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第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
太古の記憶
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イシュクワは辺りをキョロキョロと見回したが、声の主が分からない。
「……誰?」
【あなたは私とシンクロする力が強いから、直接頭に話し掛けてるの。改めて聞くけど、マリーを助けたいですか?】
「はい、もちろん」
【では、過去を書き換える私の力を与えます。ただし注意しておきたいけど、この力を使うとあなたの命を削ることになるの。それでもいい?】
イシュクワはしばらく黙ったが、すぐに顔を上げて「構いません」と答えた。
【……本当に大丈夫?】
「はい、大丈夫です」
――すると、イシュクワの全身が発光し、その光がマリーを包む。
やがてマリーの傷口がみるみる閉じて完治し、数分後に彼女は穏やかな寝息を立てて眠っていた。
イシュクワはその様子を見て安心したが、急に胸が痛み出して咳をすると、その咳の中に少しだけ血が混じっていた。
【……すぐに休んでね、体の痛みは明日に治ると思うから】
「分かりました。ありがとう妖精さん」
【妖精さんか……ふふ、可愛らしい呼び方だね】
耳元で囁く声が消えたため、イシュクワは言われた通りすぐにベッドに入って眠りに就いた。
――そして次の日の朝、ヴォラレウスは朝日の下で座禅を組んで瞑想していた。
彼は瞑想の途中、遥か昔の出来事を思い出す。
那波の時代と呼ばれていた頃、この世は二大勢力によって激しい対立が起こり、ヴォラレウスもその戦争に巻き込まれた一人であった。
すべては『人の子の創造』が起因している。
ヴォラレウスは、人の子に世界を託すことを反対する勢力側に付いたが、敵は大洪水、地震、噴火、台風、竜巻など、ありとあらゆる自然災害を駆使してこちらの勢力を苦しめ、いつしか地底深くにまで追い詰められてしまう。
今でも思い出すのは、星の数かと錯覚するほど味方の亡骸が倒れている光景。
荒廃した地の底は太陽の光も届かず、敗残兵の最期に相応しい死に場所として、ヴォラレウスも無惨な死体の群れの一つになることを覚悟していた。
「立ち上がれるか? 肩を貸してやろう」
……その時、瓦礫を掻き分けてこちらに手を伸ばす男の姿があった。
ヴォラレウスはその手を握ると、激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がる。
「ずいぶんと派手にやられてしまったな」
男はそう言うと、荒廃した景色を見て一瞬哀れんだ表情を浮かべたが、すぐに目の鋭さを取り戻して勇んで歩き出す。
「だが一敗地に塗れたってそれがどうしたと言うんだ? すべてが失われた訳じゃない」
強がりにも聞こえるが、その言葉にはある種の願いが込められているように思える。
ヴォラレウスはその男の激励だと心に受け止め、死体の群れの中に向かって再び歩き出した。
――そんな太古の記憶を振り返りながら、ヴォラレウスは目を開けて瞑想を解く。
(……つまらぬことを思い出したな。心身の乱れがあるから瞑想に集中できぬのだ)
ヴォラレウスは自嘲気味に笑うと、その場で立ち上がって朝日をしばらく見つめていた。
一方、朝日の光でマリーが目を覚まし、ベッドから勢い良く起き上がった。
「お、おおお? 傷が治ってるみたい!」
マリーはブンブンと腕を振り回して痛みがないことを確認する。
「動く動く! そっか、イシュクワが看病してくれたんだ」
マリーは周囲を見てイシュクワを探すと、隣のベッドで横になっている彼女の姿があった。
静かに近付いてイシュクワの様子を見たが、枕が血で汚れていたためマリーは慌て出す。
「わっ! イシュクワ、大丈夫?」
……その声でイシュクワも目を覚ました。
「あ……おはようマリー。傷は治った?」
「治ったけど、イシュクワの方が重体みたいだよ」
「妖精さんがマリーを治してくれたの。その見返りに、私は少しだけ命が削られるみたい。でも大丈夫、一日安静にしていれば痛みも治まるって言ってた」
「よ、妖精さん?」
イシュクワの話を聞いて、恐らく妖精とは七奈美のことを指しているとマリーは察した。
そしてマリーは、部屋にあった綺麗な枕と汚れた枕を交換する。
