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∞25【父の左手】

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 至近距離から顔面に向かって物を『パス』されたら、普通は手で払うか後ろに避ける。

 父の選択は『斜めに一歩踏み込んで飛んでくる短い棒切れをギリギリ躱しながら、アゾロが持っている長い棒切れを足裏で踏む』。
 躱しと踏み込みと踏み付けの一動作。

 しかし、アゾロはこれを読んでおり、すぐに棒切れを自分の手から離しつつ一歩前に踏み込み、父の腹を『右の縦拳』で殴りにかかる。

 この距離なら父は木剣を振れない!

 余裕ぶっこいて相手の武器を『踏み付けストンピング』にきた、これは父の油断というものだ!

「……ふぅん」

 父が発した言葉とも呼気ともため息ともつかないこの声がアゾロの耳に届く前に、『父の左手』で掴まれたアゾロの右手首にとんでもない『激痛』が走った。

 手首にある点穴を突かれ、アゾロの右腕から右肩までが『一本の棒』のように自由に動かせなくなり、そのままアゾロの身体はブン投げられて背中から草の地面に叩きつけられる。

 意識外からの激痛で受け身すら取れず、強かに背中を打ったアゾロの肺が反射的に空気を求める。しかし地面に叩きつけられた衝撃で、今のアゾロには『空気を吸って吐く』という、いつもやっていることすらもままならなかった。

 呼吸ができないアゾロの両腕が虚しく目の前の空気を引っ掻く。

『何されたのか分からない……』

 ブラックアウトした視界と激しい耳鳴りのなかで、その思考だけが今アゾロが感じられることの全てだった。

「……ハイ終わり」

 動けず何も見えないアゾロの耳に、何故か妙にはっきりと父の言葉が響いた。



…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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