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第一部 第三章 魔王と勇者
31・忘れていました
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やはり天使が居ました。
でも、勇者は一緒ではないと言うのです。
竜の子というのは……おそらく――
竜の子供なのでしょう……。
いや、私の想像力では、その程度しか考えられません。
だいたい、竜の実物だって見た事もないのですから。
「でも、どういう事なの?」
勇者の魔王討伐を手伝うのが天使だと聞いていたので、勇者と天使はセットだと思っていました。
「サオリ様も、魔族領へ行かれるのですか?」
私は妖精のフォレスに説明をしました。
「魔族領に用はないのですけど、騎士団が勇者が倒れた事を知らずに調査に向かってしまっているので、それを止めたいのです」
「勇者が倒れた?」
「たぶん……魔王にやられてしまったかと思います」
「そうなのですか……だとしたら、アラン様のご友人の魔王化は、止められなかったのかもしれませんね」
「アラン様?」
フォレスはここで顔を赤らめ、俯いてしまいました。
あれ? この反応は?――もしかして。
「アラン様は……先ほど言った、魔力値が異常な人間の男性です。まだ精霊だった私と合体して魔族の者を倒したのです」
合体の意味がよく分かりませんが、それによって魔族を倒したと言うのですから、一瞬浮かんだ如何わしい想像は頭から排除します。
「異常というのは、魔力がとんでもなく高いとか?」
「いえ、……アラン様は魔力そのものは一切持っていない特異な体質の方だったのです。異常というのは、本来あるべきはずの魔力が反転……つまりマイナスとしてその体に蓄積していたのです。しかも膨大な値として」
この世界の生まれでもない私には、少し話が難しかったです。
ハッキリ言って、よく理解できませんでした。
「とにかく、勇者でもないアランという人に、天使が二人も付いていたのですね?」
「はい。この森に来た時から、一緒でした」
益々わけが分かりませんが、ここで重要な事は、勇者でも天使でもアランでもありません。
ランドルフの行方です。
「魔族領に向かうには、この道を真っ直ぐであっていますか?」
「はい。ずっと道なりに北へ進めば、いずれ魔族領です」
「他に道は?」
「もちろん北へ向かう道はたくさんありますよ。この森を抜けるのはそのうちの一つにすぎません」
ですよね……。
私は同じ北でも、まったく違う道からランドルフを追っていたと言う事です。
「分かりました。ありがとうフォレスさん。私は今日はもう帰ります」
「あの、サオリ様」
フォレスは帰ろうとする私に、顔を赤らめて何らやモジモジしています。
「なあに?」
「あの、あの……もし、アラン様に会う事があったら、フォレスは生まれ変わってこの森でお待ちしていると、伝えてもらえないでしょうか」
やっぱりこの妖精さんは、アランという男の人が好きだったみたいです。
最初に『アラン』と言葉にした時から、態度がそう語っていました。
「分かったわ。会う事があれば必ずそう伝えます。フォレスさんの好きな人なんでしょう?」
「ありがとうございます。……好きと言えば、はい。大好きなのですけど、私のパパなのです。アラン様は」
「はい?」
人間の子供が妖精とか、在り得るのでしょうか。
人間と妖精のハーフ? ――だから私のイメージしている妖精と違って、体が大きいのでしょうか。
「ぱ、パパだったんだ……」
「正確に言えば、フォレスという精霊とアラン様が体を合わせた後に出来た子供が、妖精の私、フォレスなのですけど。一度森に溶けた身なので、生まれ変わったと言った方がいいかもしれません」
言っている事が、まったくわかりません。
この世界の人なら、理解できる言葉なのでしょうか。
「えっと、じゃあ帰りますね。お元気で、フォレスさん」
撤退です。
いまだに馬の背に眠るラフィーの後ろに乗りこみ――と、思いましたが、ラフィーが踏み台を作ってくれないと、馬の鞍に乗れないので、馬の横で手綱を持ちつつノートを開いて、転移の簡略文字列を書き込みます。
私が馬に触れた状態ならば、一緒に転移できるのです。
「では、フォレスさん」
「はい、また来て下さいね。サオリ様」
パシン! と空間を切り裂いて、私たちはコンビ二へと転移しました。
「サオリ!」
「え? ランドルフ?」
戻った直後にランドルフに声を掛けられて、驚いてしまいました。
「どうしてここに? ずっと探していたのよ?」
「そうだったのか。いや、さっき戻ったばかりなんだよ」
「戻ったって、……どうして?」
この三ヶ月間、まったく追いつけなくて焦っていた私ですが、ランドルフの姿を見て安堵しました。
「途中で寄った街のギルドで、勇者の訃報を聞いたんだ。ギルドには定期魔法便という連絡網があってね、どこのギルド支部も情報をすぐに共有できるようになっているんだよ」
