君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《手のひら》……共に。

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「久しぶりやなぁ……嵯峨さが

 着物姿の60代らしいがっしりとした男性と、上品な訪問着の年齢未詳に見える女性……一応童顔の柚月ゆづきよりも年上だと思われる。

「お久しぶりです。おいはん、櫻子さくらこはん。彼女が大塚柚月おおつかゆづきはんどすわ」
「ようきなはったなぁ。あては松尾櫻子まつのおさくらこと申します。あてのだんはんの嵐山らんざんどす。息子の標野しめのや娘のひめはんに伺っとりますわ……」
「よろしゅう……」
「だんはんは口下手なんどすわ……」

 苦笑する。

「初めまして。大塚柚月と申します。えと、標野さんと言うのは……あの、姪……いえ、娘の観月みづきのクラスメイトの祐次ゆうじくんの従兄と……」
「あてらの息子なんどすわ」
「エェェ! さ、櫻子さん、あの……私の母世代ですか? 見えません! お綺麗です……ど、どうしましょう。私は素っぴんで……」
「……嵯峨はん? 失礼やけど、柚月はんはあてらの醍醐だいごより下でっしゃろ?」
「いえ、女性の年齢をお伝えするのは失礼ですが……あてらの3歳下ですわ……」

 すると、目の色を変えて、

「羨まし……あぁ、あても、孫が7人おるし、おばあちゃんやわ……」
「エェェ! 見えません!」
「櫻。いこか。賢樹さかきが手ぇ離せん言うて、あてらが来とるけど……」
「あぁ、そうどした。こちらどすわ」



 櫻子が駐車場に向かうと、ファミリーカーが停まっている。
 乗っているのは、眼鏡をかけた青年と、助手席に着物姿の青い瞳の美女。
 扉が開き出てきたのは、栗色の髪や金髪と瞳の3人の子供たち。

「じいじ! ばあば!」
「お帰りやす~!」
「おぉ、あかね教護きょうごこよみ

 口数が少ない嵐山が、表情を緩めて孫を抱き締める。

「おとうはん。嵯峨は兎も角、柚月はんが疲れとるわ。はよ、いこか」
「そやった」

 9人乗りの車が走り出す。

「じいじ。賀茂のじいじのおうちに行くんでしょ?」

 一番母親に似た女の子は浴衣姿である。

「金曜日の晩に、だいちゃんおいはんのおうちに行くの楽しみ!」
「そやなぁ。醍醐が電話かけてきた。今年は例年以上に綺麗やろ言うとったわ」
「わぁぁ!」
「あぁ、柚月はん。運転してはるんは、あてらの長男の紫野むらさきのどす。標野と双子ですのんや。で、8才下の末息子が醍醐言うて、柚月はんの娘の観月はんを預かっとります。で、助手席は雛菊ひなぎく言うて、紫野のようでけた嫁で、かいらしいやろ?」

 櫻子は自慢げにと言うか誇らしげに、息子夫婦を紹介する。

「よろしゅう。柚月はん」
「雛菊どす。あ、祐次はんに会いましてん? あての妹が、祐次くんの従兄の嫁なんどす」

 流暢な京言葉に、

「えっ? 雛菊さんの妹さんですか?」
「あぁ、余り大袈裟には出来ん話やて、祐次はんは言うてなかったんどすなぁ……」

雛菊は苦笑する。

「あては、多分32どす。でも母親が誰か解らしまへんのですわ。てておやが、イングランドの金持ちのボンで結婚もせずにあてが生まれましたんや。3歳下の異母妹が、祐次はんの従兄の祐也ゆうやはんと結婚しましたんや」
「……」

 言葉を失う。
 明るく言っているようだが、両親から捨てられたも同然ではないか……。
 しかし、

「半ば軟禁状態でしたんや。で、祐也はんたちに助けてもろて、だんはんが来てくれはったんどす。で、だんはんとここに帰るんどす~言うて」
「最初は、向こうで作れるお菓子を作っとったら、京菓子食べたい言うて、こっちにしか材料も道具も揃わんて言うたら、着いてくる! 食べるんや~! 言うて」
「季節ごとの菓子の美しさに……」
「美味しい、もう一つ……が口癖やな」
「だんはん! あてはそないに食い意地はっとりまへん!」

頬を膨らませる顔が本当に幸せそうである。

「二人でやっとりなはれ、で、あてらの孫の茜と教護、暦どす」
「お姉はん。よろしゅうおたのもうします」
「ます」

 3人の可愛らしさに微笑む。

「よろしくお願いします。柚月と言います」
「ゆづき?」
「あ、柚子の月て書くんよ。私の娘は観月。宇治川うじがわに掛かっている観月橋かんげつきょうの観月と書くの」
「おねえはんのお名前も綺麗。観月はんも綺麗!」

 目を輝かせる。
 しかし……、

「茜ちゃんは幾つですか?」
「8才です!」
「あらぁ……茜ちゃんが普通なんですよね……観月は小さい子で……」
「観月はんは幾つですか?」
「今年17歳なんだけど、136センチなの」

頬に手を当てる柚月に、

「茜、128センチ!」
「まぁ、茜ちゃんはお父さんとお母さんの良いところを貰って、とっても素敵な女性になると思うわ」
「観月はんは、柚月はんに似てかいらしいなぁ……」
「えっ?」
「あぁ、媛……次男の嫁はんが、祐次ぼんと一緒の写真を送ってきたんや。祐次ぼんは、あてらの息子みたいなもんで」

