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第1部 エミ

第2話 金髪ピアス眼鏡ケンタウロス……!

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 「試合開始五十分が経過しました!  今のトップは四十二件配達の飯田奏多いいだかなたさん。そして二位に三十六件配達の近藤達也こんどうたつやさんだ!  さあ残り時間は十分を切ったぞ、この六件分の差を埋められるか!  まもなく第一回ユーバーイーツ主催流鏑馬やぶさめ配達選手権、試合終了です!」

――――。

    とある高校の駐輪場。
    俺は白と緑の英字のロゴが入ったデリバリーリュックを背負い直し、ロードバイクを漕ぎ始めた。

 「今まで会議室とかパーティ会場に配達したことはあったけど、高校の理科室とはなぁ……」

 俺の名前は近藤達哉、三十二歳。都内の接骨院で整体師をしているしがないサラリーマンだ。
 だが八年やって本業の手取りが二十三万。
 残業は無くともボーナス無し、昇給無しでは四人家族を養っていけるはずもなく、 二年前から副収入としてユーバーイーツをするようになった。
    二年やってようやく月給が十五万程度になれたが、それでもまだ生活は苦しいばかりだ。

    「俺もあんなベンツを一括で買って、家族で旅行に行けたらなー」

    信号待ちをしている新品のベンツと、高校時代の弓道部の友人から貰ったロードバイクを見比べ、ため息をついた。
    結局この日は七時間で三十件ほど配達をし帰宅した。
    自宅のポストを開けると、溜め込んだチラシが溢れかえる。

    「おわっ。溜めすぎたな。整理するか」

    不要なものをゴミ箱に捨てていくと、一枚のチラシに目が引かれた。

    「株式会社ユーバーイーツ主催、流鏑馬やぶさめ配達選手権?  優勝賞金……三十万円?!  なんだこれ、詐欺か?」

    俺は胡散臭いそのチラシに惹かれたが、「そんなうまい話はない」と、くしゃくしゃに丸め放り投げようとした。
    その時。

    「おかえりパパー!」

    小学三年生になる誠が出迎えてくれた。

    「おお、誠ただいま。学校楽しかったか?」
    「う、うん。……楽しかったよ! 今日はみんなでサッカーやったんだ!  ゴンちゃんがすごいんだよ。僕のループパスをダイビングヘッドで決めたんだよ!」
    「そりゃすごいな!  勝てたのか?」
    「ううん、負けちゃったの。最後PKになったんだけど、四対四でゴンちゃんが蹴ったボールがゴール飛び越えちゃって負けちゃったの」
    「そうか、それは残念だったな」
    「残念というか……災難だったよ」

    誠の顔が急に曇った。

    「どういうことだい?」
    「実は、ゴンちゃんの蹴ったボールが向かいの中華料理屋の看板を真っ二つに壊しちゃって、店長さんにみんなドンじかられたんだよ」
    「え!  うそ。でどうなったんだ?」
 「今回は見逃すが、次あったら弁償してもらうって……」
 「そ、そうなのか」
 「ごめんねパパ。場所考えてやっていれば……。僕弁償なんてできないよ。月二百円のお小遣いじゃ返済する前に死んじゃうよ」

 なんか……ごめんな、貧乏で。

 一言余計だったが、誠の震えた顔を見るだけで、本当に悩み苦しんでいる様子が伝わった。
 店長さんは見逃すと言ってくれてるようだが、これでは親として示しがつかない。
 その時ふと右手にあるくしゃくしゃのチラシが目に入った。

  「大丈夫だ!  パパに任せなさい」

 藁にもすがる思いとはこういう時のことを言うのだろう。
 子供の責任は親の責任。
 詐欺だろうがなんだろうが、とにかく子供のために俺はこの胡散臭い大会に参加することとした。


 そして現在に至る。
 総勢千人を超える同業者とともに俺は、すずめが丘にある野球場に立っていた。
 すずめが丘といえば、野球場のほか、テニスコートやスーパー、市役所も含まれた「マンモス団地」と称される、すずめが丘パークヒルズが有名だ。
 三、四階建ての住棟が林立したり、似たような外観のモデルハウスが何件も連なっていた。
 つまり今回の配達場所はこのすずめが丘団地らしい。

 「皆さんよくぞお集まりいただきました。私が今大会の主催者及び司会を務めさせていただきます、株式会社ユーバーイーツ企画、配達担当の齋藤孝則さいとうたかのりと申し上げます」

 白のタキシードに緑のネクタイをつけた如何にも会社の犬みたいな中年のおっさんが現れた。

 「今回この大会を開催するにあたっての経緯を簡単に説明します。わが社では昨今の感染症において絶対的なソーシャルディスタンスの確立と、より一層のスピーディな配達を可能にすべく多岐にわたって会議を行いました。その結果仮採用した配達方法が、こちら!」

 斎藤の後ろにいた二人の黒服が、白色の横断幕を引き下ろすと看板が現れ、「流鏑馬式配達法(試験運転)」と躍動感あふれる毛筆で書かれていた。

 「どういうことだ?」
 「皆さん頭の中が混乱しているのも分かります。しかしこれこそが最新のユーバーの配達の形なのです!」
 「結局どういう配達方式なのか詳しく教えろ!」

 眼鏡をかけ、両耳にピアスをつけた金髪の大学生らしい男が手を上げて質問した。

 「もちろんですとも。つまり、わが社独自で開発した専用弓矢、『』に商品を括り付け流鏑馬の如く自転車に乗りながら、お客様の家にご用意していただいた的へ、矢を射り配達をするということなのです! これこそが新時代の配達方法! ディスタンスを保ちながら、階段さえも登らない革新的な置き配、『流鏑馬式配達法』なのです!」

 シーンというオノマトペが聞こえそうなくらい野球場は静まり返った。
 道端に生えた雑草の擦れる音が心地いい。

 「後先考えず来た結果がこれだ。やらなきゃ良かった」

 考えればよく分かる。そもそも弓道経験者なんて俺以外全然いないだろうし、有段者でさえも商品を矢で届けられるとは思えない。
 というか汁物どうすんの? 的中した衝撃で全部おじゃんになりかねないだろ。
 もし強固な梱包にしたとしても開発費云々とか諸々採算とれるわけないだろうし、的を用意するっていってもそれって客の実費? そこまでしてこの配達方法に拘る人間がいるのだろうか……?

 と、自問自答をしているうちに、同じく集まっていた同業者の多くは「ふざけるのも大概にしろよ」、「飲食業なのに食いもんで遊ぶなよ」、「これで優勝賞金30万とか普通に働いたほうがマシだわ」と口々に愚痴をこぼし去ろうとしていた。
 しかし司会者の斎藤は臆する様子もなく、むしろ意気揚々とした表情で話を続けた。

 「もちろん、流鏑馬など未経験な方が全員だと思います。そのための人材育成プランも無料でご用意しています! ……あっ。すみませんそしてここで一つ訂正がございました」

 参加者の半数ほどがすでに帰ってしまった後だった。
 斎藤は悲しい表情を浮かべ謝罪した。

 「配布したチラシに表記されていた優勝賞金に訂正がございます。チラシには|万円と記載されていましたが、正しくは万円でした」

 そのアナウンスが流れるやいなや、ドドドドドドドとヌーの大群が押し寄せるかのような地鳴りが聞こえてきた。

 「やっぱり参加させろぉぉぉおお!」
 「やってやるぜぇぇぇえええ!」

 愚痴をこぼしていた参加者がフェンスをぶっ壊し、目の色を真っ赤に変えて戻ってきた。
 残っていた半数の参加者も「三百万! 夢のバルト海クルーズだ!」、「この金、全部投資につっこんで大金持ちになってやる!」、「俺これで勝ったら結婚指輪買いに行くんだ!」と口々に夢物語を語りだした。
 わかるわかる。その気持ちわかるよ。
 なにせ一番狂乱していたのは、上半身素っ裸になりイナバウアーの如く身体をそらせて雄たけびを上げ走り回っていた、俺だからな。

