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プレゼントにこれですか?
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「ねぇねぇ、先輩。結婚しよっか?」
その一言に論文のテーマの書物を必死に読んでいた吉水奏は、
「ふーん、すれば」
とそっけなく返した。
苦学生の奏は、学校にいる時以外はバイトを掛け持ちしつつ動き回る日々。
それでもギリギリで睡眠不足に金欠、何とか家賃と水道、ガス、電気代を払っている位である。
奨学金と言っても将来の返済がかなり負担になると聞いているので、一円でも貯めておきたいところである。
「先輩! 話聞いてよ! 結婚だよ? 結婚!」
「ハイハイ聞いてる聞いてる。琴音ちゃん」
「琴音ちゃん言うな!」
むきー!
と拗ねる中学時代からの後輩、2歳下の一年生、梶谷琴音。
ちなみに琴音の実家は琴や龍笛と言った日本の古典楽器類の販売店であり、琴音を初めとした家族は皆、師範の免許を持っている。
琴音は4人兄弟の末っ子で、女の子が欲しかった母親が名前を付けたのである。
「だから、先輩。結婚しよ~? ね?」
真正面の椅子に座っていた琴音は机にベッタリともたれ、上目遣いで見る。
「断る。と言うか、論文が大事」
「クリスマスイブだよ~? 皆着飾って街に遊びに行ったりしてるのに、どうして先輩は~?」
「誘ってくれる相手がいないし、服もない。よって、論文をしている。それにこんな日でないと、レッスン室も借りられないじゃないか」
奏も琴音も音楽科の生徒である。
琴音はヴァイオリンやトランペット、フルートもお手の物であるが、奏はソロソプラノ歌手の卵である。
一日でもレッスンを怠ると声は出ない。
その為、寝る間も惜しんでレッスンをする。
もしレッスン室が予約で埋まっていても、時々いるのだ、遅刻をして自動的にキャンセルになる人が。
そうすると待っている人間に、先生はレッスン室を振り分ける。
だから、朝一番にその待機室にこもる。
その間も、論文や勉強をしている。
その為、HRのクラスメイトには引かれ、遠巻きにされている。
でも奏は気にせず、ただ自分の道を進むだけだった。
「だからね? 先輩。俺と結婚しよ?」
「琴音。邪魔。本の上にのし掛からない。それに、彼女は? 付き合ってたでしょ?」
「ん~、別れちゃった」
「は? 先週付き合うって言ってたじゃない」
「ん~だってぇ。先輩と自分とどっちが大事って言うんだもん」
ずっとパソコンに目をやっていた奏は、琴音を見る。
「何? それ。それに、答える台詞は……」
「面倒~」
「面倒じゃないでしょ? 彼女だって言わないと」
「何で? 付き合い始めて3日で言われてみなよ。気持ち失せるから」
げんなりとした顔で唸る。
「先輩とは6年以上の付き合いだよ? たった付き合って2、3日でどっちが大事って何? 良く解んないよ」
「と言うか、彼女も一応は自分の方が大事って言って欲しいんでしょ」
「でもさぁ、彼女より先輩の方が大事しか言えないじゃん。先輩が一緒にいて、笑って、先輩が歌う歌を聞いて、合奏して……楽しいんだもん」
「まぁね。琴音と合奏は楽しい。けどねぇ……彼女を大事にしなきゃダメだよ?」
奏は19歳になった後輩に、ため息をつきつつ告げる。
「琴音はそう言うところ不器用なんだから」
「先輩だって同じだよ。この間の先輩は?」
「ん~? 良く解らないよ。何か、好きって言ってきて、何日かくっついてきたけど、いつの間にかいなくなってたなぁ……何でだろ?」
首をひねる奏に一瞬にやっと笑う。
「本当だねぇ……先輩、もしかして男運がないんじゃない?」
「う~ん。それよりもレッスン室のお金がかかる。どこから出そうかな。服は買っていないから食費……」
「これ以上減らしてどうするの! 又痩せたじゃないか!」
「いやいや、家が防音室じゃないからさ、大学のレッスン室を借りてたけど、いつもキャンセル待ちして使ってるのが、他の人には不快みたいで……今まで通り貸して貰えなくなりそうなんだよね。だから、どこか借りないと……」
「先輩はいつも待ってるじゃないか!」
「アハハ……ネズミだって。こそこそしてるって……ゴの付く虫よりましだけど」
首をすくめる……と、低い声で、
「……ぶっ潰す……」
という声が聞こえ、首を傾げた。
「ん? 何か言った? 琴音」
「ん? ううん。何にも。それよりさぁ、先輩。ね? ね?」
「何?」
「俺の家に防音室があるよ。そこ使えば?」
あっさりと言うが、普通の家には防音室など滅多にない。
琴音の家族が雅楽師だったり、琴や龍笛の師範だからだ。
「は? 琴音の家って、防音室って言ってもお弟子さんのレッスンが……」
「いない時間にすればいいじゃないか」
「それじゃぁ、早朝や夜になるよ。私は昼間大学だし、そんな時間にお邪魔しちゃご迷惑だよ……」
「家に来れば良いじゃん。それに、母さんだって先輩大好きだし」
「いやいやいや……それとこれは違う問題だよ? 琴音」
ひらひらと手を振る。
「じゃぁ、結婚しようよ! はい、婚姻届。先輩の名前書いたら終わりだから」
「はぁ?」
「家族になったら一緒。ね?」
その一言に論文のテーマの書物を必死に読んでいた吉水奏は、
「ふーん、すれば」
とそっけなく返した。
苦学生の奏は、学校にいる時以外はバイトを掛け持ちしつつ動き回る日々。
それでもギリギリで睡眠不足に金欠、何とか家賃と水道、ガス、電気代を払っている位である。
奨学金と言っても将来の返済がかなり負担になると聞いているので、一円でも貯めておきたいところである。
「先輩! 話聞いてよ! 結婚だよ? 結婚!」
「ハイハイ聞いてる聞いてる。琴音ちゃん」
「琴音ちゃん言うな!」
むきー!
