MEMOVERUS ~幻異界転生~

中島 弓夜

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第四章 次元の狭間

幻異界の古書店

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ここは地に足が付かないような感覚があった。
空を見上げれば巨大な都市が逆さまになって浮いており、足元を見れば活火山から灼熱しゃくねつの溶岩が流れ出している。
遠くには宇宙にも届くような樹木が何百本と大地に根を下ろし、その木々のそばでは数十メートルほどの大きさと思われる猛獣たちが、互いに争い、喰い殺し合っていた。

ここが天国か地獄なのかも分からない……だが進むことはできそうだ。
俺はスーッと滑るように空を飛びながら、この異空間の中をあてもなく彷徨さまよった。
すると突然、目の前にゴシック調の建物が現れたので、俺は重厚な鉄の扉を開けて中へと入る。
そして玄関口に入ると、手前には山積みとなった分厚い書籍が行く手をさえぎっていたため、その書籍をかき分けながら奥へと進んだ。
……これら書籍の数から図書館なのかと思ったが、どうやら違うらしく、開けた場所へ出た時にお金を払うカウンターのようなものが見えたため、ここが本屋だと知る。
ふと大量の書籍が収められている書棚を見ると、踏み台を使って本を整理している男の存在に気が付いた。

「ああ、いらっしゃい。すいませんが、そこにある本を私に渡してくれませんか?」

その男は足元にある書籍を指差したため、俺はかがんでその書籍『ニベルの魔術総集』を手に取り、踏み台の下から渡した。

「どうもどうも。これだけ本が多いと整理に困りますな、人を雇わないと永遠に終わりそうにない。もっとも、ここに人間なんて居やしませんがね」

男はそう言うと口を開けて大声で笑う。
何が可笑しいのかは分からないが、書籍で埋もれた陰鬱いんうつな場所とは対照的な、明るい性格の男だと俺は思った。
そして男は踏み台から下りると、左手を差し出して俺に握手を求める。

「幻異界の古書店にようこそ。私の名前はそうですね……少し陳腐ちんぷかもしれませんが、メフィストフェレスとでも名乗っておきましょうか」

俺は差し出された手を握手で返し、「どうも」と一言だけ返事をした。

「ずいぶんと無口な方だ。ここでの会話がメモヴェルスに記録されるため、喋るのを警戒しているのですか?」
「いや……そういうワケじゃない。俺が喋ると何か不都合でもあるのか?」
「貴方は色々と知ってますからねぇ。今は記憶が定かでなくとも、このままイーテルヴィータを進めばいずれ真相に辿り着きますから。おっと、どうやら私も喋り過ぎたようだ」
メフィストはコホンと誤魔化ごまかすように咳をして呼吸を整える。
「これは失礼……では本題に入りましょうか。まずは20年の壁を越えましたので、おめでとうございます。これで『20年離れ』と馬鹿にされることもありませんな。この古書店を訪れたのはあなたで3万3024人目となりますが、ようやくスタートラインに立ったと言うべきでしょう」
「3万……残りの243万人はすべて失敗したのか?」
「いえ、あくまでこの古書店を訪れた者の数です。世界は無限に枝分かれしていますので、別の次元で私と同じように道案内する者がいます。そのため実際の数は分かりませんが、20年の壁を越えた者は恐らく10万人前後ではないかと」
「そうか、俺も『穂積海斗』で何度も殺されそうになったし、挫折ざせつしそうになったもんな」
「でしょうでしょう。貴方は誇っても良いのですよ、なかなか辿り着ける場所ではないですから」

――「場所」という言葉を聞き、俺は古書店の窓から外の景色を見る。

「それから、ここは何処なんだ? 俺はまた転生したと思ったんだが、今までの現実世界とは性質がまったく違うように思える」
「ここは『次元の狭間』です。様々な世界が複雑に絡み合い、交差している場所なので、最初に見た時は驚いたでしょう」
「じゃあ遠くに見えるあの光景は、いずれ俺が向かう世界でもあるのか?」
「ええ、その可能性は高いかと」

……この古書店を訪れるまで、俺は様々な景色をこの目で見た。

巨大な原生種たちが徘徊し、人類を喰い漁っている光景。
世界が極寒に覆われ、外を歩くことも叶わない光景。
テクノロジーが異常に発達し、社会が権力者に完全支配されている光景。
自然災害が頻発し、水や食べ物が枯渇こかつしている光景。
神話の怪物たちが召喚され、現代兵器を使って応戦する光景。

どの世界も目を覆いたくなるようなものばかり。
こんな過酷な道を行かねばならないのかと、俺はなげきにも似た感情が心の中で芽生えた。

「そもそも俺はなんで次元の狭間になんか来たんだ?」
「私が呼んだからです。貴方に気の迷いのようなものが見られましたので」
「気の迷い? 特に意識してないけどな」

海斗は強がるように笑って見せたが、メフィストは深刻な表情を崩さないでいた。

「いいえ、貴方には心の動揺がうかがえます。それは自分が『人の子』を創造した理由を思い出せないからです。今からそのお話をしたいと思います」
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