「ぜっっったい優勝してやるぜええええええええええ!」

 結局現金な奴ばっかなんだよな。まあかく言う俺も三百万と聞いて興奮を抑えられなかったわけだが。

 ――――大会の説明も終わり、俺らは改めて整列させられた。
 一人一台アーチェリーのような道具を渡された。
 矢の真ん中にはリングがついており、また小さめのカラビナをつけた商品の箱がリュックサックに敷き詰められていた。

 「ではこれより配達方法をご説明します。皆さんご持参のリュックサックにはカラビナが付いた商品が十個ずつ入れております。その商品を『デリバリーアロー』の中心にあるリングに通しセットしてもらいます。あとはそれを配達先のご家庭にある的に発射するだけです。品物がなくなった場合は大通りに駐車されてあります、五十台のワゴン車から品出しをお願いします」
 「制限時間はどれくらいだよ?」
 「制限時間は一時間。一番多く、誤送なく配達できた人の勝利です。もし誤送してしまったり、商品を流鏑馬以外で配送、損失してしまった場合はペナルティとして失格となりますのでご了承ください。それでは準備のほどよろしいでしょうか。では第一回ユーバーイーツ主催流鏑馬配達選手権の……」

 ごくり……。

「開幕です!」

 パァン! という発砲音とともに、一斉に千台の自転車が野球場を飛び出した。
 団地の大通りを抜ける者もいれば、迂回してベランダ側に回る者、モデルハウスへ向かう者もおり様々だった。

 「とりあえず俺の配達先は五十二番の二〇一から三〇三号室だな。……て、嘘だろ」

 配達先のベランダをみるとそこにはすでに配達が完了した品物が的に刺さっていた。

 「一、二、三、四個……。早すぎる」

 あたりを見渡すと一人の青年が弓をしまいスマホで次の配達先を確認していた。

 「あいつ、さっき質問していた眼鏡の……!」

 さすがにこいつだけには負けたくない。ピアスに金髪とかいうチャラチャラした身なりの男に大金を持ってかれてたまるか。
 俺は目薬を一滴ずつたらし、呼吸を整え指先に全神経を集中させた。
 吸う息とともに弦を伸ばし、少し息を止め発射角度を調節し、吐く息とともに指を放す。
 商品をつけた矢は美しい放物線を描き的に命中した。

 「ブランクはあったが、弓道六段の実力は残ってたみたいだな」

 結局俺は開始五分で六件分の配達を完了し、次の配達先へ向かった。
 大通りには四、五十人もの参加者が列をなして弓矢を構えていた。
 手が震えて誤射してしまう者、うまく飛ばず自分に矢が帰ってきて刺さりそうになる者、時には自転車に乗りながらスマホを見ていたために、参加者同士で交錯してしまい、品物を道路にぶちまけてしまう者など沢山の失格者が続出していた。
 そのせいか初め路地に、働き蟻のようにうじゃうじゃいた参加者は制限時間三十分を切ると十分の一程度に減っていた。

 「くっそ、風で的が揺れて照準が定まらねえじゃねえか」

 かといって俺が有利になることはなかった。配達が完了したところには新たに配達できないし、配達場所が少なくなればなるほど悪環境で配達をしなければならなかった。
 隙間風が強すぎて的がぶれたり、肘が塀に当たるくらい狭い路地裏で弓を放ったり、大型スーパーの陰に隠れたベランダの的を狙ったりと難易度は上がるばかりだった。
 だがそんな状況でも苦にしないやつが一人いた。

 「配達完了が四十二件、残り時間十分。二位はまだ三十六件……まあ大したことねぇな」

 そう、あのいけ好かない金髪野郎だ。
 俺が真後ろにいることにも気づかず、淡々と驕りたかぶっている。
 だが、あいつの実力が抜群なのも事実。
 競輪選手並みのスピードで目的地に着き、正確な角度で弓を射るその技術はまるで、現代のケンタウロスと言っても過言ではなかった。
 俺が行く道行く道に彼はすでに到着して仕事を終えていたのだ。
 唇をかみしめ、こぶしを握り絞めていると、突然アナウンスが聞こえだした。

