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過去回想のモブ編
第23話 襲撃を越えて2
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エピローグ2
襲撃のあった日から三日後の夕方、ダリウスは目を覚ました。
(ここは、俺の部屋か。)
意識を取り戻したダリウスはここが自分の部屋であることを確認。
上体を起こそうとして腕に力を入れると激痛が走った。
足も動かしてみるが、腕と動揺に激痛のため動かすのを断念し、素直に寝ることにした。
(それにしても妙だ。
スキル<最後の蛮勇>は1度限りのスキル。
おそらくは使用者の命と引き換えに能力を数段アップしてくれるのだろう。
そんな破格の能力を使用して、どうしてまだ生きているんだろうか?)
ダリウスの中に浮かんだ疑問はすぐに氷解することとなる。
コンコンッ
部屋のドアがノックされる。
「ダリウス、今いいか?エドワード君が来ているんだ。」
「わかった。構わないよ。」
親父に2つ返事で了承する。
「久しぶりだね。元気…とはいかないか。」
エドワードは少し遠慮がちにしている。
俺がスキルを使ったことに引け目を感じているのだろうか。
「よう、エド。
見ての通りまだ全快じゃねーがな。
とりあえず、立ったままなのもあれだから座れよ。」
エドワードはダリウスに言われ近くにあった椅子に腰を下ろした。
「とにかく、あのスキル使って生きてただけでも良かったよ。
死んだかと思った。」
「全くだ。なんで生きてたんだろうな?」
「多分だけど、ダリウスはもう1つのスキルにMP消費抑制というのがあったからじゃないか。
<最後の蛮勇>はHPとMPを消費するスキルだけど、その時にMP消費抑制が発動して余りが生じた。
だから、使い切ったはずなのにHPが残って生きていた。」
「ああ、なるほど。理屈は通るか。
ま、生き残ったなら何とかなるだろ。
せっかく魔法を覚えたんだ。全快になったらまた修行しよーぜ。」
ハハっと笑うダリウスを見て、エドワードは察した。
恐らく村長はまだダリウスに詳細を伝えていないのだろう。
では、どうする?
今伝えるべきか。それとも折をみて村長から伝えてもらうか。
「なんてな。ヤバい状況なんだろう?
俺の身体はどうなってる?
あれから何があったのか教えてくれ。」
ダリウスを見ると、あの黒龍と戦った時にみせた覚悟の決まった顔をしていた。
だからエドワードはすべて話すことにした。
「なるほど。俺は魔力が無くなったのか。」
ダリウスは静かに呟き、目から一筋の涙が頬を伝い落ちた。
エドワードは何も言わなかった。言えなかった。
そのまま部屋はしんみりとした雰囲気になって数分が経過して突然、ダリウスが笑い始めた。
エドワードはダリウスがついに壊れたのかと心配になったが、そうではなかった。
ダリウスの眼に強い意志がこもっていた。
「なるほどな。
その程度笑って跳ねのけてやるわ。」
ダリウスの中で結論が出たらしい。
「いくつか確認させてくれ。
まず、俺は黒龍との戦いでスキルを使って魔力が無くなった。
そのスキルは禁忌と呼ばれる類のもので、通常は死ぬが俺は運よく生き残った。
だが、魔力回路―人間でいう魔力器官―が機能不全を起こしている状態。
次に、HPの制御は魔力回路で行われている。
HPは常に使用されるが、同時に回復も行っている。
そのため、普通はHPが常に減り続けるという状況にはならない。
最後に、回復は魔力回路を介して行われている。
これは治癒魔法に限らず、ポーションなどの回復薬でも同様。
魔力回路が機能不全を起こしている俺は回復ができない。
ここまでは間違ってないか?」
「うん。実際にダリウスを治癒していたレインも回復が効かないと言っていた。」
「そこで例外が黒龍―ヘカテ―の血だな。
龍の血の効果で一時的とはいえ無理やり魔力回路を活性化させることに成功。
活性化状態で治癒魔法を使うとちゃんとHPの回復見られた。
だから、俺は定期的に龍の血と回復魔法による治療が必要ってことだな。」
「僕も驚いたけどね。
でもおかげでダリウスが助かった。」
そこで、ダリウスが少し考えた。
「俺のこの状態をどうにかするには2通りあると思ってる。
1つは魔力回路に頼らない回復方法を見つける方法。
けど、難しいとは思う。そう言った研究はされてないだろうしな。
で、もう1つが魔力回路を復活させる方法。
俺はこっちの方が可能性があると思ってる。
そもそも、どうして魔力回路は機能不全になったんだろうな?
