元アイドルは現役アイドルに愛される

文字の大きさ
30 / 71

30. ラップモンスター

しおりを挟む

奏多がソロデビューしてから2回目のカムバック。
制作サイドから提案されたのは、これまでの透明感あふれる爽やかというパブリックイメージを根底から覆す、大胆な路線変更だった。


「……僕に、務まるかな」


鏡の前に立つ奏多は、自分の変貌ぶりに戸惑いを隠せない。

いつもの柔らかなブラウンの髪は、ツヤの際立つサラストへ。
耳元には光を鈍く反射するシルバーのピアス。
そして、シンプルな白シャツと黒のスーツは、あえてネクタイを外しボタンを二つほど開け、腕をまくることでチャラさを強調。
仕上げに、白く細い首筋を締め付けるような黒のレザーチョーカー。


「……奏多さん、それ、本当に……」


衣装合わせに立ち会った颯真は、あまりの破壊力に言葉を失い、ただ「これ、放送して大丈夫かな……日本中の心臓が止まるんじゃないかな……」と震える声で呟いた。

そして迎えた、生放送の音楽番組。

今回の出演ではじめて見せるビジュアル。
サプライズのため奏多は髪色を変えたことなどは一切世に公表しなかった。

司会者が奏多を紹介し、ステージにスポットライトが落ちた瞬間。会場と全国のお茶の間が、文字通り凍りついた。


イントロが流れる中、画面いっぱいに映し出されたのは、挑戦的に微笑む奏多。

腕まくりをした前腕の筋が、マイクを握るたびに美しく浮き出る。


囁くような低音から始まった楽曲。

さらに驚かせたのは、中盤に差し込まれた高速のラップパートだった。

自ら書き下ろしたという鋭いリリックを、挑発的な視線で畳み掛ける。そのセクシーさと攻撃性のギャップに、現場のスタッフさえも仕事を忘れて息を呑んだ。

その時、スタジオのワイプに映し出されたのは、共演者として待機していたリオの姿だった。


「…………っ!!」


リオはもはやコメントどころではない。顔を耳まで真っ赤に染め、震える手で自分の口元を強く抑え、モニターに釘付けになっている。その瞳は潤み、今にも腰が抜けそうなほど動揺していた。

一方で、リオのグループルミナスのメンバーたちは大興奮だ。

「奏多さんヤベえええ!!」「かっこよすぎて鳥肌立った!」「俺、一生あの人の後ろで踊るわ!」と、ガッツポーズをしながら大盛り上がり。

パフォーマンスが終わり、奏多が最後に見せたのは、カメラに向かってネクタイを少し緩める、気怠げな仕草だった。


収録後、楽屋へ戻る廊下。

まだ興奮冷めやらぬ「ルミナス」のメンバーたちに囲まれ、奏多は揉みくちゃにされていた。


「奏多さん! あのラップ、どうやったんですか!?」
「衣装、セクシーすぎて直視できませんでした!」
「あはは……みんな、ありがとう。ちょっと恥ずかしかったけど……」


いつもの穏やかな奏多に戻り、照れくさそうに笑う。そこへ、最後尾からふらふらとした足取りで、魂の抜けたようなリオがやってきた。


「……かなた、さん……」

「あ、リオくん。どうだったかな、今日の――」


奏多が声をかけ終わる前に、リオは奏多の腕を掴み、メンバーたちの視線も構わず、近くの空き部屋へと彼を連れ込んだ。


「え、ちょ、リオくん!?」 


バタン、とドアが閉まる。
部屋に入った瞬間、リオは奏多を壁に押し当て、震える手で奏多のチョーカーに触れた。  
  
「……あんなの、聞いてません。……世界中に、あんな顔見せるなんて……。僕、もう、嫉妬でどうにかなりそうです……」

「っ……、リオくん、顔が近いよ……」

「近くさせてください。……今日の奏多さん、かっこよすぎて……正直、今すぐ家に連れて帰って、誰にも見せたくないです」


サラサラの髪を揺らし、セクシーな装いのまま戸惑う奏多。それを、独占欲で真っ黒になった瞳で見つめるリオ。

路線変更は大成功を収めたが、同時に恋人としてのリオの理性も、かつてないほど危険な状態まで追い込んでしまったようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

処理中です...