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笑顔で溢れる素敵な世界
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大切な祖父の葬儀だと言うのに私は我慢が出来なかった。我慢しようとすればする程、その反発は強くなり遂には形として出てきてしまった。
葬儀の途中にも関わらず父は私の頬を思いっきしぶん殴りこの身を後方へ飛ばした。“またか”と思いながらゆっくりと立ち上がろうとすると父は茹でたタコみたいに真っ赤な顔で近付いて来ると胸ぐらを掴みかかり、思いっきし唾を飛ばして罵声を浴びせた。
ふと、辺りを見渡すと皆、神妙な顔持ちでこちらを見ている。困惑、呆れ、ドン引き、疑念、様々な感情が渦巻いてるようだ。
そんな中、空気の読めない私は父に言った。
「飛沫が凄いよ。これ以上飛ばさないでよ、それにそんな大きな声で叫ばなくても私には…」
『分かる、よ』と全てを言い終える前に私はまた飛ばされた。
夕暮れ時、独り寂しく歩く下校の道。頬と腰の痛みがまだ残っていた。飛ばされた時、変な受け身の取り方をしたからか、手首もやっちゃったみたいだ。
あれから2週間、父は私とは一切、口を聞いてくれないし母も露骨に避けるようになった。姉は2つ下の妹を疎ましく思ったのかいないものとして扱い、今年小学生になったばかりの愛くるしい弟も同様だ。
当然、この気味の悪い癖のせいで友人もおらず明かりのない学校生活を送っている。
『今の私にはこの夕焼けでさえ眩しいよ』と思いながらとぼとぼと歩いていると横目に変な存在が映った。この時代に露天商…?珍しいと思いつつも、止めた足を再び進める。
「ちょいと、そこのお嬢さん」
声を掛けられた。しかしガン無視を決め込む。
「ちょっと、そこの影のあるお嬢さん。貴方ですよ、こんな秋風の沁み渡る夕暮れの道を寂しそうな背中で歩く貴方のことです」
一言余計だなこいつ。ムッと来た私は露天商のおじさんの前まで戻った。
「なんですか?何か私に用ですか?」
「随分と不機嫌な物言いだね。せっかくの可愛い顔が勿体ないよ。こんなにも良い笑顔なのに」
マジシャンみたいな高さのあるハット帽を被るおじさんは白髪混じりの少しボリュームのある髪としっかりと蓄えられた髭を持ったジェントルマン…?のような見た目だった。おまけに片眼鏡にマントまで着用して、怪しげな杖まで近くに置いてある。
「さっきから一言余計、貴方こそ誰なんですか?そんな売れないマジシャンみたいな格好して、コスプレが趣味なんですか?それとも不審者ですか?」
「おぉ、君思ったより言うんだねぇ」
露天商のおじさんは地べたから立ち上がると水晶を取り出し何やら見通しを始める。
「あの、何やって…」
「しっ、静かに。君の心の悩みを視ているんだ。ふむふむ、そっかそっか。君は自分の笑顔にコンプレックスがあるようだね、だから今も笑っているんだ」
息が詰まったような感覚を覚えた。
「なんでそれを……」
男はこの問いに答えることは無かった。代わりにこんなことを言ってきた。
「これも何かの縁だ。もし、君が悩みを解決したいと本気で願うなら、この石をあげよう。見てくれは悪いが年代物の貴重品だ。ネックレス状になっている。もし君が、本当にその悩みを解決したいと願うならその石に強く願いを込めるといい。ただし願いの効力は絶大、広範囲で効く。くれぐれも使い方には気をつけて」
半ば無理矢理押し付ける形で私にそれを渡して来たおじさんは店を迅速で畳み、この地を後にしようとする。去り際に「もし、君の望んだ世界じゃなかったら何度でも強くその石に願ってくれ。気持ちが本物なら何度でもその石は君の強い意志に応えてくれる筈だ」。最後にその怪しいおじさんは「石だけに意思ってな!!」としょうもない事を言い残し、夕陽に向かって影を小さくして行った。
それを持ち帰った私は半信半疑ながらも石に今の気持ちを強く願った。そして、願いは叶ったんだ。彼の言う通り、効果は絶大、広範囲でこの願いは届いた。だけど、世界がつまらなくなった。何故ならば皆、『笑うことを忘れたから』だ。
世界から笑顔が消えた今、お笑い芸人という職種や笑気スプレーが消えた。人々は皆、冷徹な面持ちに生きて行った。