魔力が無いことと魔力回路が機能しないことは違うことだよな?
魔力回路を機能させるために魔力がいるなら最初はどうやったんだって話だもんな。」
「えっ?」
エドワードは驚いた。そんなこと考えもしなかったことだからだ。
ダリウスの言葉の中に現状を打破するヒントめいたものがあるように思えた。
心がザワついている。何か見落としている気がする。
魔力が無いと機能しない魔力回路。
魔力回路が機能するためには条件があるってことで、それを満たせばいい。
つまり、条件を満たせば魔力回路は機能する。
んん?あっ、そうか。
出来るかも知れない。
「ありがとう。ダリウスのおかげで目途が立ったかもしれない。」
エドワードはおもむろに立ち上がり、ダリウスの呼び止める声も聞かずに出て行ってしまった。
「おいおい、どういうことか説明してから行けよ。」
ダリウスは苦笑しながらひとり呟いた。
***
皆が寝静まった深夜、月明かりだけが丘を照らしている。
その丘には1人の少年が居た。
やがて丘にもう1人、20代と思われる美しい女性が現れた。
人によっては、人目を忍んでの逢瀬だろうかと思われる場面だ。
「まったく、こんな真夜中の呼び出しは初めてよ。
愛の告白をするには及第点のシチュエーションだけど、雰囲気が台無しだわね。
女性に対する扱いがなってないわ。減点よエド。」
女性は木板を取り出すと、少年―エドワードーの足元に投げつけた。
『月が最も高くなる真夜中に丘の上で待ってます。』
「差出人が僕だという事は驚かないんですね?シスターマリア。」
エドワードは苦笑する。
「だって襲撃の後からあなたの私に対する態度が以前と違うもの。
何かあるのかと思うじゃない。」
「同じように振舞ったつもりだったんですけどね。」
襲撃前と変わらぬように振舞っていたはずが、シスターマリアにはしっかりバレていた。
「そっちの道は奥深いわよ。まだまだ未熟なエドじゃ駄目ね。」
楽しそうにシスターマリアは笑う。
この話を続けるのはまずいと思い、強引に話を変えることにした。
「ええと、本題に入りたいのですが、その前に1つ確認です。
あなたは何者ですか?アリステン=フォード様。」
先ほどまで笑っていたシスターマリアは真顔になり、真っすぐにエドワードを見つめる。
「その名前をどこで?」
「察しているんじゃないですか?
僕達が避難したところに現れた悪魔。彼が言っていました。
アリステン=フォードという者以外を皆殺しにする契約だったらしいです。」
「それは根拠にならないわ。
簡易鑑定球で確認してもいいわよ。私の名前はマリアです。」
「いえ、なるんですよ。知ってますか?
悪魔は契約違反をするとペナルティが発生することを。
あの時、悪魔の攻撃であなたは左肩に大けがを負った。
気を失ったあなたは知る由もありませんが、悪魔にペナルティが課せられました。
つまり、そういう事です。
それに鑑定の確認も不要ですよ。
だってあなたは<ステータス偽装>というスキルがあるんですから。」
「なっ、どうして。」
先ほどまで余裕の合ったシスターマリアが焦り始めた。
「僕のは<鑑定>スキルを持っています。
それも簡易鑑定球よりも詳しく鑑定できます。
スキル情報もそれでわかりましたよ。」
はぁっとため息をついて、シスターマリアは佇まいを正した。
「それで、エドは私をどうするつもり?