「……なんとなく分かったよ。今日はベッドでゆっくり休んでね。後で朝食も持って来るから!」
マリーはそう言うと、日本刀を持って部屋から出て行った。
「……誰?」
【あなたは私とシンクロする力が強いから、直接頭に話し掛けてるの。改めて聞くけど、マリーを助けたいですか?】
「はい、もちろん」
【では、過去を書き換える私の力を与えます。ただし注意しておきたいけど、この力を使うとあなたの命を削ることになるの。それでもいい?】
イシュクワはしばらく黙ったが、すぐに顔を上げて「構いません」と答えた。
【……本当に大丈夫?】
「はい、大丈夫です」
――すると、イシュクワの全身が発光し、その光がマリーを包む。
やがてマリーの傷口がみるみる閉じて完治し、数分後に彼女は穏やかな寝息を立てて眠っていた。
イシュクワはその様子を見て安心したが、急に胸が痛み出して咳をすると、その咳の中に少しだけ血が混じっていた。
【……すぐに休んでね、体の痛みは明日に治ると思うから】
「分かりました。ありがとう妖精さん」
【妖精さんか……ふふ、可愛らしい呼び方だね】
耳元で囁く声が消えたため、イシュクワは言われた通りすぐにベッドに入って眠りに就いた。
――そして次の日の朝、ヴォラレウスは朝日の下で座禅を組んで瞑想していた。
彼は瞑想の途中、遥か昔の出来事を思い出す。
那波の時代と呼ばれていた頃、この世は二大勢力によって激しい対立が起こり、ヴォラレウスもその戦争に巻き込まれた一人であった。
すべては『人の子の創造』が起因している。
ヴォラレウスは、人の子に世界を託すことを反対する勢力側に付いたが、敵は大洪水、地震、噴火、台風、竜巻など、ありとあらゆる自然災害を駆使してこちらの勢力を苦しめ、いつしか地底深くにまで追い詰められてしまう。
今でも思い出すのは、星の数かと錯覚するほど味方の亡骸が倒れている光景。
荒廃した地の底は太陽の光も届かず、敗残兵の最期に相応しい死に場所として、ヴォラレウスも無惨な死体の群れの一つになることを覚悟していた。
「立ち上がれるか? 肩を貸してやろう」
……その時、瓦礫を掻き分けてこちらに手を伸ばす男の姿があった。
ヴォラレウスはその手を握ると、激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がる。
「ずいぶんと派手にやられてしまったな」
男はそう言うと、荒廃した景色を見て一瞬哀れんだ表情を浮かべたが、すぐに目の鋭さを取り戻して勇んで歩き出す。
「だが一敗地に塗れたってそれがどうしたと言うんだ? すべてが失われた訳じゃない」
強がりにも聞こえるが、その言葉にはある種の願いが込められているように思える。
ヴォラレウスはその男の激励だと心に受け止め、死体の群れの中に向かって再び歩き出した。
――そんな太古の記憶を振り返りながら、ヴォラレウスは目を開けて瞑想を解く。
(……つまらぬことを思い出したな。心身の乱れがあるから瞑想に集中できぬのだ)
ヴォラレウスは自嘲気味に笑うと、その場で立ち上がって朝日をしばらく見つめていた。
一方、朝日の光でマリーが目を覚まし、ベッドから勢い良く起き上がった。
「お、おおお? 傷が治ってるみたい!」
マリーはブンブンと腕を振り回して痛みがないことを確認する。
「動く動く! そっか、イシュクワが看病してくれたんだ」
マリーは周囲を見てイシュクワを探すと、隣のベッドで横になっている彼女の姿があった。
静かに近付いてイシュクワの様子を見たが、枕が血で汚れていたためマリーは慌て出す。
「わっ! イシュクワ、大丈夫?」
……その声でイシュクワも目を覚ました。
「あ……おはようマリー。傷は治った?」
「治ったけど、イシュクワの方が重体みたいだよ」
「妖精さんがマリーを治してくれたの。その見返りに、私は少しだけ命が削られるみたい。でも大丈夫、一日安静にしていれば痛みも治まるって言ってた」
「よ、妖精さん?」
イシュクワの話を聞いて、恐らく妖精とは七奈美のことを指しているとマリーは察した。
そしてマリーは、部屋にあった綺麗な枕と汚れた枕を交換する。
「……なんとなく分かったよ。今日はベッドでゆっくり休んでね。後で朝食も持って来るから!」
マリーはそう言うと、日本刀を持って部屋から出て行った。
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