宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢学園編

悪役令嬢は殴らない

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次の試験は支援系統の魔術だ。
さっそくペアが発表されているようだ。
レオン殿下はめでたくヒロインフローラと、ヴォルグ様はウィルムと。
この調子でペアが発表されていくのはなんだか嫌な感じがする。


「7組目、エルヴェラール=フィオン=インヴィディア、アルム=ルイス=マクレーン」


みごとにフラグが回収されてしまった。
嫌だよアルムとペアなんて。
私は生徒たちの中からひときわ目立つ水色の髪のアルムを見つけると側に行った。


「君とペアだなんて残念。手を抜いたり不正したりしたら許さないから」


「私もとっっっても残念です!  不本意ながらよろしくお願いしますね?  あとそのお言葉そっくりそのままお返しいたしますわ」


私は前世で見た学園ものの嫌味な生徒のセリフを真似てアルムに対抗した。
アルムはそれも全く意に介さない様子で黙って腕組みをしている。
喫茶店での一件もそうだが、私の何が気にくわないというのだろう。
私はアルムの隣で順番が先のペアの実技を眺めていた。


「次、レオン=カイル=ローゼンシュヴァリエ、フローラ=ブラン」


学園では平等がうたわれ、身分による上下関係を作ることが禁止されており、先生方も王族や先生方よりも上位の貴族の子息も貴族ではない庶民も同じように扱っている。
残念ながら乙女ゲームのエルヴェラールは実家の身分をいいように利用して周りの生徒を脅して女王様よろしくパシリと取り巻きを何人も従えていたのだが。

レオン殿下フローラペアは先にレオン殿下がフローラに支援魔術をかけるようだ。
この試験で使用が許されているのは魔力譲渡魔術と私が得意な成長促進魔術だ。


「……だー」


無詠唱かと思いきや小声で言っていたようだ。

レオン殿下の支援魔術を受けたフローラが人形の近くまで歩いた。
良く見るとその右手が光輝いている。


「テヤァ!!」


「マジかよ」


思わず声が出てしまった。
いやいやフローラさんや、あなたヒロインでしょう。そんな可愛らしい見た目なのに魔力を込めた拳で測定人形を殴るなんて誰が想像できようか。
私やアルムも含め周りにいた生徒たちだけでなく先生方までもが唖然としてその様子を見ていた。


「つ、次。フローラ=ブランからレオン=カイル=ローゼンシュヴァリエへ」


「はい!  あ、殿下。少し痛いかもしれませんが我慢してくださいね!  いきます……っ」


「え?  一体君は何をする気……」


「セィヤァ!!」


「グゴッ」


フローラが光輝く左手でレオン殿下を殴った。
またもや皆がその様子を唖然として見ていた。


「なんだ、これは……力が漲るぞ……!」


レオン殿下は人形から10メートルほど離れた位置に立つと雷を放った。
放たれた雷はとても大きく、威力も凄まじいものだったようで測定人形のメーターが振り切れたらしい。
支援魔術なのに支援するどころか殴るとはなんと漢らしいヒロインだろうか。
フローラはうまく支援魔術をかけられたつもりになっているのか、スキップをしながら去っていった。


「……ねぇインヴィディア嬢」


「なんでしょう」


「僕のことはなぐ」


「殴りませんよ!  私を何だと思ってるんですか!」


「とんちんかん?」


相変わらず失礼だなコイツ。

次はヴォルグ様とウィルムのペアのようだ。
残念ながら2人とも無難に何事もなく試験を終えた。いや、別に残念ではないけども。
間に2組ほど挟んでから私たちの番が回ってきた。


「次、エルヴェラール=フィオン=インヴィディアからアルム=ルイス=マクレーンへ」


「はい。ぱにゃにゃんだー!!」


私はレオン殿下が恥ずかしがって小声で言った詠唱文を大きな声ではっきりと唱えた。
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