人気のないところに呼び出したってことは要求があるんでしょ?」
今までにない剣呑とした雰囲気。
「やめてください。僕が脅迫してるみたいじゃないですか。
あなたにお願いがあるだけです。
ダリウスの件です。」
「村長の息子のダリウス君?話が見えないわね。」
「他の人には伏せてますが、ダリウスは先日の襲撃でかなりの怪我を負いました。
幸い一命を取り留めてますが後遺症が出て予断を許さない状況です。」
「ますますわからないわ。
治癒魔法が必要ならレインがいるじゃない。」
「残念ながらダリウスには治癒魔法が効かないんですよ。」
「えっ、嘘。だって前は効いてたじゃない。」
「そこなんです。ある人が言うには、魔力器官が機能してないらしいんです。
どうも魔力が無くなっちゃったらしくて。」
そこでシスターマリアはピンときた。
「ああ、なるほどね。
私のスキルで魔力を回復させるのは無理ね。あくまで偽装なの。
仮に魔力の数値をいじっても見た目はあるように見えても実際はゼロのままよ。」
「いえ、それでいいんです。
魔力がゼロになって魔力器官が機能不全に陥った理由を考えました。
恐らく魔力器官は魔力の有無をステータス情報から判断しているはずです。
魔力器官を騙せれば、ダリウスは回復するはずです。」
「………。」
シスターマリアはしばし無言のままだった。
やがて諦めたように口を開いた。
「それは、神への冒涜よ。
私が言えた義理じゃないけど、ことが知れれば教会に睨まれるわ。」
「何言ってるんですか。
うちの村の連中はそれくらい覚悟してくれますよ。
それにあなたを抱え込むんです。リスクは変わりません。」
「!!あなた、どこまで私の事知ってるの?」
「名前以外知りません。
下手に知って大火傷を負うのが目に見えてるじゃないですか。
よく言うでしょ。知らぬが花ってね。」
「やっぱりエドは女心が分かってないわね。
そこは全て知ったうえで受け止めるくらい言ってほしいものね。
でも、そういうことなら協力するわ。」
こうして、シスターマリアの協力を取り付けることに成功。
後日、ダリウスのもとをシスターマリアと訪れ、治療と称してダリウスのステータス偽装を施してもらうとあっさりと治癒魔法が効いた。
その後ダリウスは順調に回復し、魔力が無くなったこと以外は以前と変わらない元気な姿を見せるようになった。
***
「呼び立ててすまないね。」
あくる日、僕とレインとヘカテは村長に呼び出された。
村長は3通の手紙を取り出して僕たちに見せた。
それは帝都にある魔法学院の推薦状だった。
それはニジゲンの舞台となる学院。
どうやら鑑定の儀で司祭に気に入られたらしく推薦状が送られてきたらしい。
入学方法は異なるがレインのヒロインとしての強制力が働いているのかも知れない。
「本来ならエドワード、ダリウス、レインの3人を推薦しようとおもってたんだがね。
変わりにヘカテさんを入れたのは君のせいだよ。」
そういって村長は苦笑した。
「だってヘカテさんはエドワードと離れると暴れるだろう?」
「離れ離れになるなら、儂が断固抗議するのは当然じゃな」
村長はため息をついた。
「ま、そう言う事だから君たちには魔法学院で学んでほしい。
そしてダリウスの魔力を取り戻す術を探してほしい。
ああ、この推薦状は5年有効だから今すぐじゃなくていい。」
村長は頭を下げた。
その姿は我が子を想う親の姿だった。
僕たちは村長の提案を受け、学院に行くことにした。
レインはニジゲンの正規ルートから外れた。
にもかかわらずニジゲンと同じように魔法学院に入る流れが作られている。
僕は興味がわいた。
ニジゲンの世界は僕たちを舞台に上げさせようとしているように思える。
だから見定めようと思う。
ニジゲンが僕に何を伝えようとしているのかを。
ニジゲンのゲーム本編が始まるのはこれからだ。
襲撃のあった日から三日後の夕方、ダリウスは目を覚ました。
(ここは、俺の部屋か。)
意識を取り戻したダリウスはここが自分の部屋であることを確認。
上体を起こそうとして腕に力を入れると激痛が走った。
足も動かしてみるが、腕と動揺に激痛のため動かすのを断念し、素直に寝ることにした。
(それにしても妙だ。
スキル<最後の蛮勇>は1度限りのスキル。
おそらくは使用者の命と引き換えに能力を数段アップしてくれるのだろう。
そんな破格の能力を使用して、どうしてまだ生きているんだろうか?)