これは私の願った世界じゃない、そう思った私はもう一度、石に願った。今度は『笑顔で溢れる素敵な世界』を。
そしたら、人々は張り付いた笑顔で歩くようになった。何も無いのに人々はよく笑い、微笑みかけて、談笑をした。
そんな世界に耐えられなくなった私はもう一度、石に願おうとした。そしたら、石は何故か私の気持ちに応えてくれず突然、砕け落ちた。
パニックに陥った私は家を飛び出し外を駆け回った。冷静じゃなかった私は車の存在に気付けなかった。
遠くまで跳ねられた私はあの日の出来事を思い出した。そしてこれまでの人生のことを。
“失笑恐怖症”……これが全ての元凶だった。始まりは小学2年生の頃にまで遡る。休み時間にドッジボールをしていて次の授業までに教室に戻って来れなかった私たちは担任の先生に凄く怒られた、皆が泣き、謝り、怯え、後悔し俯いてる中、私一人だけが何故か笑っていた。
「お前はふざけているのか?反省の色が見えないな、こっちに来なさい。個人的な話がある」
それからは地獄の日々の繰り返しだった。シリアスな場面、静寂な空間。それに耐えることが出来なかった。私にとってはそれがとても地獄だったんだ。でもこうして今、世界は……。
意識が事切れる前、私の視界に入ったそれは怖いくらい不気味な笑顔を浮かべた人々だった。
救急搬送された私はその後、近くの病院に運ばれたが帰ることは無かった。意志は最善を尽くした…らしい。
「まだ若いのに、可哀想ね、この子も」
近くで看護師さんの声がする。もう一人の看護師さんと話してるみたいだ。
人は死後も数分間は意識があり、耳から音が入ってくると言うがどうやらそれは本当だったみたいだ。現にこうして私に意識がある。にしても、何を話しているのだろうか?
会話に集中してみる。
「でも、この子も安らかに逝くことが出来たんじゃないのかしら?だって、ほらこんなにも安らかに眠ってるじゃない。良い笑顔よ」
いい笑顔……?
そっか、私は全てを察した。
皮肉にも私の最後の願いがこの世界を沢山の笑顔で満たした。
だけど、きっとこの世界から悲しみが消えることは無い。争いも憎しみも、命の灯火が消え行く避けられない現実も。
でも、それでいいんだ。それで。
だって、この世界はこんなにも素敵な絵顔で溢れる『セカイ』なのだから。
葬儀の途中にも関わらず父は私の頬を思いっきしぶん殴りこの身を後方へ飛ばした。“またか”と思いながらゆっくりと立ち上がろうとすると父は茹でたタコみたいに真っ赤な顔で近付いて来ると胸ぐらを掴みかかり、思いっきし唾を飛ばして罵声を浴びせた。
ふと、辺りを見渡すと皆、神妙な顔持ちでこちらを見ている。困惑、呆れ、ドン引き、疑念、様々な感情が渦巻いてるようだ。
そんな中、空気の読めない私は父に言った。
「飛沫が凄いよ。これ以上飛ばさないでよ、それにそんな大きな声で叫ばなくても私には…」
『分かる、よ』と全てを言い終える前に私はまた飛ばされた。
夕暮れ時、独り寂しく歩く下校の道。頬と腰の痛みがまだ残っていた。飛ばされた時、変な受け身の取り方をしたからか、手首もやっちゃったみたいだ。
あれから2週間、父は私とは一切、口を聞いてくれないし母も露骨に避けるようになった。姉は2つ下の妹を疎ましく思ったのかいないものとして扱い、今年小学生になったばかりの愛くるしい弟も同様だ。
当然、この気味の悪い癖のせいで友人もおらず明かりのない学校生活を送っている。
『今の私にはこの夕焼けでさえ眩しいよ』と思いながらとぼとぼと歩いていると横目に変な存在が映った。この時代に露天商…?珍しいと思いつつも、止めた足を再び進める。
「ちょいと、そこのお嬢さん」
声を掛けられた。しかしガン無視を決め込む。
「ちょっと、そこの影のあるお嬢さん。貴方ですよ、こんな秋風の沁み渡る夕暮れの道を寂しそうな背中で歩く貴方のことです」
一言余計だなこいつ。ムッと来た私は露天商のおじさんの前まで戻った。
「なんですか?何か私に用ですか?」
「随分と不機嫌な物言いだね。せっかくの可愛い顔が勿体ないよ。こんなにも良い笑顔なのに」
マジシャンみたいな高さのあるハット帽を被るおじさんは白髪混じりの少しボリュームのある髪としっかりと蓄えられた髭を持ったジェントルマン…?のような見た目だった。おまけに片眼鏡にマントまで着用して、怪しげな杖まで近くに置いてある。