「そんな連絡方法があったのね。よく分からないけど。でも、戻ってくれて良かった。私は勇者の剣が発注できる事を知って、勇者がどうなったのか分かったのよ」
「なるほど、で、勇者を蘇生魔法に掛けてくれたんだね? さすがサオリだ」
「え!?」
「え?」
何てことでしょう――
私……すっかり忘れていました。
――蘇生魔法の事。
「どうしよう、ランドルフ。……私、ランドルフの事ばかりが心配で、勇者に蘇生魔法掛けるだなんて、思いつきもしなかった……」
「そ、そうか。……それは残念だが、今からじゃ駄目なのだろうか」
今からと言っても、既に数か月も経っているので、アンデッド化は免れないと思います。
「出来たとしても、人間として生き返る事はないと思うわ。ランドルフ」
「エリオットのようになるのか……しかも期限付きで」
「ごめんなさい! ランドルフ。私、どうしよう!」
勇者ローランドはランドルフのいとこです。
ランドルフからしたら、絶対に生き返らせたいのに違いありません。
「サオリはそれだけ俺の事を心配してくれていたんだね。だから責めたりはしないよ。ローランドの事は残念だが、今は別の事で王都は大変なんだ……」
「王都が大変?」
「……うん」
ランドルフは少し迷っていましたが、いつものように私に打ち明けてくれました。
「王宮に魔王が現れ、デニス国王を脅した」
「えええ!?」
「この国もどうなるか分からない。俺もすぐに戻らなければならないから、また来るよ、サオリ。何があっても生きるんだよ、いいね」
ランドルフは忙しい時間を縫って、私の様子を見に来てくれたようです。
すぐに馬に乗り、王都へと帰ってしまいました。
「魔王が……この国に?」
それはいったい、何を意味するのでしょう。
ランドルフは、国王が脅されたと言っていました。
妖精さんの言っていた、アランという人や、天使たちはどうなったのでしょう。
まさか、勇者と同じように……。
お店の中を覗いて、カーマイルが床で寝ているのを確認して、裏の自宅に戻りました。
「お馬さんも後で返しに行かないとね」
シルバニア家で借りた馬を、自宅の横に後から建てた馬小屋の中に繋いで休ませ、私とラフィーは家の中へ入りました。
リビングのソファに座り、まだ眠たげなラフィーを抱っこします。
「ねえ、ラフィー。勇者が居なくても、魔王に勝てるものなの?」
私の予想では魔王討伐にはおそらく、勇者とその剣が必要なのでは、という気がしています。
ラフィーは多くを語りませんが、しっかりと答えてくれました。
「んー、無理」
この国は、――この世界は。
いったい、どうなってしまうのでしょう。
でも、勇者は一緒ではないと言うのです。
竜の子というのは……おそらく――
竜の子供なのでしょう……。
いや、私の想像力では、その程度しか考えられません。
だいたい、竜の実物だって見た事もないのですから。
「でも、どういう事なの?」
勇者の魔王討伐を手伝うのが天使だと聞いていたので、勇者と天使はセットだと思っていました。
「サオリ様も、魔族領へ行かれるのですか?」
私は妖精のフォレスに説明をしました。
「魔族領に用はないのですけど、騎士団が勇者が倒れた事を知らずに調査に向かってしまっているので、それを止めたいのです」
「勇者が倒れた?」
「たぶん……魔王にやられてしまったかと思います」
「そうなのですか……だとしたら、アラン様のご友人の魔王化は、止められなかったのかもしれませんね」
「アラン様?」
フォレスはここで顔を赤らめ、俯いてしまいました。
あれ? この反応は?――もしかして。
「アラン様は……先ほど言った、魔力値が異常な人間の男性です。まだ精霊だった私と合体して魔族の者を倒したのです」
合体の意味がよく分かりませんが、それによって魔族を倒したと言うのですから、一瞬浮かんだ如何わしい想像は頭から排除します。
「異常というのは、魔力がとんでもなく高いとか?」
「いえ、……アラン様は魔力そのものは一切持っていない特異な体質の方だったのです。異常というのは、本来あるべきはずの魔力が反転……つまりマイナスとしてその体に蓄積していたのです。しかも膨大な値として」
この世界の生まれでもない私には、少し話が難しかったです。
ハッキリ言って、よく理解できませんでした。
「とにかく、勇者でもないアランという人に、天使が二人も付いていたのですね?」
「はい。この森に来た時から、一緒でした」
益々わけが分かりませんが、ここで重要な事は、勇者でも天使でもアランでもありません。
ランドルフの行方です。
「魔族領に向かうには、この道を真っ直ぐであっていますか?」
「はい。ずっと道なりに北へ進めば、いずれ魔族領です」
「他に道は?」
「もちろん北へ向かう道はたくさんありますよ。この森を抜けるのはそのうちの一つにすぎません」
ですよね……。
私は同じ北でも、まったく違う道からランドルフを追っていたと言う事です。
「分かりました。ありがとうフォレスさん。私は今日はもう帰ります」
「あの、サオリ様」