ダリウスの中に浮かんだ疑問はすぐに氷解することとなる。
コンコンッ
部屋のドアがノックされる。
「ダリウス、今いいか?エドワード君が来ているんだ。」
「わかった。構わないよ。」
親父に2つ返事で了承する。
「久しぶりだね。元気…とはいかないか。」
エドワードは少し遠慮がちにしている。
俺がスキルを使ったことに引け目を感じているのだろうか。
「よう、エド。
見ての通りまだ全快じゃねーがな。
とりあえず、立ったままなのもあれだから座れよ。」
エドワードはダリウスに言われ近くにあった椅子に腰を下ろした。
「とにかく、あのスキル使って生きてただけでも良かったよ。
死んだかと思った。」
「全くだ。なんで生きてたんだろうな?」
「多分だけど、ダリウスはもう1つのスキルにMP消費抑制というのがあったからじゃないか。
<最後の蛮勇>はHPとMPを消費するスキルだけど、その時にMP消費抑制が発動して余りが生じた。
だから、使い切ったはずなのにHPが残って生きていた。」
「ああ、なるほど。理屈は通るか。
ま、生き残ったなら何とかなるだろ。
せっかく魔法を覚えたんだ。全快になったらまた修行しよーぜ。」
ハハっと笑うダリウスを見て、エドワードは察した。
恐らく村長はまだダリウスに詳細を伝えていないのだろう。
では、どうする?
今伝えるべきか。それとも折をみて村長から伝えてもらうか。
「なんてな。ヤバい状況なんだろう?
俺の身体はどうなってる?
あれから何があったのか教えてくれ。」
ダリウスを見ると、あの黒龍と戦った時にみせた覚悟の決まった顔をしていた。
だからエドワードはすべて話すことにした。
「なるほど。俺は魔力が無くなったのか。」
ダリウスは静かに呟き、目から一筋の涙が頬を伝い落ちた。
エドワードは何も言わなかった。言えなかった。
そのまま部屋はしんみりとした雰囲気になって数分が経過して突然、ダリウスが笑い始めた。
エドワードはダリウスがついに壊れたのかと心配になったが、そうではなかった。
ダリウスの眼に強い意志がこもっていた。
「なるほどな。
その程度笑って跳ねのけてやるわ。」
ダリウスの中で結論が出たらしい。
「いくつか確認させてくれ。
まず、俺は黒龍との戦いでスキルを使って魔力が無くなった。
そのスキルは禁忌と呼ばれる類のもので、通常は死ぬが俺は運よく生き残った。
だが、魔力回路―人間でいう魔力器官―が機能不全を起こしている状態。
次に、HPの制御は魔力回路で行われている。
HPは常に使用されるが、同時に回復も行っている。
そのため、普通はHPが常に減り続けるという状況にはならない。
最後に、回復は魔力回路を介して行われている。
これは治癒魔法に限らず、ポーションなどの回復薬でも同様。
魔力回路が機能不全を起こしている俺は回復ができない。
ここまでは間違ってないか?」
「うん。実際にダリウスを治癒していたレインも回復が効かないと言っていた。」
「そこで例外が黒龍―ヘカテ―の血だな。
龍の血の効果で一時的とはいえ無理やり魔力回路を活性化させることに成功。
活性化状態で治癒魔法を使うとちゃんとHPの回復見られた。
だから、俺は定期的に龍の血と回復魔法による治療が必要ってことだな。」
「僕も驚いたけどね。
でもおかげでダリウスが助かった。」
そこで、ダリウスが少し考えた。
「俺のこの状態をどうにかするには2通りあると思ってる。
1つは魔力回路に頼らない回復方法を見つける方法。
けど、難しいとは思う。そう言った研究はされてないだろうしな。
で、もう1つが魔力回路を復活させる方法。
俺はこっちの方が可能性があると思ってる。
そもそも、どうして魔力回路は機能不全になったんだろうな?
