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お節介なおばちゃんヴァルキュリア……?

連れられてきたのは、豪華絢爛と言うよりもド派手な目に痛い寺!……多分?

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「何なんで? はぁ?」

 取っ捕まってバタバタ暴れるんも、どう見ても、

『まな板の上の鯉』

ならぬ、

『髭親父に担がれたおばはん』

……まんまやん。

 突っ込みも飽きてきたし、元々嗜好品も、一応食事も、味と匂いだけ楽しむんやけど、それもこの世界で一番してないうちは、体力もないけん疲れてくる。
 ここのシステム上、仕事を成功させればこの世界のトップである閻魔大王さんに、褒賞としてエナジーを貰えることになっとる。
 それは、連れてきた戦士の本来の寿命と戦死によって早く逝ってしもた差し引き分……それを取り込むことで、うちや同僚は、前世に犯した罪を減らして貰うことも共に可能になるんや。
 つまり、エナジーはこの世界で生きる為のパワーであり、昔犯した罪を減刑ってことや。
 でも、うちは、罪を減らして貰うのんもお断り。
 やけん、仕事も本当はしたない。
 やけど、後からやって来る同職の御姉様が、早々にその刑務と言うか仕事を終えて、

「じゃぁね? 又って、会えても覚えてないもんね」

と言いながら去っていくんは、実際は羨ましい時もあった。

 でも、仕方ない。
 うちは、再び生まれ変わるんは金輪際お断りや……。

 髭親父ベッドは固いけど揺られていくうちに、次第に眠うなる。
 目を閉じてしもたんは不覚や。



 髭親父こと関聖帝君かんせいていくんは、担ぎ上げていた身体の動きが大人しくなり、そしてポツッと、

「……うちが、一体何をしたん? 神さんでも仏さんでも、教えてぇや……何回、何度も蘇って、人に裏切られ、捨てられ、欺かれ、襲われ、売られ……出家して、悟りも開けずに、日々苦悩して気違きちがいになっていくんを、続けていかなあかんのや……幸せって何なんや……」

の言葉に息を呑む。



 百目鬼真侑良どうめきまゆら……別名『死神界の落ちこぼれ』、『死神界の役立たず』。
 ついでに、本人は寝ていると言うが、普通、死神は眠らない。
 次々とヴァルキュリアならば『英雄の魂』を、もしくは死神のランクによって『罪科つみとがの多い』者ほど屈強な死神が、あの有名な鎌等を持ち命を狩る。



 ちなみに、死神の持つ武器として有名なあの巨大な刃を持つ鎌は、元々ヨーロッパの地域の草を刈る鎌で、刃を横に構え、ベルトやフックで体に固定させたりして刈っていく。
 縦に刺すのではなく横に大きく振るのである。
 それが、次第に首を斬る……死神が持っているとなったらしい。



 話はそれたが、百目鬼真侑良は本来は死神になるべき人間ではなかった。
 逆に、死神に追われる程、悪事を働いた悪人に何度も殺されたり、それに準ずる苦痛を味わわされ、心を病み命を断った人間である。

 本来は命を自ら絶つ者はそれ相応の罪を与えられるが、実は、百目鬼真侑良の生きていたくない程苦しい生き地獄を味わわされたのは、閻魔大王が特に地獄が機能しうる限り、永遠に出てこられないように地獄の最下層に最終的に叩き込んだ極悪人によってであり、転生する度にその人間達に利用され、もてあそばれ命を絶つか、心を病んで幽閉され生涯を閉じた。
 一度は出家し悟りを開こうとしたが、その者に追われ、『補陀落渡海ふだらくとかい』を実行しようとしたが、連れ戻されたと言う経緯がある。

 『補陀落渡海』は仏教の『捨身行すてみぎょう』の一つで、西方浄土さいほうじょうどにいる仏の元に、粗末な船でお経を唱えながら波に揺られていくと言うものである。
 実は逃げられないように石を巻き付けたりして船に乗ることになるのだが、1人で、暑い船の中お経を唱えつつ波に漂い続ける。
 有名なのは和歌山県の那智勝浦なちかつうらで、記録されているのは20回この補陀落渡海が行われたらしい。
 他の地域でも残っているが、特に多いのは那智勝浦だったらしい。

 そして、送り出して戻ってきた場合、殺されたりするらしい。
 関聖帝君は、戦場に生きてきた為ある程度解るが、解らないのは、

「何故、この者だけが不幸を被るかだな……まぁ、運が悪すぎるのだろう。詮索せずともよい」

呟いた。

 ほぼ死神の底辺として生き続けられるのは、特別に彼女が寝る間に『彼』が練った『エナジーの薬』を他には内緒で与えていることも……言わなくとも良いだろう……。



 しばらく歩くと、前を誘導していた周倉しゅうそうが、

「主、関聖帝君さまのお帰りである!」

 門兵が慌てて扉を開いた。
 確認をし、

「主、若君……どうぞ。お入り下さいませ」
「あぁ。後のことは、妻子に頼むことにする」
「はっ!」



 翌日、目が覚めた真侑良は叫んだのだった。

「何やね~ん! 本がない! 巻物、しかも木簡! 竹簡!」
「すみません。何もなくて」

 関平の声に、真侑良は、

「何もなくないやんか~! やったぁ! 本物の書簡! おぉ! 漢字だけでも何とか意味が通じるがね! 読めんけど」
「そうなんですか?」
「当たり前やんか! 関平くん! あんたもご存じの、中国の広さと方言の多さや~! うちは現代の中国語……北京語ペイチンホワを主に取り入れて作った普通語プートゥンホワを習っとるんと、上海語シャンハイホワに、広東語カントンホワなら何とか身ぶり手振りで分かるけどな。西安語シーアンホワ……長安語チィァンアンホワの方の言葉や、四川語シーチュアンホワはほぼわからんわ。四川料理の麻婆豆腐位や。それに発音もおかしい。今から習っても数百年かかるわ。それに、聞いたけど、今の中国語は四声と軽声の5つで音の上げ下げや。でも、昔はその声の上げ下げだけでも相当数あったって聞いたわ。喋れる筈がなかろがね。中国語の歌はとてもとても」
「例えばどんな歌が?」
「ん? いや、知らんし。詩は知っとるけどな。中国語の歌は歌えんわ」

 首をすくめる。

「まぁ、読んで勉強しよ。ありがとさん」



 これは良いもんを借りたと中国語の書簡を読むことにしたのだった。
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