 「試合開始五十分が経過しました!  今のトップは四十二件配達の飯田奏多さん。そして二位に三十六件配達の近藤達哉さんだ!  さあ残り時間は十分を切ったぞ、この六件分の差を埋められるか!  まもなく第一回ユーバーイーツ主催流鏑馬配達選手権、試合終了です!」
 「畜生め! ケンタウロスなんかに負けてたまるか!」

 俺は全身の力を太ももに込めてロードバイクを漕ぎ出した。
 ペダルが軋む音と金属が擦れる音が反響している。しかし俺にはその音が聞こえない。周りの参加者の声や救急車のサイレンの音など風を切りさく俺の耳には届かなかった。

 「俺には守らなければいけない家族がいる! 誠のために、父親としてやり遂げなければならないんだ! 優勝して家族旅行に行くぞ!」

 俺は火花散るロードバイクを漕ぎながら両手を放し弓を構えた。
 五十メートル間隔で階数も違う的が三つ。
 それぞれに異なった角度、異なった力加減で弓を引いた。
 矢は時間差で放物線を描き、見事三連続で的に命中した。

 「ななななんと! 現在二位の近藤選手、自転車を止めることなく両手を放しての曲芸だぁぁあ! これはまさに流鏑馬! 令和に河村義秀かわむらよしひでが復活だぁあ!」

 俺は「よしっ」とガッツポーズをし、最後の配達先へと向かった。
 狭い路地裏を抜けると、そこにはまだ誰も配達していない一棟のアパートが建っていた。
 部屋数は約百三十室。
 そのベランダすべてに的が吊るされていた。
 それと、アパートの駐車場には品物がパンパンに詰め込まれているワゴン車がケツを向けて鎮座していた。

 「なるほど、最後は数の暴力ってことね」

 品物をリュックに詰めようとしたその時、矢が的を射抜く音がした。
 振り返るとそこにはあの忌まわしい顔の青年がどや顔でこちらを見ていた。

 「金髪ピアス眼鏡ケンタウロス……!」
 「あんたが近藤さんか。ここまで頑張ってきたみたいだが、十件分の差を埋めるのはさすがに無謀だぜ。潔く諦めな!」
 「十件?! 差は三件なはず……なっ!」

 スマホを確認すると俺の配達件数が三十九、金髪ピアス眼鏡ケンタウロスの配達件数が四十九になっていた。

 「どうして……なぜこんなに差が?」
 「さあね。そんなことより早くしないと終わっちまうぜ。あと5分しかないんだから」

 制限時間は四分三十三秒を示していた。
 あと十件を逆転するにはこいつの二倍は命中させなければならない。
 そんなことできるのか?

 ブスッ、ブスッ。

 「え? 今一瞬の間に二つの矢が四〇一と三〇一号室の的に命中した?」
 「そうだけどなにか? 俺はこうやって稼いできたけど、これって正攻法じゃないの? もしかして一本ずつやってたの? ウケるんですけど~」

 敵わない。
 これはもう敵わない。すでに十二本の差。
 いやそういうことではない。俺が一つ配達する間にこいつは二つ配達している。
 もう始めっからこいつは人の二倍働いてたんだ……。
 そりゃ敵いっこないよ。
 俺は弓を引き続けて痺れた右手を見た。

 ――――。
 『今日はみんなでサッカーやったんだ!』
 『僕のループパスをダイビングヘッドで決めたんだよ!』
 『ううん、負けちゃったの』
 『ごめんねパパ。場所考えてやっていれば』
 『え、大会に行くの?』
 『僕のため?』
 『ありがとうパパ! 絶対勝ってきてね!』
 『大好きだよパパ!』


