幼馴染ばかりを優先する婚約者には、愛想が尽きましたので

雪菜

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第20話 ミレイユの説得

「オスカー様はご自分の将来について、どのようにお考えでしょう?」

 ミレイユが突然振った話題に、オスカーは怪訝な面持ちになる。だが、当たり前のことを聞くなと言わんばかりに、答えはすぐに返ってきた。

「バークライトの事業に携わることになるだろうな」

 バークライト侯爵家は貿易業に明るいから、侯爵の息子という伝手を利用すれば就職先には困らない。だが――。

 ミレイユは苦笑する。
 
「長年の立ち回りが原因で、オスカー様はすっかり信用を失くしているのですよ? お父君は経営に携わらせる気はないようです」
「は? なら俺はどう生計を立てていけばいいんだっ」

(……ご自分のことですのに、困った方です)

 まるで他人任せなオスカーに呆れつつ、この人らしいなと思う。

 嫡男に生まれたから当然のように家督を継げると信じて生きてきたオスカ―に、将来の展望などあるはずもない。

「お父君はオスカー様を侯爵領の鉱山に送るつもりでおられますよ?」
「俺に鉱夫にでもなれというのかっ! 冗談じゃないぞっ」

 これまで長男として何不自由なく暮らしてきたオスカーに危険を伴う重労働をしろ、なんて受け入れがたい話だろう。

 オスカーの性根を一から叩き直すのもやぶさかではないというのが、侯爵の考え。実際、鉱山送りにすればオスカーの根性を鍛えることはできると思う。

「侯爵の方針に異論があるのでしたら、オスカー様はご自分で生き方を考えなくてはいけませんわね」
「それは……」

 キャスリーンにお熱で社交を丸投げしてきたオスカーである。伝手などろくに有しているはずもない。

 家督を継ぐと信じて疑わず、なんの努力もしてこなかったオスカーに将来性など皆無だ。

「そんなオスカー様に助言をするのなら。やはり、キャスリーン様との婚約は解消すべきでしょう」
「俺の就職先と婚約の話は関係ないだろう!」

 ミレイユは小首を傾げる。
 
「わかりませんか? 男爵家の次女であるキャスリーン様がお相手では、オスカー様が養っていく必要が生じます。ですが、お相手が名門貴族のご令嬢なら?」

 一人娘ならオスカーが婿入りし、領主になればいい。商会の娘なら働き口の紹介をしてもらえばいいし、結婚相手によってオスカーの将来の幅は無限大だ。

「なんの伝手も持たないオスカー様にとって、結婚相手は唯一の武器なのですよ? 婚約解消を望んでいるキャスリーン様に執着するのはもったいないと思いませんか?」
「俺は打算で結婚相手を選んだりするものか」

 貴族の結婚が政略目的なのは当然のことなのに。
 
「では、卒業後は鉱夫に?」
 
 ミレイユが首を傾げると、オスカーは言葉を詰まらせた。

 そんな根性がオスカーにあるはずないので、この問答の行きつく先など見えている。
 
「卒業まであと一年と少しの猶予があります。ここでキャスリーン様との婚約を解消し、社交に励むことで優良なご令嬢と出逢えれば――どうでしょう?」
「……くそ、どうして俺がこんな選択を迫られなければならないんだっ」

 もちろん、日頃の行いが悪かったからである。

 なんてことは言わずに、ミレイユは黙したままオスカーの答えを待つ。

 長い沈黙の末に。

「……キャスリーンとの婚約を、解消する」

 オスカーは物凄く不本意そうな顔で、そう言った。

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