苦笑する嵐山。

「個人情報やて分かるんやけど……」
「いえ、祐次くんは観月の好きな人で、一緒にいると嬉しそうです。でも、ビックリしたのではないですか? 観月は……」
「……賀茂の祭の斎王代さいおうだいになったら、かいらしいやろとおもて」
「柚月さん。実はこの櫻子はんや、これから行く櫻子はんの実家の義理のお姉さんに、上の姪御さんが斎王代になられてるんですよ」
「えっ? エェェ! 斎王代ですか!」

 賀茂の祭……葵祭とも呼ばれる祭の準主役とも言われる斎王代は、一般から選ばれてはいるものの抽選で選ばれるだけあって、本当に美女が多い。
 目の前の櫻子が選ばれたのは、本当に満場一致だったに違いない。

「櫻子さんは本当にお美しいです! 見てみたかったです……」
「5年程前、あての姪が斎王代でしたんや。兄はんとこは女の子二人で、兄はんは娘がかいらしいいうて、二人ともなって欲しいなぁ言うてはったけど、上の子がなりましたんえ。えろうべっぴんはんで、兄はんが『他に見せたない』言うて号泣しとりましたわ」

 オホホ……

楽しげに笑う。

「その二年後に結婚して、女房装束をみはって、また号泣しはるし……」
「女房装束……凄いですね……」
「あての実家は、下鴨神社に縁がありますんや」
「あ、守谷主李もりやかずい選手知ってます? プロ野球選手の」

 嵯峨の問いかけに頷く。

「はい」
「彼、大学を卒業してすぐ結婚してるんですよ。守谷は旧姓で、奥さんの家に婿に入ったので、本名は賀茂主李さんです」
「そうなのですか!」
「ご本人は登録名はどっちでもいいや~といっていたのですが、あれだけの美形でしょう? 球団が結婚していることも隠せと……もう、本人はムカムカしていて、『何で、嫁はんと子供抱いて歩いたらあかんのや!』と言っているようですよ」
「公には出せないのは辛いですね……愛らしい奥さんやお子さんも可愛らしいでしょう……」



 そう言えばすっかり忘れていたが、自分の前の夫は大病院に勤務していた自分に隠れて別宅を作り、愛人と子供がいたのだった。
 知った時には、あぁそうなのか……と言うのと、何で言ってくれなかったのかと思った。
 その上彼に、

「子供も生めん女が……」

と罵られた。

 子供が生まれなかった自分を、責め続けたのをみかねた同僚に紹介されたのが嵯峨で、一応定期検診と自分が子供が生めない体かもその病院で検査をした。
 恥ずかしく、結果が判るのも怖かったが、柚月自身に異常はなく、ふたを開けてみると、浮気をしていた前の夫の方に色々あり、夫の認知していた子供はDNA検査をしたところ、夫の子供ではなかった。

 その結果に、夫は顔を赤黒く染め、離婚し再婚する予定だった相手の不義が裁判中に公になったことに怒鳴り付けてきた。
 怯える柚月を守ってくれたのが嵯峨である。
 柚月自身も、浮気をしていた相手を許す許さない以前に愛が無くなっていたので、離婚し、慰謝料と裁判費用を受けとり、嵯峨とはそれで別れた。
 電話番号は残していたが、5年後にこんな風に再会するとは思わなかった。

「どうしました?」
「いえ、縁があるなぁと思って……あの時に本当にお世話になって、又、お会いできるとは思いませんでした」
「そうですねぇ……電話が掛かってきた時には驚きましたが、お元気そうで、本当にホッとしました。でも、観月ちゃんを見た時にはビックリしました。本当にそっくりだったので」
「そんなに似てますか? よく言われるのです」
「いえ、5年前にはお子さんはいないと伺っていたのにと言うよりも、私も子供がいないので、サキや醍醐の子供たちを見て、大きゅうなったなぁと言う位だったので、先程、茜ちゃんの年を聞いていて、良く解るなぁと」

 昔のことを思い出せば、辛い顔をされるかと思っていたのだが、微笑み、

「一応、最近まで個人病院の看護師でしたけど、昔は小児科病棟の看護師主任でしたから……子供と言っても、本当に大人が思う以上に賢いんですよ?茜ちゃんも教護くんも暦ちゃんも、お行儀が良いですね。おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんとお母さんを見ているからですね」
「そうなんですか……」
「えぇ。観月は小さい頃に義姉さん……お母さんがいなくなって……それから時々両親が見に行っていたのです。すると、兄は口にタオルを巻いて、暴れないように手足も縛って、押し入れに……出られないように、引き戸に棒で……」
「なっ!」

5人の大人は絶句する。

「うるさいと兄は言っていました。泣くし、わめくから黙らせたんだと。それに、タバコの火を押し付けたり、何度か首をこうして、観月をつるし上げて、ひぃひぃと息を詰まらせ、意識を朦朧とさせつつ父親の命令を聞こうと泣くのをやめる姿に……私は何度か兄に死んでくれと思いました。階段から突き落としてやろうか、と何度も思いました。死んでくれれば私の子供として引き取るのにと……正式に自分の子として引き取るのに……と」

 苦しげに目を伏せる。

「離婚して両親の住む町に戻らずに、あの街に住み始めたのは……観月の為でした。兄が転勤の時に無理矢理引き取りました。観月のことを大事にしたいと……私は良いんです。ただ、観月を守りたいんです……あの記憶を思い出して欲しくないのです。それ以上に愛してあげたいのです」

 顔を覆う。

「……そろそろ着きますえ」

 櫻子の優しい声と、背中を撫でる手が柚月には温かかったのだった……。
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