73歳転生悪役令嬢の終活

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心の穴(レビルド)

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アイリーン・ベル・フェルゴール侯爵令嬢は銀髪の巻毛で翡翠の瞳のつり目美人だが…俺にとってはいつからか憎悪する対象だった。

常に上から目線の口調に自分の思い通りにならないと俺に八つ当たりしてくる。こんな奴いなければいいのにと何度も思った。

大体この女は皆から嫌われていた。俺は知ってる。取り巻きの女達も屋敷の使用人達も皆この女の高飛車に付き合わされ損をしている。そんなこの女のことが大嫌いである日一人で学園にいると…シャーリィというあの女の敵対する庶民の女が相談に乗ってくれた。

正直シャーリィは可愛らしいし俺の心を溶かしてくれた。男なら虜になりそうな優しい女だとそう思って俺も王太子に悪いと思いつつ気さくに話していた。

しかしある日…とうとうアイリーンはシャーリィを階段から突き落とし王太子に糾弾され、婚約破棄とシャーリィを選んだことを知る。俺はシャーリィを諦めたが…あの女はいきなり崩れるように少し気を失い、目が覚めると雰囲気が変わった。
口調もおかしい。頭を打って変になったか。ざまあみろと思っていた。

しかし、追放が決まり旦那様に納屋での生活を強いられているうち、ある日薬ができたからヴェルナーという庶民の男に薬を渡して欲しいと言い出した。何か必死だし庶民の男なんていつ知り合ったのか?手篭めか?と勘繰ったが……話を聞くと中身が婆さんと言い、前世は孫達に毒殺されこちらに来たと言う。

疑わしかったが確かにガッテンのいく部分も捨てきれなかったし何より以前のアイリーンとは徹底的に違うと言うことは長年一緒にいて直ぐにわかってしまった。この方はアイリーンじゃない。あの高圧的な嫌味な女はもういない。

ボロボロになりながらも前世の旦那である男のことを一途に今も思い続ける婆さんだ。

それにもう一つ…シャーリィの事も少しだけわかった。この世界はゲームとやらの中らしい。シャーリィは主人公だから顔のいい男の中から一人選ぶ権利を与えられてる。俺もその中の一人ってか。あの時間はなんだったのか?俺はそもそもなんなのか…。急に何か心に穴が空いた気分だ。

俺は新たな中身婆さんのアイリーンを改めて見る。顔は同じだが心はまるで違う。前世も人に裏切られて身内に殺されたと言うのに…この世界でも目覚めてから酷い目に遭っている。
更にこのままだと王太子に追放され…フロングレスト修道院に……。
あの監獄のような地獄の場所に…。

だから俺は…今のアイリーンを逃した。
今度こそ自由に生きてくれと…思ってしまった。

その後旦那様から俺は手酷い仕打ちを受け鞭で撃たれたが…何とか生きている。

学校でそれからシャーリィを監視するようになると…奴は王太子だけでなく他の男とも仲良くしており、クッキーを毎回渡していた。

俺にももちろん渡してきた。不審に思い俺は野良犬にクッキーを食わせると様子がおかしくなり明らかに発情した。

「どういうことだ!?」
俺は…シャーリィへの気持ちが冷めた。アイリーンが言っていた事と結びつけ…シャーリィももしや転生者かもしれない。こんな都合のいい事があるなんてな。

ふざけんな!

そしてある日…あのアイリーンの前世の旦那…今は庶民の男であるヴェルナーが俺に話しかけてきた。こいつはしばらく行方不明だったが戻ってきた。

アイリーンの居所を明らかに知ってるだろう。

しかし…ある噂が学園を駆け巡った。アイリーンの潜伏先がバレて王太子に再びフロングレスト修道院に送られたと。

「レビルド様!!ち、力を貸してください!!アイリーン様が!!アイリーン様が…エルムート様に見つかって……フロングレスト修道院に…!!」
と泣きながらヴェルナーが俺のところにやってきた。そして話を聞くうちにこいつもクッキーを食ってない事がわかり俺たちは結託した。

「アイリーンお嬢様を…助けるぞ…時間がない!泣いてる暇はないぞ!ヴェルナー!アイリーン様が待ってるのはお前だ!!」

「え?」
と泣き腫らした目でこっちを見るが

「馬の手配をしてくる…荷物をまとめて深夜落ち合うぞ!………言っておくが俺たちもお尋ね者になる可能性が高い…。その覚悟で来るんだな!」
と言うとヴェルナーはキッとして…

「…僕も覚悟はできてます!アイリーン様の為なら……何でもできる!!」
と言い切った。前世の旦那は記憶はなくとも今のアイリーンの事が好きなんだろうな。見ていて直ぐにわかった。

「それならいい…では時間はー…」
と約束をし深夜に馬を連れ俺達は急いで馬を走らせた!
ノロノロ行く馬車の痕を発見してた時は慎重に近づき夜になり休憩時に男達が飯を食うのを待って暗闇から顔を画面で隠してヴェルナーと襲いかかり男達を気絶させた。

そして久しぶりにアイリーンの顔を見た。やはりボロボロになっていたがいくらか不安が見えた。心の穴が急激に埋まって安堵する自分がいた。

俺じゃなくてヴェルナーに抱きついて泣いていたのを見てなんかムカついたからちょろっと中身が婆さんと言いかけるとアイリーンが誤魔化しのためにわあわあと遮った。

憎まれ口を叩きつつも俺達は一緒に囚われていた少女達を連れ、東の国ジェロカザーナ王国を目指す。
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