私、雨巫女らしいです

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雨乞い儀式

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「明日の朝は早いのでもうお休みください茜さん」
 と日比野くん…充くんが言うのでなんとなく恥ずかしくなり、

「う、うん。明日ちゃんと出来るといいけど」
 と言うと充くんがにっこりして、

「できますよ!僕は信じています!!」
 と言い、彼は手を振り私に当てがわれた部屋から出ていく。
 ここは物が少ない。ベッドが一つあり、小さなテーブルと椅子があり、酷く殺風景だ。

 持って来たスマホを取り出すが電波は入らず、ネットも繋がらなかった。
 そう言えば家族に何も言わずにこっちに来てしまった。同じ並行世界の地球なら同じ家族もいるけど違うんだろうな。充くんも私の知ってる日比野くんとは性格も少し違うしね。


 ともあれ私は用意されていた寝巻きのようなものに着替えて布団に入り眠った。


 *

 次の朝、トントンと部屋をノックする音がした。えっ?こんな朝早くから?
 ヤバイまだ顔洗ってすら無い!洗面所どこ!?

 と思ってたら

「巫女様失礼します」
 と女の子達が入って来た!

「あ、は、はい!!」

 とかしこまっていると
 女の子達は

「身の清めに参りました」
 と言う。
 み、身の清め?

「水が少ないのですが、巫女様には儀式のために清潔でらっしゃらないといけません。こちらへついて来てください」
 と案内され、部屋から出て何か神殿の様な場所に小さな四角い窪みに少しだけ水が溜まっていた。

「ここでお顔やお身体をお拭きし、こちらの聖衣に着替えていただきます」
 と女の子の1人が言い、3人係で私は窪みの中央に立ち、体を拭かれたり顔を拭かれたりした。

 ひいっ!恥ずかしい!!

 聖衣に着替えさせられるのもむず痒い思いだ。白衣を着て、模様が入った綺麗な青い袴を履き、髪の毛も整えられた。薄く化粧をされ鏡を見ると地味な私でもマシなくらい少し綺麗になった。

「まあ、やはり前の巫女様とそっくり!」
「同じ人物だから当たり前ですわね」
 とヒソヒソ言われる。
 この世界で死んでしまった私は同じ様で違うと思うんだけどな。

 女の子達が一礼して去り、元の部屋で待っていると充くんがやってきた。

「おはようございます!茜さん!!
 と、とてもお綺麗ですね!!」
 と言われる。

「えーと、前の私もこんな感じだったの?」

「うーん、前の巫女様はもっと暗い表情をしていたので違うと思いますよ」
 と言うから少しホッとした。
 それからこれからの予定を聞く。

「これからとうとう儀式の間へ行きます。そこでは厳重な態勢が敷かれます。護衛は外せません。巫女様の命を狙う輩が潜んでいるかもしれません」

「潜むって、そんなにたくさんいるの?」

「ひと目儀式を見ようと抽選で当選された観客の方が複数人います。もちろん一人一人のチェックを徹底し、怪しい人物は検問されます。

 護衛ももちろん事前にチェックを受けております。儀式中は巫女様の安全を御守り致します。

 もちろん僕も何か起きたら身代わりになっても命を救います!」

 ええ!?

「そんな、充くんが犠牲になる事はないよ」

「いえ、これが僕の使命です。無事に儀式を終える事が1番です」

 緊張してお腹痛くなりそうだな。
 儀式の手順は、儀式の間にて中央の円形台の上で私が円の周りにまず天へお酒を掲げて(これもかなりの値段らしく割ったらもうアウトらしい)
 蓋を開けて円の周りに撒く。
 私は円の中で鈴を鳴らし祈祷するらしい。

「祈祷って何を?」

「心の中で茜さんが雨がほってほしいと願っていただけると幸いです」

「え?それだけ?」

「はい。後は天が応えてくれるはずです!…前回は失敗してしまいましたが…」
 険しい顔をする。今回は大丈夫だろうか?もし死んじゃったら今度はまた別の私が連れて来られるんだろうか?なんだかなぁ。

「大丈夫ですよ!!絶対に僕が守ります!!茜さんは祈ってください!!」
 と言う充くんを信じて私も覚悟を決める。


 時間になり儀式の間に向かうと、成る程、かなりの護衛達が目を光らせていて私は囲まれながら移動した。勿論隣には充くんだ。


 儀式の間には沢山の人がいた。護衛含めてちょっと恥ずかしいが、鈴を偉い神官長様から受け取り、私は中央の台へと充くんに導かれる。

「ここからは1人です。手順通りにお願いします」
 とコソッと言われ、私はうなづいて中央の円に入る。

 すると、ドーンと何かの爆発音がした!!

「なんだ!!?敵襲!?巫女様を守れ!!」

「早く儀式を!!」

「安全が先だ!」
 現場はかなり混乱している様子だ。
 バタバタと足音が響き、まさかの銃声が外からした。観客達も手を取り合い怯えている人がいた。

 それからやっと静かになり、

「報告します!敵は殲滅しました!!儀式の続きをお願いします!」

「引き続き警戒を怠るな!!」
 と神官長は言い、扉を閉じて私に続きを命じた。

 とにかく私は酒を天に掲げた。
 そして蓋を取り円の周りに撒き始める。お酒の瓶は充くんが受け取り下がった。


 そして鈴を持ち、リンと鳴らし私は心の中で必死に願った。

『お願い!この国人達のためにどうか神様私に力をお貸しください!!私が雨女として役に立つことを願います!!

 雨よ!降って!!』
 そう、強く願うとリンと言う鈴の音が響いた。降らない?と一瞬不安に思ったが、

「見ろ!あれ!!」
 と誰かが天井のガラスを見上げた。
 すると雨雲が寄って来たのだ!!
 そして雲の切れ間から何か黒い鱗みたいなのが見え、

「ん!?」

 と私は変な声が出た。
 うそ…あれって…り、龍!?

 龍神様!?

 黒い鱗は移動してまるで咆哮の様な雷が光った!!

「おおお!雷だ!!」
 と観客達は騒ぐが誰1人として私の前に黒龍が現れた事に気付いていない!!見えないの!?

 大きな黒い龍がこちらを見て私はちびりそうになる。しかし龍は尻尾を振ると雨がとうとう振り始めた!!


「やった!雨だ!!雨が降った!!」
「直ぐに貯水の準備を!!」

 黒龍はそれから天に飛び立ち雲の中にまた入っていく。
 それから雨は1週間くらい降っては止みを繰り返した。
 人々は救われた。

 連日お祭りが続いた。
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