え異性と一夜を過ごしたというのは、もう、息子が生まれる前後以来なかったアマーリエは、異性であるバルナバーシュにすっぴんの顔を見せられず、顔を隠したのである。
 早く起きるつもりだったが、疲れているだろうからと休ませたのはバルナバーシュでもある。

「おばあしゃま? どうしたでしゅか?」
「えっ……あ、恥ずかしいのよ。どうしましょう……」
「はじゅかしい? おばあしゃま」
「どうしましょう。バルナバーシュ様にこんな姿を……」

 恥ずかしがるアマーリエの姿が愛らしく、バルナバーシュは微笑む。

「恥ずかしがることはないよ。君は美しいよ。アルフィナは私の可愛い姫だけど、君は私の愛しの太陽の君だからね」
「まぁ……私は……」
「おばあしゃま。かあいい~。アユフィナ、おばあしゃまだいしゅき!」

 抱きついてきたアルフィナを抱きしめ、頰にキスをする。

「おばあちゃまもよ、アルフィナ。私の可愛いお姫様」
「きゃぁぁ」

 女官たちが入ってきて、アルフィナは乳母のミーナと共に自室に戻り、バルナバーシュはジョンが案内する。

「大旦那様。身支度を……」
「あぁ、ありがとう。よろしく頼むよ」



 そして皆が集まる食堂に向かうと、元魔術師長の息子のケルトが、険しい顔をしていた。

「どうしたのかな?」

 駆け寄ってきた娘を抱き上げ、おはようの挨拶をしていたアルフレッドは、問いかける。

「いえ、昨晩、術師の一人が来て、この都の我が家やラインハルト伯父さんの館、フェリシアの実家に侵入しようとした者がいるらしくて……」
「何ですって! もしかして、お兄様?」
「いえいえ違います。あの、堕とした親子の息子が入ろうとしたそうで、捕まって厳罰に処されたとか」

 兄ではなかったと言うことはまずは安心だが、それ以上に……。

「おちょしたむちゅこ?」

 首を傾げるアルフィナに慌てるケルトに、ベルンハルドが優しく、

「えとね? 悪いことしたおじさんにペンペンしたんだよ」
「わゆいことしたにょ? メーでしゅね」

父と叔父にくすぐられきゃっきゃと笑う。

「おとうしゃま、高い高いして。抱っこ!」
「後でね? ここは皆でご飯だからね。はい」
「わーい!」

 アルフィナの専用椅子に座らせると、

「その話は後、それよりも先に食事だね。それに……異国との交渉もカーティス兄上が放棄したら最悪になりつつあるし……」
「騎士団も俺の部下はそこまで阿呆じゃないが、上が代わるとどうなるかだな」
「他にも、私は全く術は使えなくなったけど、ある程度知識はある。アルフィナと叔父さんはお勉強かなぁ……」
「お勉強? ぺんしゅゆ?」

ラインハルトが息子を叩いていたのを思い出し、瞳を潤ませる。

「そんなことはしないよ。それよりも、アルフィナはとっても珍しい力があるからね? アルフィナはお利口だから普段は大丈夫だけど、突然、その力が言うことを効かなくなって、アルフィナ自身や、大好きなお祖母様やお父さんが怪我をしたら嫌でしょう? アンネリやお祖父様、ベルンハルドお兄ちゃんやセシルお兄ちゃんも」
「嫌でしゅ。あんにぇり、アユフィナのいもーとでしゅ。おとうしゃまやおばあしゃま痛いのやでしゅ!」
「そうだよね? だから、今日はルシアン叔父さんのお話を聞こうね」
「私も聞いていいかな?」

 バルナバーシュが微笑む。

「今の術理論を聞いてみたいからね」
「では、バルナバーシュ様のご存知の、あの、失われた光魔法を伺っても宜しいですか?」
「えっ? 光魔法はないの?」
「ごく稀に、闇を扱える私達の様な者が生まれますが、他は、基本の四元素ですね」
「君は攻撃系?」

 考え込むバルナバーシュに、ルシアンは苦笑する。

「私は、中途半端なんです。攻撃系はヨルムが強く、防御、補助系はケルトが」
「それは万能とも言うね。昨日の術は見えたのだろう?」
「そうですね、見えました」
「じゃぁ、君は光の属性持ちだよ。元々、この国の王族は光属性。闇はなかった。持つ様になったのは、私の義兄の血だよ。君は、術が使えないんじゃなくて一時的に全身に行き渡る力が滞ってしまっているんだろう。だから、チェックしてみようかと思うよ」
「ありがとうございます!」



 ご飯を食べさせるのだが、やはりアルフィナは野菜をあまり食べられない。

「おとうしゃま……にぎゃい……」
「じゃぁ、これは?」
「甘い~! しゅき!」

 食べているのは、最初は青菜で、完熟の果物の様に甘い野菜で、両手で握って食べている。

「うーん……好き嫌いを減らさないと……」
「まだ、そこまで心配しなくていいわよ」

 アマーリエは笑い、アルフィナの顔と手を拭いてあげていたのだった。
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