魔力が無いことと魔力回路が機能しないことは違うことだよな?
魔力回路を機能させるために魔力がいるなら最初はどうやったんだって話だもんな。」
「えっ?」
エドワードは驚いた。そんなこと考えもしなかったことだからだ。
ダリウスの言葉の中に現状を打破するヒントめいたものがあるように思えた。
心がザワついている。何か見落としている気がする。
魔力が無いと機能しない魔力回路。
魔力回路が機能するためには条件があるってことで、それを満たせばいい。
つまり、条件を満たせば魔力回路は機能する。
んん?あっ、そうか。
出来るかも知れない。
「ありがとう。ダリウスのおかげで目途が立ったかもしれない。」
エドワードはおもむろに立ち上がり、ダリウスの呼び止める声も聞かずに出て行ってしまった。
「おいおい、どういうことか説明してから行けよ。」
ダリウスは苦笑しながらひとり呟いた。
***
皆が寝静まった深夜、月明かりだけが丘を照らしている。
その丘には1人の少年が居た。
やがて丘にもう1人、20代と思われる美しい女性が現れた。
人によっては、人目を忍んでの逢瀬だろうかと思われる場面だ。
「まったく、こんな真夜中の呼び出しは初めてよ。
愛の告白をするには及第点のシチュエーションだけど、雰囲気が台無しだわね。
女性に対する扱いがなってないわ。減点よエド。」
女性は木板を取り出すと、少年―エドワードーの足元に投げつけた。
『月が最も高くなる真夜中に丘の上で待ってます。』
「差出人が僕だという事は驚かないんですね?シスターマリア。」
エドワードは苦笑する。
「だって襲撃の後からあなたの私に対する態度が以前と違うもの。
何かあるのかと思うじゃない。」
「同じように振舞ったつもりだったんですけどね。」
襲撃前と変わらぬように振舞っていたはずが、シスターマリアにはしっかりバレていた。
「そっちの道は奥深いわよ。まだまだ未熟なエドじゃ駄目ね。」
楽しそうにシスターマリアは笑う。
この話を続けるのはまずいと思い、強引に話を変えることにした。
「ええと、本題に入りたいのですが、その前に1つ確認です。
あなたは何者ですか?アリステン=フォード様。」
先ほどまで笑っていたシスターマリアは真顔になり、真っすぐにエドワードを見つめる。
「その名前をどこで?」
「察しているんじゃないですか?
僕達が避難したところに現れた悪魔。彼が言っていました。
アリステン=フォードという者以外を皆殺しにする契約だったらしいです。」
「それは根拠にならないわ。
簡易鑑定球で確認してもいいわよ。私の名前はマリアです。」
「いえ、なるんですよ。知ってますか?
悪魔は契約違反をするとペナルティが発生することを。
あの時、悪魔の攻撃であなたは左肩に大けがを負った。
気を失ったあなたは知る由もありませんが、悪魔にペナルティが課せられました。
つまり、そういう事です。
それに鑑定の確認も不要ですよ。
だってあなたは<ステータス偽装>というスキルがあるんですから。」
「なっ、どうして。」
先ほどまで余裕の合ったシスターマリアが焦り始めた。
「僕のは<鑑定>スキルを持っています。
それも簡易鑑定球よりも詳しく鑑定できます。
スキル情報もそれでわかりましたよ。」
はぁっとため息をついて、シスターマリアは佇まいを正した。
「それで、エドは私をどうするつもり?
人気のないところに呼び出したってことは要求があるんでしょ?」
今までにない剣呑とした雰囲気。
「やめてください。僕が脅迫してるみたいじゃないですか。
あなたにお願いがあるだけです。
ダリウスの件です。」
「村長の息子のダリウス君?話が見えないわね。」
「他の人には伏せてますが、ダリウスは先日の襲撃でかなりの怪我を負いました。
幸い一命を取り留めてますが後遺症が出て予断を許さない状況です。」
「ますますわからないわ。
治癒魔法が必要ならレインがいるじゃない。」
「残念ながらダリウスには治癒魔法が効かないんですよ。」
「えっ、嘘。だって前は効いてたじゃない。」
「そこなんです。ある人が言うには、魔力器官が機能してないらしいんです。
どうも魔力が無くなっちゃったらしくて。」
そこでシスターマリアはピンときた。
「ああ、なるほどね。
私のスキルで魔力を回復させるのは無理ね。あくまで偽装なの。
仮に魔力の数値をいじっても見た目はあるように見えても実際はゼロのままよ。」
「いえ、それでいいんです。
魔力がゼロになって魔力器官が機能不全に陥った理由を考えました。
恐らく魔力器官は魔力の有無をステータス情報から判断しているはずです。
魔力器官を騙せれば、ダリウスは回復するはずです。」
「………。」
シスターマリアはしばし無言のままだった。
やがて諦めたように口を開いた。
「それは、神への冒涜よ。
私が言えた義理じゃないけど、ことが知れれば教会に睨まれるわ。」
「何言ってるんですか。
うちの村の連中はそれくらい覚悟してくれますよ。
それにあなたを抱え込むんです。リスクは変わりません。」
「!!あなた、どこまで私の事知ってるの?」
「名前以外知りません。
下手に知って大火傷を負うのが目に見えてるじゃないですか。
よく言うでしょ。知らぬが花ってね。」
「やっぱりエドは女心が分かってないわね。
そこは全て知ったうえで受け止めるくらい言ってほしいものね。
でも、そういうことなら協力するわ。」
こうして、シスターマリアの協力を取り付けることに成功。
後日、ダリウスのもとをシスターマリアと訪れ、治療と称してダリウスのステータス偽装を施してもらうとあっさりと治癒魔法が効いた。
その後ダリウスは順調に回復し、魔力が無くなったこと以外は以前と変わらない元気な姿を見せるようになった。
***
「呼び立ててすまないね。」
あくる日、僕とレインとヘカテは村長に呼び出された。
村長は3通の手紙を取り出して僕たちに見せた。
それは帝都にある魔法学院の推薦状だった。
それはニジゲンの舞台となる学院。
どうやら鑑定の儀で司祭に気に入られたらしく推薦状が送られてきたらしい。
入学方法は異なるがレインのヒロインとしての強制力が働いているのかも知れない。
「本来ならエドワード、ダリウス、レインの3人を推薦しようとおもってたんだがね。
変わりにヘカテさんを入れたのは君のせいだよ。」
そういって村長は苦笑した。
「だってヘカテさんはエドワードと離れると暴れるだろう?」
「離れ離れになるなら、儂が断固抗議するのは当然じゃな」
村長はため息をついた。
「ま、そう言う事だから君たちには魔法学院で学んでほしい。
そしてダリウスの魔力を取り戻す術を探してほしい。
ああ、この推薦状は5年有効だから今すぐじゃなくていい。」
村長は頭を下げた。
その姿は我が子を想う親の姿だった。
僕たちは村長の提案を受け、学院に行くことにした。
レインはニジゲンの正規ルートから外れた。
にもかかわらずニジゲンと同じように魔法学院に入る流れが作られている。
僕は興味がわいた。
ニジゲンの世界は僕たちを舞台に上げさせようとしているように思える。
だから見定めようと思う。
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ニジゲンのゲーム本編が始まるのはこれからだ。
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