元アイドルは現役アイドルに愛される

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4. 作曲家K

Kは今日も打ち合わせに来ていた。
打ち合わせに来るときは緊張する。芸能界をよく知る人ばかりだから、知人を見かけることもよくある。
「…はこっちのほうがいいですね、こんな感じでどうでしょうか」
「めっちゃいいです!」

先方が気に入ったようでホッと胸をなで下ろす。僕はずっとアイドルとして活動していたこともあり、楽曲提供はアイドルが相手になることが多い。
目の前の彼らも最近デビューを控えているという新人アイドルの卵たちだ。
本来はスタッフとやり取りすることが多いのだが、今回はデビュー曲ということもあり、パフォーマンスする本人たちと、その代表と顔を合わせての打ち合わせとなっていた。代表は急用のため遅刻してくると連絡があり、先に話し合いを進めていてほしいと通達があった。
今までも仕事はそれなりにあったが、アルバムの一曲だったり、よくてもカップリング曲だったため、正直デビュー曲を任されるというのは緊張している。
無事話し合いが終わろうとしたとき、コンコンと扉をノックされる。

「お疲れ様です」

その声が会議室に響き渡った瞬間、僕の心臓は嫌な音を立てて跳ね上がった。
数年ぶりにきく、それでも忘れることのないかつてのメンバー、颯真の声だった。

ステージでスポットライトを浴びていた頃よりも若干短くなった髪。かつてのチャラついていた印象はもうなく、さわやかな好青年になっていた。

「遅くなってしまい、申し訳ありません」
「…、あ、だいじょうぶ、ですよ」

マスクしてるし、メガネも度が強いのかけてるから大丈夫だよね、
そう思ってはいるものの冷汗は正直で、だらだらと流れ出る。

「この度は楽曲提供をしてくださりありがとうございます。あまりにいい曲だったので直接お会いしたいと思って僕もこの場に来ちゃいました」

大丈夫。今の僕は正体不明の作曲家だ。自分で言うのもなんだが、今の自分は見る影もなくやつれている。分かるわけがない。

「…Kさん、?」

颯真に怪訝な顔をされる。

「、あ、少し体調を崩してまして・・打ち合わせも今日の予定するところまでは終わりましたし解散にしましょうか」

うつむき加減で、ばれないように少し声のトーンを落として話す。
一刻も早くこの空間から抜け出したかった。
代表との挨拶もすましたことだしもういいだろう。そう思い、椅子をひき、立ち上がろうとする。

「そうだね、明日もスケージュールあるし解散で」

ほ、と胸をなでおろしたのもつかの間、

「僕はもう少しKさんと話したことがあるから、皆は先帰っていいよ」

な、な、、

開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。そんな僕の心の内など周囲は知る由もなくどんどんと帰宅してしまう。
そして、部屋の仲はあっという間に二人きりになってしまった。颯真は僕だと気づいた上でこの提案をしているのか、それとも気付いていないが、ただ良い曲だと思ったから作曲家と話したいと思ったのか。確かにグループにいたときから颯真は作詞作曲をしていたし可能性としてゼロではない。

極力颯真のほうは見ないようにしていたが二人きりとなった今、それはできない。

「さて、Kさん…」
「…すみませんっ、お腹が痛いので!」
「え」

急いで荷物をまとめて部屋から出る。バタン、という扉が閉まる音とともに、バクバクと自分の鼓動がよく聞こえる。

ごめん、颯真

そう思いつつ全力で廊下を走る。全力と言っても脚をケガしているため全然速くはないが…。
そもそも自分はなんで颯真から逃げてるんだろう…過去の罪悪感?それとも気まずさ?息を切らしてまで走った自分が馬鹿らしくなり、マスクを一瞬外して息を整えようとする。

ドンっ!

目の前が真っ暗になり顔面に強い衝撃がはしる。

「っすみません、大丈夫ですか」

声をかけられぶつかってしまったのだと気づく。

「こちらこそよそ見をしていてすみません…っ」

顔を上げて相手の顔を見た瞬間、何だか見覚えのある感じだった。
そして自分が今、マスクを着けていないことを思い出し、急いでマスクを着けようとする。も、その手をガシッとつかまれてしまう。

「『奏多』さん…ですよね?」

ああ、思い出した。この子は先日の打ち合わせにいた新人アイドルの子だ。
名前は忘れてしまったが、ふわふわの金髪が印象的で覚えていた。

「…ぁ、そう、です」

しどろもどろになりながらなんとか答える。はやくマスクを着けたいのに、手を掴まれているせいで身動きが取れない。

「僕、奏多さんに憧れて芸能界に入ったんです!」
「あ、はは。ぁりがとう…」

曖昧に返事をして返す。
今まで正体を隠して活動してきたのがこんなところでバレるなんて。
はやくこの場を去りたい。そう思っていた矢先、彼の後ろにちらりと颯真の姿が見える。キョロキョロとしており、突然居なくなった自分を探しているようだった。
やばい、今はマスクもしてないしバレる。

「ちょ、すみませんっ」
「え」

奏多は相手の手を握ったままその場を走りだした。

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