フォレスは帰ろうとする私に、顔を赤らめて何らやモジモジしています。
「なあに?」
「あの、あの……もし、アラン様に会う事があったら、フォレスは生まれ変わってこの森でお待ちしていると、伝えてもらえないでしょうか」
やっぱりこの妖精さんは、アランという男の人が好きだったみたいです。
最初に『アラン』と言葉にした時から、態度がそう語っていました。
「分かったわ。会う事があれば必ずそう伝えます。フォレスさんの好きな人なんでしょう?」
「ありがとうございます。……好きと言えば、はい。大好きなのですけど、私のパパなのです。アラン様は」
「はい?」
人間の子供が妖精とか、在り得るのでしょうか。
人間と妖精のハーフ? ――だから私のイメージしている妖精と違って、体が大きいのでしょうか。
「ぱ、パパだったんだ……」
「正確に言えば、フォレスという精霊とアラン様が体を合わせた後に出来た子供が、妖精の私、フォレスなのですけど。一度森に溶けた身なので、生まれ変わったと言った方がいいかもしれません」
言っている事が、まったくわかりません。
この世界の人なら、理解できる言葉なのでしょうか。
「えっと、じゃあ帰りますね。お元気で、フォレスさん」
撤退です。
いまだに馬の背に眠るラフィーの後ろに乗りこみ――と、思いましたが、ラフィーが踏み台を作ってくれないと、馬の鞍に乗れないので、馬の横で手綱を持ちつつノートを開いて、転移の簡略文字列を書き込みます。
私が馬に触れた状態ならば、一緒に転移できるのです。
「では、フォレスさん」
「はい、また来て下さいね。サオリ様」
パシン! と空間を切り裂いて、私たちはコンビ二へと転移しました。
「サオリ!」
「え? ランドルフ?」
戻った直後にランドルフに声を掛けられて、驚いてしまいました。
「どうしてここに? ずっと探していたのよ?」
「そうだったのか。いや、さっき戻ったばかりなんだよ」
「戻ったって、……どうして?」
この三ヶ月間、まったく追いつけなくて焦っていた私ですが、ランドルフの姿を見て安堵しました。
「途中で寄った街のギルドで、勇者の訃報を聞いたんだ。ギルドには定期魔法便という連絡網があってね、どこのギルド支部も情報をすぐに共有できるようになっているんだよ」
「そんな連絡方法があったのね。よく分からないけど。でも、戻ってくれて良かった。私は勇者の剣が発注できる事を知って、勇者がどうなったのか分かったのよ」
「なるほど、で、勇者を蘇生魔法に掛けてくれたんだね? さすがサオリだ」
「え!?」
「え?」
何てことでしょう――
私……すっかり忘れていました。
――蘇生魔法の事。
「どうしよう、ランドルフ。……私、ランドルフの事ばかりが心配で、勇者に蘇生魔法掛けるだなんて、思いつきもしなかった……」
「そ、そうか。……それは残念だが、今からじゃ駄目なのだろうか」
今からと言っても、既に数か月も経っているので、アンデッド化は免れないと思います。
「出来たとしても、人間として生き返る事はないと思うわ。ランドルフ」
「エリオットのようになるのか……しかも期限付きで」
「ごめんなさい! ランドルフ。私、どうしよう!」
勇者ローランドはランドルフのいとこです。
ランドルフからしたら、絶対に生き返らせたいのに違いありません。
「サオリはそれだけ俺の事を心配してくれていたんだね。だから責めたりはしないよ。ローランドの事は残念だが、今は別の事で王都は大変なんだ……」
「王都が大変?」
「……うん」
ランドルフは少し迷っていましたが、いつものように私に打ち明けてくれました。
「王宮に魔王が現れ、デニス国王を脅した」
「えええ!?」
「この国もどうなるか分からない。俺もすぐに戻らなければならないから、また来るよ、サオリ。何があっても生きるんだよ、いいね」
ランドルフは忙しい時間を縫って、私の様子を見に来てくれたようです。
すぐに馬に乗り、王都へと帰ってしまいました。
「魔王が……この国に?」
それはいったい、何を意味するのでしょう。
ランドルフは、国王が脅されたと言っていました。
妖精さんの言っていた、アランという人や、天使たちはどうなったのでしょう。
まさか、勇者と同じように……。
お店の中を覗いて、カーマイルが床で寝ているのを確認して、裏の自宅に戻りました。
「お馬さんも後で返しに行かないとね」
シルバニア家で借りた馬を、自宅の横に後から建てた馬小屋の中に繋いで休ませ、私とラフィーは家の中へ入りました。
リビングのソファに座り、まだ眠たげなラフィーを抱っこします。
「ねえ、ラフィー。勇者が居なくても、魔王に勝てるものなの?」
私の予想では魔王討伐にはおそらく、勇者とその剣が必要なのでは、という気がしています。
ラフィーは多くを語りませんが、しっかりと答えてくれました。
「んー、無理」
この国は、――この世界は。
いったい、どうなってしまうのでしょう。
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