61 / 85
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
命と引き換えに
しおりを挟む
「ヴォラレウス!」
マリーは倒れているヴォラレウスに駆け寄り、彼の体を抱き起こした。
「気にするな……これで良いのだ」
そう言うと、ヴォラレウスは自嘲気味に微笑む。
「……それにおまえは数日前、この力を八割は体得していたのだろう? 嘘を吐いた理由は、イシュクワの父親を殺したくないからだ。あれの悲しむ顔を見て情が湧いたのであろう」
「バレたか……」
「フッ、仮にもおまえの師匠だからな」
見ると、ヴォラレウスの腹部から大量の血が流れ出しており、こと切れるのも時間の問題だった。
「良いか、決して甘い考えを起こすな。相手がイシュクワの父親だとしても中身は別物だ。おまえの力で善き者の刺客を斬り裂くのだ」
「……分かったよ」
「さあ行け! 我は幻異界の刺客として、おまえの前で無様な死に顔を晒す訳にはいかん」
マリーはヴォラレウスのプライドを尊重し、すぐに背を向け、イシュクワの屋敷を目指して歩き出した。
……その数分後、マリーが去ったのを確認すると、彼はゆっくりと目を閉じて眠るように息絶えた。
一方で、マリーはしばらく街の中を歩いていると、巨大な原生種が建物の壁に張り付いているのを確認する。
(やっぱりだ。あいつらを倒して進むしか方法がなさそう)
だがマリーの右手が微かに震えており、日本刀を握る握力もすでに失われている様子である。
ヴォラレウスとの戦いによるダメージが堪えたようで、少しでも気を抜けば原生種に力負けする可能性があった。
……この状況では難しいと考えたのか、マリーはしばらく休むため、近くの民家に入って内側から閂を掛けた。
(ここで少し休もう。夜に行動するのは危険だけど、今戦うのは無茶だしな)
幸いなことに、この民家には専用の寝室があるようなので、マリーは夜になるまでベッドで眠りに就いた。
――そして6時間後。
マリーがパチリと目を開けると、すでに外は薄暗くなっていた。
すぐに屋敷へ向かわねばと、痛みに耐えながらベッドから身を起こして立ち上がるも、何故か足に力が入らずに床へバタリと倒れてしまう。
(嘘でしょ……これだけ寝ても全然回復してない。原初の力って、命と引き換えに手に入れるものなの?)
――さらに悪いことに、口から大量の血まで吐き出す容態である。
息遣いが荒くなる中、マリーはなんとか立ち上がって、傍に置いてあった日本刀を手にした。
(ごめんよ父ちゃん……母ちゃんは死んじゃうかもしれない)
……そしてマリーはフラフラとした様子で民家を出ると、街の建物が所々に燃えて、暖色の明かりが空を染めていた。
あの燃えている明かりの中心に、大量の原生種が潜んでいる。
なるべく戦闘は避けたいが、屋敷まで続く道は見晴らしの良い一本道なので、原生種に視認される可能性は極めて高そうである。
(あんまり戦いたくないけど、そうも言ってられないよね)
マリーは覚悟を決め、原生種との戦いを辞さない構えを選び、頼りない足取りでイシュクワの屋敷に向かって歩き出した。
マリーは倒れているヴォラレウスに駆け寄り、彼の体を抱き起こした。
「気にするな……これで良いのだ」
そう言うと、ヴォラレウスは自嘲気味に微笑む。
「……それにおまえは数日前、この力を八割は体得していたのだろう? 嘘を吐いた理由は、イシュクワの父親を殺したくないからだ。あれの悲しむ顔を見て情が湧いたのであろう」
「バレたか……」
「フッ、仮にもおまえの師匠だからな」
見ると、ヴォラレウスの腹部から大量の血が流れ出しており、こと切れるのも時間の問題だった。
「良いか、決して甘い考えを起こすな。相手がイシュクワの父親だとしても中身は別物だ。おまえの力で善き者の刺客を斬り裂くのだ」
「……分かったよ」
「さあ行け! 我は幻異界の刺客として、おまえの前で無様な死に顔を晒す訳にはいかん」
マリーはヴォラレウスのプライドを尊重し、すぐに背を向け、イシュクワの屋敷を目指して歩き出した。
……その数分後、マリーが去ったのを確認すると、彼はゆっくりと目を閉じて眠るように息絶えた。
一方で、マリーはしばらく街の中を歩いていると、巨大な原生種が建物の壁に張り付いているのを確認する。
(やっぱりだ。あいつらを倒して進むしか方法がなさそう)
だがマリーの右手が微かに震えており、日本刀を握る握力もすでに失われている様子である。
ヴォラレウスとの戦いによるダメージが堪えたようで、少しでも気を抜けば原生種に力負けする可能性があった。
……この状況では難しいと考えたのか、マリーはしばらく休むため、近くの民家に入って内側から閂を掛けた。
(ここで少し休もう。夜に行動するのは危険だけど、今戦うのは無茶だしな)
幸いなことに、この民家には専用の寝室があるようなので、マリーは夜になるまでベッドで眠りに就いた。
――そして6時間後。
マリーがパチリと目を開けると、すでに外は薄暗くなっていた。
すぐに屋敷へ向かわねばと、痛みに耐えながらベッドから身を起こして立ち上がるも、何故か足に力が入らずに床へバタリと倒れてしまう。
(嘘でしょ……これだけ寝ても全然回復してない。原初の力って、命と引き換えに手に入れるものなの?)
――さらに悪いことに、口から大量の血まで吐き出す容態である。
息遣いが荒くなる中、マリーはなんとか立ち上がって、傍に置いてあった日本刀を手にした。
(ごめんよ父ちゃん……母ちゃんは死んじゃうかもしれない)
……そしてマリーはフラフラとした様子で民家を出ると、街の建物が所々に燃えて、暖色の明かりが空を染めていた。
あの燃えている明かりの中心に、大量の原生種が潜んでいる。
なるべく戦闘は避けたいが、屋敷まで続く道は見晴らしの良い一本道なので、原生種に視認される可能性は極めて高そうである。
(あんまり戦いたくないけど、そうも言ってられないよね)
マリーは覚悟を決め、原生種との戦いを辞さない構えを選び、頼りない足取りでイシュクワの屋敷に向かって歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる