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6. ユーミリアの心配事
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ルディウスの隣に腰を下ろし、ユーミリアはこほん、と咳払いする。
「えー、それではやって参りました。だいたい、だいたい週に一度の、勝負のお時間です」
恒例のふざけた決まり文句を口にして。
「第……。えーと、えー、……第何回だったかしら?」
「わからないから第十五回にしようって、前回話した」
「じゃあ約十六回目の、『どちらが先に音を上げるでしょうか』勝負を始めましょう」
ルールは単純。
ルディウスに意図的に甘い言葉を発してもらう。
ユーミリアを照れさせることができたら彼の勝ち。照れずに耐えることができればユーミリアの勝ちという、大変くだらないお遊びである。
ちなみに、ユーミリアはこの勝負に一度も勝ったことがない。
「なんなら、こっちに来る?」
ルディウスが自身の膝をぽん、と叩き、おいで、と手を差し伸べてくる。
「……膝に乗れと?」
「嫌?」
細められた瞳に浮かぶのはからかいの色と――。
ん~、としばらく葛藤した末に。ユーミリアは重い腰を上げ、ルディウスの手を取った。
されるがままに抱き寄せられ、大人しくルディウスの腕の中に収まると、彼は意外そうに目を瞠った。
「珍しい」
「一応、きっと、たぶん、将来の旦那様の疲れを癒すのも、婚約者の務めでしょうから。やぶさかではないわ」
なるほど、と囁いたルディウスが、甘えるようにこつん、と額を合わせた。
「……ありがとう」
猫っ毛の銀髪が、ユーミリアの目に掛かる。間近にある綺麗な顔は見るからに疲れていて、照れより心配が勝る。
(困った人たち……。ディーが倒れたら元も子もないのだから、もっと大事にしてくれればいいのに)
ルディウスが宰相を務めているのは、本人の意志ではない。
前任の宰相が頼りなかったのは、その前の代の宰相が後任を定めもせず、突然辞任したせいだ。混乱の最中で宰相に選ばれたのは、一部の貴族が傀儡とするために祭り上げたお飾り。それがルディウスの前任者。
そして、急遽辞任した前々宰相というのはルディウスの父親――前レオンハルト公爵である。
四年半ほど前、前公爵は精神病を患う妻の看病を理由に突如として宰相を辞任し、それから一年と少々で当時十七歳の長男に爵位まで譲ってしまった。
現在彼は、妻とルディウスの弟リオンと共に公爵領で隠居している。
その後の混乱の皺寄せは、一部のあいだで類稀なる天才として有名だったルディウスに来た。
前公爵の政治手腕は確かなもので、優秀な宰相だった。彼が宰相のままなら、グレストリアは穏やかな治世を保てていたことであろう。
国が荒れた原因は、レオンハルトにこそある。責任を持って、彼の家が国を立て直せ。
利権を奪い合って国を荒らした貴族の手綱を握れなかった非を棚上げして、王室は十八歳のルディウスにすべてを押しつけた。
当代のレオンハルト公爵として、あるとも知れない責を負わされ。
国内が落ち着いてからも、才能と血統に縛られて日々、誰かしらの後始末をさせられている。
ルディウスの人生はあまりにも自由がなくて。
大貴族の家に生まれ、才覚に恵まれた者として義務が生じるのは理解しているけれど。
彼に求められるものは、義務の域を超えているようにも思うのだ。
私的な時間はほぼ無いに等しく、終わりの見えない職務に追われ続けるなんて。
ルディウスが望んで仕事に人生を捧げているのなら、身体を壊さない程度に頑張ってね、と応援できる。
だが、彼は宰相の仕事にやり甲斐や楽しさを見出しているようにはまったく見えず。国への使命感や信念なども窺えない。
ただただ、義務感だけでこなしているように映るから。
義務に縛られ続けて、いつかルディウスの心が病んでしまわないかと、心配になるのだ。
「えー、それではやって参りました。だいたい、だいたい週に一度の、勝負のお時間です」
恒例のふざけた決まり文句を口にして。
「第……。えーと、えー、……第何回だったかしら?」
「わからないから第十五回にしようって、前回話した」
「じゃあ約十六回目の、『どちらが先に音を上げるでしょうか』勝負を始めましょう」
ルールは単純。
ルディウスに意図的に甘い言葉を発してもらう。
ユーミリアを照れさせることができたら彼の勝ち。照れずに耐えることができればユーミリアの勝ちという、大変くだらないお遊びである。
ちなみに、ユーミリアはこの勝負に一度も勝ったことがない。
「なんなら、こっちに来る?」
ルディウスが自身の膝をぽん、と叩き、おいで、と手を差し伸べてくる。
「……膝に乗れと?」
「嫌?」
細められた瞳に浮かぶのはからかいの色と――。
ん~、としばらく葛藤した末に。ユーミリアは重い腰を上げ、ルディウスの手を取った。
されるがままに抱き寄せられ、大人しくルディウスの腕の中に収まると、彼は意外そうに目を瞠った。
「珍しい」
「一応、きっと、たぶん、将来の旦那様の疲れを癒すのも、婚約者の務めでしょうから。やぶさかではないわ」
なるほど、と囁いたルディウスが、甘えるようにこつん、と額を合わせた。
「……ありがとう」
猫っ毛の銀髪が、ユーミリアの目に掛かる。間近にある綺麗な顔は見るからに疲れていて、照れより心配が勝る。
(困った人たち……。ディーが倒れたら元も子もないのだから、もっと大事にしてくれればいいのに)
ルディウスが宰相を務めているのは、本人の意志ではない。
前任の宰相が頼りなかったのは、その前の代の宰相が後任を定めもせず、突然辞任したせいだ。混乱の最中で宰相に選ばれたのは、一部の貴族が傀儡とするために祭り上げたお飾り。それがルディウスの前任者。
そして、急遽辞任した前々宰相というのはルディウスの父親――前レオンハルト公爵である。
四年半ほど前、前公爵は精神病を患う妻の看病を理由に突如として宰相を辞任し、それから一年と少々で当時十七歳の長男に爵位まで譲ってしまった。
現在彼は、妻とルディウスの弟リオンと共に公爵領で隠居している。
その後の混乱の皺寄せは、一部のあいだで類稀なる天才として有名だったルディウスに来た。
前公爵の政治手腕は確かなもので、優秀な宰相だった。彼が宰相のままなら、グレストリアは穏やかな治世を保てていたことであろう。
国が荒れた原因は、レオンハルトにこそある。責任を持って、彼の家が国を立て直せ。
利権を奪い合って国を荒らした貴族の手綱を握れなかった非を棚上げして、王室は十八歳のルディウスにすべてを押しつけた。
当代のレオンハルト公爵として、あるとも知れない責を負わされ。
国内が落ち着いてからも、才能と血統に縛られて日々、誰かしらの後始末をさせられている。
ルディウスの人生はあまりにも自由がなくて。
大貴族の家に生まれ、才覚に恵まれた者として義務が生じるのは理解しているけれど。
彼に求められるものは、義務の域を超えているようにも思うのだ。
私的な時間はほぼ無いに等しく、終わりの見えない職務に追われ続けるなんて。
ルディウスが望んで仕事に人生を捧げているのなら、身体を壊さない程度に頑張ってね、と応援できる。
だが、彼は宰相の仕事にやり甲斐や楽しさを見出しているようにはまったく見えず。国への使命感や信念なども窺えない。
ただただ、義務感だけでこなしているように映るから。
義務に縛られ続けて、いつかルディウスの心が病んでしまわないかと、心配になるのだ。
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