 ぐっと拳を握り絞め、痺れを振り捨てた。

 「俺が負けてどうする! 誠のためにここまで来たんだ! 相手が二倍ならこっちは四倍で返せばいい!」

 俺は品物を四本の矢につけ、全ての指の間に挟んだ。

 「勝機を逃すな! 奪い取れ!」

 はち切れんばかりの弦がうねりしなり四本の矢は空中で虹のようなアーチを描いた。
 ブスッ、ブスッ、ブスッ、ブスッ!
 四本の矢は時間差で的に命中し、配達を完了するベルがリンリンリンリンと鳴る。

 「なにぃ?! 四本だと? あり得ない!」
 「いんや、これがあり得るんだな。俺も伊達に弓道してないんでね!」
 「くっ!」

 しかし一気に四本の曲射は疲労も尋常ではなく、次のセットまでも時間がかかった。そのため点数が追い抜いたり追い越されたりとシーソーゲームが続いた。
 五十八対五十七。五十八対六十。六十二対六十。六十二対六十二。六十六対六十四……。

 「おりゃぁぁぁああああ!」
 「なにくそぉぉぉおおお!」

 一気に四本の矢を放つ俺、二本ずつ時には一本の矢を単発で連射し続ける金髪ピアス眼鏡ケンタウロス。
 矢は的の縁ギリギリに突き刺さったり、強烈なスピードで的を貫通し窓ガラスを割ったり、上空を飛ぶすずめを串刺しにしてペットのおまけ付きで配達をしたりした。
 俺らの戦いは最後のブザーがなるまで終わらなかった。

 ビビーーーー!
 
 「試合終了ーー! 最終戦勝ち残ったお二人の成績を発表いたします。飯田奏多さん、配達完了数……百七件。近藤達哉さん配達件数…………百十件! よって熾烈を争う第一回ユーバーイーツ主催流鏑馬配達選手権の優勝者は近藤達哉さんです!!」

 大会参加者の「おめでとう!」「凄まじかったぞ、感動した!」という黄色い歓声がアナウンス越しに聞こえてきた。

 「勝った……。勝ったんだな! ……よっ、しゃぁぁぁああああ!」

 俺は痙攣して動かない右手にボロボロと涙をこぼした。
 真っ赤に腫れ上がったその右手は鉄のように熱く、落ちた涙は一瞬にして蒸発してしまった。
 すると突然同じように真っ赤に腫れ上がった手が俺の右手を握った。

 「おめでとう。あんたのやり方には度肝を抜かれたよ。あんな曲芸見せられたらさすがの俺でも敵わないや」
 「金髪ピアス眼鏡ケンタウロス……くん」
   「誰それ?」
   「あ、いやこっちの話」
 「あぁそう。にしても、俺もまだまだプレイングが甘いな。プラス2時間はオンラインに潜らなきゃ」
 「オンライン? い、いや君も凄腕だったよ。本当にいい勝負をありがとう」
 「どうも。今回は負けたけど、次回は絶対勝ってやるからな。またな近藤さん!」
 「ああ、また! ……ん?」

 にかっと笑うその表情は、純粋にこのゲームを楽しんでいた無邪気な子どもそのものだった。
 そう身も心も歯も子どもそのもののように……。

 「ああ。虫歯だらけェ……」

 俺は夕焼け空と同じくらい黄昏色をした彼の歯を見つめながら、彼が地平線の彼方に消えるまで見届けた。



 ――――。

 「ェエッ! 二百九十八万?!」
 優勝賞金三百万を手に持ち、俺は誠と一緒に中華料理店の店長に謝罪をしに行った。
 三百万あれば残ったお金で家族旅行にでも行こうと思っていたが、突き付けられた弁償金は予想外の金額だった。

 「そうアルよー。ウチの看板オーダーメイド製品ネー。お店の名前が純金のペンキで塗ってたのヨー。だから二百九十八万」
 「そんな……」

 うまい話はなかった。

 俺は結局、看板の弁償代と右腕の肉離れによる全治1か月の治療費合わせて三百万を、一瞬にして逃水の泡と化してしまったのだ……。



 ――――その後の金髪ピアス眼鏡ケンタウロス。
 「はー、三百万かぁ。いつ見てもたっけえなぁインプラント」
 

 

 

 
 
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