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番外編〜

【番外編】処刑執行人の人生2

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 イザークはよく言えばとても好奇心の強い、そして私にとっては初めて会うタイプの少年だった。
 私はどういえば良いのか分からなかったので、

「ちょっと行ってくる。薬草を……」
「取りに行くのか?」
「ううん……薬草はそれぞれによって取る時間帯が違うんだ。それに、部位にも効能があるからね」
「効能?」

頷き、隣の倉庫兼薬草の乾燥室になっている空間を見せる。

「ほら、あの干している薬草は、地下に張る球根と茎、葉っぱそれぞれに効能が違うんだ。花にもあるよ」
「へぇ……って、これ、俺の家の奥にある森に生えてる!」
「これはね、安眠のハーブ。疲れたりした時に、これを乾燥させたポプリを枕元に置いておくと良いんだ」
「そうなのか?……なぁ! これ誰でも知ってるのか?」

 イザークの言葉に、首を傾げる。

「私は母や祖父に教わったから……祖父の親族なら知ってると思う。でもお医者さんは余り知らないと思うよ?」
「じゃぁ、お願いだよ! これを、売っちゃダメかな?」
「売ってどうするの?」
「うちの家の、家計の足しにしようと思って……父さん……飲み屋に行くから……うち貧乏でさ……」

 項垂れる。

「母さんも出て行ったし……父さん帰ってくる時は、隠してたお金も探し出して持っていくんだ」
「……じゃぁ、作る? 母に後で、ポプリの布を聞けばいいし」

 2人で、干してあるハーブを数種類取って、それを私は祖父や母を見て覚えた配合を、イザークは匂いを嗅ぎながら、好みらしい配合にしていく。

 時間が経ったらしい。
 母の呼ぶ声に顔を上げると、

「2人ともいらっしゃい。落ち着いたわ」

その声にイザークは走っていく。
 その後ろをゆっくり追いかけていく。

 古いもののがっしりしたベッドで、来た時よりも顔色のいい女の子は眠っていた。

「この子は数日動かさない方がいい。坊、一度帰れといいと言いたいが……家族は?」
「このセリナと、滅多に帰ってこない親父だけ! 親父は、毎日酒を飲んで、滅多に帰ってこない。母さんはもういない……」

 唇を噛みしめる。

「では、数日……この子が元気になるまでここにおいで。でも、外に出るんじゃない。それだけは約束しなさい」
「はい。お、僕はイザークです。妹はセリナです」
「おい、この子と一緒に行って、寝る場所を準備してきなさい。そして、この子は、お前の部屋で」
「はい」
「あ、あの……お金……絶対足りないと思うんですけど……あるだけ……」

 イザークは祖父に、ポケットからコインを出す。
 祖父は細かいコインを握りしめ差し出したイザークを見つめ、

「それは、元気になってからの2人のご飯代にするといい。わしは、この庭にあるハーブしか使っていないからな」

微笑み、片付けようと中に入っていく。

「じゃぁ、向こうに行こうか。お部屋に案内するね」

 案内した。



 そして1週間後に元気になった兄妹に、祖父は薬草と母はハーブを、私は種子を渡した。
 最後に祖父は、

「もう、ここにきたことは忘れなさい。ここは……私たちとお前たちの世界は違うんだ。本当に別れるのは辛いが、これ以上いると辛い思いをしてしまう。もう会わないよ、いいね?」

そう言い聞かせ、裏門から町の入口まで連れて行き戻ってきたのだった。
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