カンナ

Gardenia

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第三章

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先に乗ったタクシーの中でカンナは先ほどの琢磨の行動を反芻していた。
きちんと考えたいのに頭の中は霧がかかったようにぼんやりしていて肝心の部分がはっきりしない。
でも、琢磨は私にキスをした。それは間違いない。
なんとなくなりゆきでとか酔った勢いで触れたというものではなく、確かな意思を持ったものだ。

そういえば再会してからずっと琢磨は私を誘っている。
最初は些細なものだったが最近は明らかに意思表示をしているようだ。
最近のメッセージや電話のやりとりの断片を思い出しながらひとつずつ確認していく。琢磨はカンナに興味があることを隠そうとはしていなかった。
私だって鈍くはない、とカンナは思う。私だっていい大人なんだからそのくらいはわかる。
ただし琢磨は既婚者だ。お互いに独り者同士ならカンナにとっても受け入れ易いが、いくら流行りとはいえ不倫はいけない。
旦那の浮気で離婚した私がそれを選べるはずもない。
琢磨への今後の対応に注意しなくてはと気を引き締めてタクシーを降りた。



翌日琢磨は予定通りの便で帰って行き、車のなかではお互いに昨夜のことには触れず当たり障りのない話の応酬で空港に到着した。

「近いうちに現場見にこいよ」
「うん、なんとか時間作るわ」
「じゃ、決まったら連絡してくれ」
「わかった。連絡する」
カンナは車から降りず、ガラス越しに琢磨の背中を見送った。


◇◇◇◇◇


それから数日の間カンナは詰めて仕事をし、ようやく1週間だけ東京を離れる時間を作った。
スタッフにスケジュールを相談すると、「支社での会議だけではなく少しのんびり羽を伸ばして来てください」と言ってくれたのだ。
移動日を含めて実家に3日、大阪に移動して支社での会議、久しぶりに神戸で兄と食事でもして安心させよう、最終日は京都にも寄れるといいなと考えると行きは飛行機で帰りは新幹線になる。あれこれ考えていると急に早く出掛けたくなった。
ここ数か月、籠の鳥みたいに籠っていたストレスもあまり自覚はないがきっと溜まっているに違いない。
カンナはメーラを立ち上げて手早く実家に帰省することを知らせた。琢磨とその兄、満にはCCで現場視察日を打診する。ほどなく両者から返信が届きカンナの希望日に現地で会うことが決まった。

琢磨からは、空港へ迎えに行くから到着便を知らせろと命令調のメッセージが携帯に届く。
やれやれとカンナはため息を吐いた。カンナとしては大阪支社の車を手配するほうが気疲れしなくて済むのだが、琢磨は東京ではカンナが車を使わせたのでそのお返しと思っているのだろう。そういう所はヘンに律儀な琢磨である。ここでお迎えを断ってもきっと納得しない。なら断るのは無駄というものだ。
カンナは届いたばかりのeチケットを見ながら到着時刻を知らせた。


◇◇◇◇◇


琢磨は小さな銀色の車で空港に迎えに来ていた。「エンジン回しついでにちょうどよかった」等と嘯いているが、小さな会社の社長なんてそう暇でもあるまいとカンナは口に出さずに突っこんでおいた。
琢磨が開けてくれたドアから体を座席に滑り落とすと琢磨の匂いに包まれる。そのなかに女の香水が混じってないか無意識に確かめてしまった自分にカンナは眉をひそめた。

「何難しい顔してんだよ」
「いや。なんでもないよ?」
「そうか?眉間に皺寄ってるぞ?」
「え?やだ・・・」






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