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第2章
独壇場と化した婚活パーティー
しおりを挟む「……さ、桜井さん、榊原さんと片桐さんが来てます」
はぁ?
まさか見間違えでしょ、とそっちへチラっと目を向けると、そこにはまさしく二人の姿が。
幸い、ここから入り口は遠いから、あっちはまだ気付いていないようだったけど。
な、なんで!?一体、どうしてここにっ!?
ハテナマークとビックリマークを浮かせるだけ浮かせて、混乱状態の私。
しかし。目の前のターゲット達にはバレちゃいけない。ふー、バレないように息を吐き、動揺を隠して平常心を装う。
「……そういえば、今日、会社の帰りに榊原さんに、これからの予定を聞かれてこのパーティーのこと教えたんです。まさかいらっしゃるとは思いませんでしたが、興味あったんですかね?」
すかさず心の中で、ある訳ないだろー!と突っ込む。こんな結婚できない人間が集う下々のパーティーなんて、興味があるとは思えない。
本当、一体何しに来たっていうの、私達のことわざわざ茶化しにきたの?
それとも、ただ単純にチヤホヤされに来たとか?
現に今来たばかりだというのに、もう女の子達に群がられていた。
普段は話しかけられるまで絶対に動かないプライドだけは一人前な高飛車な独身女どもが、わらわらと二人を囲む。
まぁ、しょうがないか。
1000万以上とはいえ、こんなパーティに来る位だから大半の男に顔、体型、年齢、性格の要素の一つに何かしらのオヤ?っていう難点がある。
そんな中この2人の登場だ。この婚活パーティはすでに、彼らの独壇場となっていた。
「あの人達と知り合いなの?」
こそこそやり取りをする私達にそう尋ねられ、素直に頷こうとするちーちゃんに慌てて自分の声を重ねた。
「え?は「いえ、今日初対面です。やだな千聡ちゃんってば、見間違えじゃない?私達にそんな知り合いいないじゃない」
「?」
意味が分からないといったような表情のちーちゃんに、こそっと耳打ちをする。
「……だめ、あんなハイスペックな異次元メンズ達と知り合いだなんて、バレたら引かれるでしょ」
「?」
その説明にも理解を得られないのか、彼女の頭の上にはハテナマークを浮かばせたままになっている。
話の最中にも、ちーちゃんの気はそぞろ。チラチラ台風の目を見ている。
「すごい人だかり」
「ちーちゃん、あんま見ちゃダメ、なるべくバレないように。せめてこの人達の連絡先をゲットするまでは……っ」
運良く群がった女の子たちのおかげで、未だ私達のことはバレていない。
その隙にと思ったのに、何やら、女の子達のきゃっきゃっという声が途絶えた気がした。
「さ、桜井さん、も、もう無理だと思います」
ちーちゃんのその声を皮切りに視界が陰る。慣れたこの身長差、隣に立った男の正体はすぐに分かった。
ゆっくり社長様を見上げると、そこにはにっこり笑う彼。目はちっとも笑ってなくて背筋が凍った。
「あれ?奇遇だね」
……奇遇な訳あるかぁーっ!
「桜井、今日言ってた用事ってこれ?」
そう話しかけられ、思わず何も言えずに硬直する。すると、おじさん達が気まずそうに尋ねてくる。
「し、知り合い?」
その質問に、なぜか社長様が笑顔で答える。
「えぇ、彼女達とは仕事がきっかけで知り合ったんですけど、それ以来親しくさせてもらっているんです」
「へぇー、そうなんだ。じゃ、話せて楽しかったよ」
そう言って、そそくさと去って行ってしまった。
あともう少しで連絡先をゲットできるところだったのにっ!
恨めしそうに榊原さんを睨み付けた。
そんな私に、嫌味たっぷりに不敵な笑みをたたえる社長様。
その胸元には、15という数字が。
もうなんだっていうの!
