MEMOVERUS ~幻異界転生~

中島 弓夜

文字の大きさ
65 / 85
第六章 コールダスク 18歳

Hackers

しおりを挟む
「チッ、警察に捕まると面倒クセェな……」

首都高での走りは慣れていたが、パトカーの数が多いために捕まるのは時間の問題だった。
しくじった自分が悪いため文句も言えず、警察から逃げる最中、クライアントに言い訳する理由ばかり考えていた。

「そこのバイク、止まれっ! 場合によっては発砲する!」

後方からパトカーが拡声器を使って呼び止めようとする。
『コールダスク』と呼ばれた黒人の少年は、それでも振り返らずバイクの速度をさらに上げた。
朝日が昇る前の早朝なので車の数は少ないが、ちょっとでも気を抜けば他の車と衝突、もしくは運転を誤って転倒する可能性があるため、危険なレースであることは間違いない。

(次の板橋JCTで撒くか。その後に一般道へ下りて赤羽の隠れ家に向かおう)

コールダスクは車の間をすり抜けながら、首都高の難所とも言われる板橋JCTに入り、一部渋滞している場所を利用してパトカーをこうとする。
目論見もくろみが成功したのか、コールダスクは渋滞している車の間をバイクで上手くすり抜け、そのまま板橋本町ICで下りて赤羽へ向かった。

(……さすがに追って来ねぇか。そろそろクライアントから警察に報告があるはずだし、もう少し粘れば大丈夫そうだ)

コールダスクは速度を上げ、ICからバイクで15分程度の距離にある隠れ家へ辿り着いた。
隠れ家の鍵は二重構造になっており、シリンダー錠の鍵を回した後、ドアの裏側にあるセキュリティ・システムにスマホで通知しなければ開かない仕様である。
だが最悪なことに、コールダスクは逃げる途中にスマホを落としたらしく、ジャケットを探しても見つかることはなかった。
コールダスクが頭を抱えてドアの前でうずくまると、不思議なことにカチャリとドアが開いて、一人の男が中から顔を出した。

「おや、遅かったね」
「あんた……誰?」
「君を逮捕する」

すると、隠れ家の中から数人の警察官が現れ、コールダスクを地面に押さえ付けて両手に手錠を掛ける。
本人は「イテェ、イテェ!」と叫ぶも、警察官は容赦せず髪をつかんで無理矢理立ち上がらせ、そのまま建物の脇に停めていたパトカーに彼を押し込んだ。

――そして二時間後。

コールダスクは取調室に通され、両手に手錠を掛けられたままパイプ椅子に座っていた。
見ると、顔に何度か殴られたようなあざがあり、頬と目の周りが紫色に膨れ上がっている。

(ちっくしょう……だから警察に関わるのは嫌なんだ)

日本は世界大戦の敗戦後、アメリカと同盟国にはなったが、敗戦国にも関わらず軍組織と警察が現代でも権力を保持しており、特に国内は武器開発に力を入れて技術が発展したため、それに並行するようにテクノロジーが異様な進化をげた。
コールダスクのような『ハッカー』は、この世界で大いに需要があるも、警察に目を付けられるため捕まるのは日常茶飯事にちじょうさはんじである。
その点、彼は優秀なハッカーなので警察に逮捕された回数が少なく、ネット界隈かいわいでちょっとした有名人だったが、今回のカウントで評判はダダ下がりになるだろう。