と拗ねる中学時代からの後輩、2歳下の一年生、梶谷琴音。
ちなみに琴音の実家は琴や龍笛と言った日本の古典楽器類の販売店であり、琴音を初めとした家族は皆、師範の免許を持っている。
琴音は4人兄弟の末っ子で、女の子が欲しかった母親が名前を付けたのである。
「だから、先輩。結婚しよ~? ね?」
真正面の椅子に座っていた琴音は机にベッタリともたれ、上目遣いで見る。
「断る。と言うか、論文が大事」
「クリスマスイブだよ~? 皆着飾って街に遊びに行ったりしてるのに、どうして先輩は~?」
「誘ってくれる相手がいないし、服もない。よって、論文をしている。それにこんな日でないと、レッスン室も借りられないじゃないか」
奏も琴音も音楽科の生徒である。
琴音はヴァイオリンやトランペット、フルートもお手の物であるが、奏はソロソプラノ歌手の卵である。
一日でもレッスンを怠ると声は出ない。
その為、寝る間も惜しんでレッスンをする。
もしレッスン室が予約で埋まっていても、時々いるのだ、遅刻をして自動的にキャンセルになる人が。
そうすると待っている人間に、先生はレッスン室を振り分ける。
だから、朝一番にその待機室にこもる。
その間も、論文や勉強をしている。
その為、HRのクラスメイトには引かれ、遠巻きにされている。
でも奏は気にせず、ただ自分の道を進むだけだった。
「だからね? 先輩。俺と結婚しよ?」
「琴音。邪魔。本の上にのし掛からない。それに、彼女は? 付き合ってたでしょ?」
「ん~、別れちゃった」
「は? 先週付き合うって言ってたじゃない」
「ん~だってぇ。先輩と自分とどっちが大事って言うんだもん」
ずっとパソコンに目をやっていた奏は、琴音を見る。
「何? それ。それに、答える台詞は……」
「面倒~」
「面倒じゃないでしょ? 彼女だって言わないと」
「何で? 付き合い始めて3日で言われてみなよ。気持ち失せるから」
げんなりとした顔で唸る。
「先輩とは6年以上の付き合いだよ? たった付き合って2、3日でどっちが大事って何? 良く解んないよ」
「と言うか、彼女も一応は自分の方が大事って言って欲しいんでしょ」
「でもさぁ、彼女より先輩の方が大事しか言えないじゃん。先輩が一緒にいて、笑って、先輩が歌う歌を聞いて、合奏して……楽しいんだもん」
「まぁね。琴音と合奏は楽しい。けどねぇ……彼女を大事にしなきゃダメだよ?」
奏は19歳になった後輩に、ため息をつきつつ告げる。
「琴音はそう言うところ不器用なんだから」
「先輩だって同じだよ。この間の先輩は?」
「ん~? 良く解らないよ。何か、好きって言ってきて、何日かくっついてきたけど、いつの間にかいなくなってたなぁ……何でだろ?」
首をひねる奏に一瞬にやっと笑う。
「本当だねぇ……先輩、もしかして男運がないんじゃない?」
「う~ん。それよりもレッスン室のお金がかかる。どこから出そうかな。服は買っていないから食費……」
「これ以上減らしてどうするの! 又痩せたじゃないか!」
「いやいや、家が防音室じゃないからさ、大学のレッスン室を借りてたけど、いつもキャンセル待ちして使ってるのが、他の人には不快みたいで……今まで通り貸して貰えなくなりそうなんだよね。だから、どこか借りないと……」
「先輩はいつも待ってるじゃないか!」
「アハハ……ネズミだって。こそこそしてるって……ゴの付く虫よりましだけど」
首をすくめる……と、低い声で、
「……ぶっ潰す……」
という声が聞こえ、首を傾げた。
「ん? 何か言った? 琴音」
「ん? ううん。何にも。それよりさぁ、先輩。ね? ね?」
「何?」
「俺の家に防音室があるよ。そこ使えば?」
あっさりと言うが、普通の家には防音室など滅多にない。
琴音の家族が雅楽師だったり、琴や龍笛の師範だからだ。
「は? 琴音の家って、防音室って言ってもお弟子さんのレッスンが……」
「いない時間にすればいいじゃないか」
「それじゃぁ、早朝や夜になるよ。私は昼間大学だし、そんな時間にお邪魔しちゃご迷惑だよ……」
「家に来れば良いじゃん。それに、母さんだって先輩大好きだし」
「いやいやいや……それとこれは違う問題だよ? 琴音」
ひらひらと手を振る。
「じゃぁ、結婚しようよ! はい、婚姻届。先輩の名前書いたら終わりだから」
「はぁ?」
「家族になったら一緒。ね?」
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