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ある日の楽屋で
しおりを挟む「悠真くん、これ見て!#綿毛で、トレンド入りしてるよ!僕ぜんぜん気づかなかったんだけど。意外!かわい~い」
先日撮った冠番組の一回目が放送されたらしい。楽しそうに俺をからかう律を楽屋中追いかけ回して捕まえ、こちょこちょの刑に処していると、どこかに行っていた輝がふらっと戻ってきた。
「廊下までお前らの笑い声聞こえてるんだけど。なに騒いでんの」
「助けて輝くん! 悠真くんが! 僕をいじめる!」
「先輩は敬うもんなんだぞ、わかったか~?このクソガキ~」
「ぎゃははは、わかった、はは、ごめんなさいいい」
じゃれ合う俺と律を横目に、苦笑しながら輝は空いている椅子に座った。
「元気だなー君たちは。おじさんはついていけないよ」
そう言った輝はいかにもおじさんらしく伸びをすると、テーブルに置いてあるお菓子をつまみ始める。
ひょっとしてこいつのことが好きかもしれないと思い始めてから二ヶ月くらい、俺は毎日モヤモヤした思いを抱えていた。
「おいおっさん。どこで何してたんだよ」
「新曲の衣装、出来上がったらしいから見せてもらってきた。レオンと裕理も隣の部屋にいるから、今行けば見られるぞ」
「まじ!? 僕、ちょっと見せてもらってくる」
輝の言葉を聞くやいなや、律は待ちきれないとばかりに楽屋を飛び出して行ってしまった。あのバカ、俺と輝を二人っきりにするんじゃねえ!!
……そう思うものの、それが本心なら律の後を追いかければいいだけの話だ。そうしないのは、やっぱり俺が輝と二人になることを深層心理で望んでいるからなのではないだろうか。……怖い。自分が。
「なに暗い顔してんだよ」
チョコレートを口に入れながら輝が話しかけてきた。俺は憮然としたまま、その向かいの椅子に腰を下ろす。
「別に」
「あれからどうだ? お母さんの体調は」
なんでもないふうを装って聞いてくるが、俺を傷つけないようにそうしてくれているということがよくわかった。俺もなるべくなんでもなく聞こえるように、返す。
「悪くもないけど良くもない。余命宣告、なかったことにされるなんて奇跡は、起きないだろうな」
母親の体内に癌が見つかった。末期だ。あの日の兄貴の電話を思い出している。このことはマネージャーにも話しておらず、身近な人間では輝しか知らない。
「お見舞い、行ってやれよ」
「いいんだよ。今は仕事が忙しいし、俺、あの人のこと好きじゃないんだ」
「でも」
輝が言い淀んだ。「でも、泣いてたじゃないか」きっとそう続けたいのだろう。わかっているが、あえて無視をする。
「まあ、なんかあったら、話せよ。聞くことしかできないけど」
「話さねえよ」
間髪を容れずに言い返したら、輝は笑った。俺はますます不機嫌になる。
「お前なんで、あの日、俺の様子がおかしいって気づいたんだ? 自分で言うのもなんだけど、いつもと変わらなかっただろ」
ずっと気になっていたことを口にする。輝はチョコレートの包み紙を折りたたみながら、それこそなんでもないことのように言った。
「表向きはな。でもわかるよ、そのくらい。悠真と何年一緒にいると思ってんだよ」
「その顔で俺にそういうこと言うのやめろ! 気持ち悪い」
「なんだよ、自分から聞いておいて」
苦笑する輝を見ながら俺は自分の心臓を握りつぶしたいと思いだった。
ドキドキすんな! それは! 勘違いだ!!!
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