「そう不貞腐ふてくされるな、さっきコルト・テック社から連絡があったよ」

ドアを開け、一人の男が取調室に入って来た。
顔を見ると、隠れ家のドアを開けて最初に話し掛けられた警察の男である。

「あんた……どうやって俺の家に入ったんだよ?」
「あれくらいのセキュリティはすぐに突破できるよ。警察をあなどっちゃいけないな」

男は手を差し出してコールダスクに握手を求めた。
「……手錠をしてるんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「ああすまない、ついクセでね。私の名前は高田玲紀たかだれいきだ。君の噂は聞いているよ、若いのに腕があるハッカーとして界隈では有名だからね。会えて光栄だ」
「……良くそんな歯の浮いたセリフが言えるよな、こんだけ殴られたんだぜ」
「今の日本は無政府状態に近いからな。だから警察は犯罪者にめられるのが怖いんだよ。もっと早くにコルト・テックから連絡があれば、痛い目にわずに済んだだろうに」
高田は手元の資料を開いて、しばらく内容に目を通す。
「コールダスク……本名はデアンドレ・マーシー。見た目は欧米人だが、日本生まれの日本育ちで生粋の日本人だ。国籍もちゃんと保有しているし、違法性もなさそうだね」
「なんだよ、俺が黒人だから不法移民だって思ったのか?」
「いやいや、念のための確認だよ。他意はない。それに、君のお父さんは日本人だしな」
「親父はとっくの昔に死んだ」
「そうか……それはお気の毒に」
高田の言葉はちっとも心がこもっておらず、コールダスクは苛立ちで眉間みけんしわが寄った。
「では釈放の手続きをしよう。ああそれから、君のクライアントの一人がここへ来ているよ。コルト・テックには、警察もオイシイ思いをさせてもらっているからね。彼らによろしく伝えておいてくれ」
そして高田は手錠の鍵を外し、コールダスクと一緒に取調室を出た。

諸々の手続きを経た後、コールダスクは警視庁の一階へ行くと、スーツ姿の男が彼を出迎えた。
「完全にしくじったなコールダスク。今後の査定に響くから覚悟しておけ」
「分かってるよ望月さん。処罰は受けるさ」
「まったく、我が社のセキュリティをチェックするハッカーが捕まってどうする? 私たちが無視したら、おまえはブタ箱に放り込まれるんだぞ」
「今回は優秀なエンジニアが警察にいたのかも。あの高田ってヤツが怪しいけど」
「……まあいい、あまりミスを重ねるとおまえを雇えなくなるから覚えておけ」
そう言うと、望月と呼ばれた男はコールダスクに背を向けて警視庁の外へ出た。

――今回の件でコルト・テック社が焦る理由はもう一つある。

表向きは「企業のセキュリティをチェック」するのがコールダスクの本業だが、裏では他社の機密データをハッキングする仕事も請け負っているため、警察に捕まるのは非常にマズイ。
その点は抜かりなく、企業が警察に賄賂わいろを渡すなどして穏便おんびんに済ませようとしているも、弱い立場の者が詰められれば過去の犯罪を暴かれてしまう可能性があり、大企業であっても悪い噂が止められなくなってしまう。
コールダスクはまさに弱い立場の代表者だ。
下手なことを喋れば企業の不利益に直結するため、場合よっては切り捨て……つまり殺されてしまうのである。

……そしてコールダスクは外へ出ると、望月が黒塗りの車の後部座席に座っていた。
「送ってくれるの?」
「馬鹿を言うな、歩いて帰るんだ。おまえと顔を合わせるのは今回限りだと思え。また後日連絡する」
そう言うと、望月はウィンドウを閉じて運転手に車を出すよう指示した。
残されたコールダスクは不満そうな顔をしたが、すぐにあきらめて駅に向かって歩き出した。

――午前の日差しが強い中、しばらく歩いていると巨大な看板が目の前に現れた。
そこには「東京オリンピック、開催迄あと147日」と書かれている。

(何が東京オリンピックだよ……こんな世の中でスポーツなんかやってられるか)

コールダスクは、心の中でそんなことをつぶやいていると、横を走り抜けたバイクが何故か彼の前で止まった。
バイクに乗っていたのはライダースーツを身にまとった女性で、ヘルメットを取れば誰もが振り返るような美人だったため、彼はおどけて「ヒュー」と口笛を鳴らした。
不思議なことに、その女性はこちらに向かって歩いて来る。

「おい、おまえ!」
急に呼び止められたため、コールダスクは慌て出す。
「な、なんスか? 口笛鳴らしたの気にさわりました?」
「またチャラチャラした悪党の風体ふうていだな……今度はなんだ、殺人でもしたのか?」
「してないっスよ、そんなこと! あんた、見た目で俺を悪党と決め付けるのエグいだろ!」
「まあ、おまえがどんな人生を送ったかなんて関係ない。そんなことは1ミリも興味がないからな」
そう言うと、その女性は胸ポケットから一枚のカードを取り出した。

「このカードに触れて、おまえのイーテルヴィータを確定しろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜

伽羅
ファンタジー
 事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。  しかも王子だって!?  けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。  助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。  以前、投稿していた作品を加筆修正しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...