「さっきから一言余計、貴方こそ誰なんですか?そんな売れないマジシャンみたいな格好して、コスプレが趣味なんですか?それとも不審者ですか?」
「おぉ、君思ったより言うんだねぇ」
露天商のおじさんは地べたから立ち上がると水晶を取り出し何やら見通しを始める。
「あの、何やって…」
「しっ、静かに。君の心の悩みを視ているんだ。ふむふむ、そっかそっか。君は自分の笑顔にコンプレックスがあるようだね、だから今も笑っているんだ」
息が詰まったような感覚を覚えた。
「なんでそれを……」
男はこの問いに答えることは無かった。代わりにこんなことを言ってきた。
「これも何かの縁だ。もし、君が悩みを解決したいと本気で願うなら、この石をあげよう。見てくれは悪いが年代物の貴重品だ。ネックレス状になっている。もし君が、本当にその悩みを解決したいと願うならその石に強く願いを込めるといい。ただし願いの効力は絶大、広範囲で効く。くれぐれも使い方には気をつけて」
半ば無理矢理押し付ける形で私にそれを渡して来たおじさんは店を迅速で畳み、この地を後にしようとする。去り際に「もし、君の望んだ世界じゃなかったら何度でも強くその石に願ってくれ。気持ちが本物なら何度でもその石は君の強い意志に応えてくれる筈だ」。最後にその怪しいおじさんは「石だけに意思ってな!!」としょうもない事を言い残し、夕陽に向かって影を小さくして行った。
それを持ち帰った私は半信半疑ながらも石に今の気持ちを強く願った。そして、願いは叶ったんだ。彼の言う通り、効果は絶大、広範囲でこの願いは届いた。だけど、世界がつまらなくなった。何故ならば皆、『笑うことを忘れたから』だ。
世界から笑顔が消えた今、お笑い芸人という職種や笑気スプレーが消えた。人々は皆、冷徹な面持ちに生きて行った。
これは私の願った世界じゃない、そう思った私はもう一度、石に願った。今度は『笑顔で溢れる素敵な世界』を。
そしたら、人々は張り付いた笑顔で歩くようになった。何も無いのに人々はよく笑い、微笑みかけて、談笑をした。
そんな世界に耐えられなくなった私はもう一度、石に願おうとした。そしたら、石は何故か私の気持ちに応えてくれず突然、砕け落ちた。
パニックに陥った私は家を飛び出し外を駆け回った。冷静じゃなかった私は車の存在に気付けなかった。
遠くまで跳ねられた私はあの日の出来事を思い出した。そしてこれまでの人生のことを。
“失笑恐怖症”……これが全ての元凶だった。始まりは小学2年生の頃にまで遡る。休み時間にドッジボールをしていて次の授業までに教室に戻って来れなかった私たちは担任の先生に凄く怒られた、皆が泣き、謝り、怯え、後悔し俯いてる中、私一人だけが何故か笑っていた。
「お前はふざけているのか?反省の色が見えないな、こっちに来なさい。個人的な話がある」
それからは地獄の日々の繰り返しだった。シリアスな場面、静寂な空間。それに耐えることが出来なかった。私にとってはそれがとても地獄だったんだ。でもこうして今、世界は……。
意識が事切れる前、私の視界に入ったそれは怖いくらい不気味な笑顔を浮かべた人々だった。
救急搬送された私はその後、近くの病院に運ばれたが帰ることは無かった。意志は最善を尽くした…らしい。
「まだ若いのに、可哀想ね、この子も」
近くで看護師さんの声がする。もう一人の看護師さんと話してるみたいだ。
人は死後も数分間は意識があり、耳から音が入ってくると言うがどうやらそれは本当だったみたいだ。現にこうして私に意識がある。にしても、何を話しているのだろうか?
会話に集中してみる。
「でも、この子も安らかに逝くことが出来たんじゃないのかしら?だって、ほらこんなにも安らかに眠ってるじゃない。良い笑顔よ」
いい笑顔……?
そっか、私は全てを察した。
皮肉にも私の最後の願いがこの世界を沢山の笑顔で満たした。
だけど、きっとこの世界から悲しみが消えることは無い。争いも憎しみも、命の灯火が消え行く避けられない現実も。
でも、それでいいんだ。それで。
だって、この世界はこんなにも素敵な絵顔で溢れる『セカイ』なのだから。
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