私のあの高揚感を返して。
そんな一触即発といった私達とは打って変わって、ちーちゃんと片桐さんは穏やかモード。
可愛いちーちゃんが見れて嬉しい片桐さんが、可愛い可愛いと賛辞を送ってる。
それにまんざらでもないちーちゃん、恥ずかしがってるけど嬉しそう。
「ちーちゃん、可愛いね」
「ありがとうございます、桜井さんが色々してくれて」
「もうね、ちーちゃんしか目に入んないよね、夜ご飯食べた?抜け出さない?」
「でも桜井さんと来てるから」
「あぁ大丈夫、絢奈ちゃんは、うちの社長様にもう捕まってるから。何食べたい?」
「でも……」
「ハンバーグとかどう?」
「ハンバーグ好きです……っ」
「よし、ハンバーグ行こう」
……早っ!
じゃ、と片手を上げて片桐さんに連れて行かれるちーちゃん。了承するちーちゃんもちーちゃんだ、私はハンバーグに負けたの?
「何なの、人の婚活茶化しにきたの?もう少しで連絡先手に入りそうだったのに」
「え?今の奴らの?年いくつ離れてると思ってんだよ」
「愛に年の差なんて関係ありません」
「頭めっちゃ光ってたけど」
「毛の薄さだって愛情で補えます」
「さっきから愛じゃないだろ、お前の場合金だろ。さっきの奴らがもしコンビニのバイトやってても、今と同じセリフ言えるか?」
「もー、なんなの、榊原さんが隣にいたら誰も寄って来ないじゃん。さっさとあっち行って、ほら女の子たちが待ってる」
そう、さっきから女の子たちに睨まれていたたまれない。しっしっと手で追い払う仕草をした。
「しかも、これ年収盛ったでしょ?」
出身地は抜けていても、数字のことは抜け目なく覚えている。
この人はお見合いの時、確かに8000万って書いてた。
「年収?」
「本当は8000万でしょ?それでも目玉飛び出す額だけどさ」
「8000万?」
「お見合いのプロフィールにそう書いてあったじゃん」
「あぁ、多分それおととし辺りのだな。そこに書いてるのは昨年の年収だよ。はっきりは分かんないけど、最低でもそれ位は俺に残るだろうって額」
「はぁ、なんか榊原さんは異次元の存在だからもう驚かなくなってきちゃったよ」
「何、異次元って」
「しかももう行動が謎過ぎる。スーパーセレブ様がなんで私なんかに構う訳?」
その核心に迫る質問にはスルーされ、榊原さんも食べ物で吊ってきた。
「なぁ寿司食べたくない?」
しかし私だって、そんな簡単な女じゃない。
回らない寿司だって、もう一人で食べに行ける。
そこそこコスパの良い美味しいお店だって知ってる。
「何、急に。別に食べたくない」
「いくらとかウニは好き?」
私の好きながネタが出てきて、思わずうっとなる。
「ふ、普通」
「じゃ肉を巻いたウニの軍艦と、いくらのこぼれ丼は?」
「うー」
「大トロも付けよう」
「好き……っ!」
ついに根負けして、まんまと社長様と会場をあとにすることに。
「なんでお前はちーちゃんと違ってこんなに時間かかるんだろうな。あの子なんか物分かりが良いから、ほんの数秒で連れてかれてたのに」
「物分かりが良い?逆に、何も分かってないからじゃない」
「俺が言うのもなんだけど、止めなくて良かったの?」
「ちーちゃんはね若いんだからもう少し遊んで男という空しい生態を知った方が良い。あの人なんて、遊び慣れてるからうってつけじゃない?夢から覚ましてもらって現実を教えてもらった方が良い」
「なんか遊ばれてこいって言ってるように聞こえるんだけど」
「まさしくその通りだけど。私がちーちゃんに化粧したところで、自分から変わろうとしなきゃ意味がない。付き合う男のレベルが極上であれば、女の外見レベルも跳ね上がるものだよ」
「そういうものか」
私がそうだったもの。
20kgの地獄のような減量、支えてくれたのはあの人だった。
もう一度、一目でも良いから会いたくて死に物狂いで頑張ったのに、自分に自信を持てた頃彼はもうこの街からいなくなっていた。
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