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第六章 コールダスク 18歳
Hackers
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「チッ、警察に捕まると面倒クセェな……」
首都高での走りは慣れていたが、パトカーの数が多いために捕まるのは時間の問題だった。
しくじった自分が悪いため文句も言えず、警察から逃げる最中、クライアントに言い訳する理由ばかり考えていた。
「そこのバイク、止まれっ! 場合によっては発砲する!」
後方からパトカーが拡声器を使って呼び止めようとする。
『コールダスク』と呼ばれた黒人の少年は、それでも振り返らずバイクの速度をさらに上げた。
朝日が昇る前の早朝なので車の数は少ないが、ちょっとでも気を抜けば他の車と衝突、もしくは運転を誤って転倒する可能性があるため、危険なレースであることは間違いない。
(次の板橋JCTで撒くか。その後に一般道へ下りて赤羽の隠れ家に向かおう)
コールダスクは車の間をすり抜けながら、首都高の難所とも言われる板橋JCTに入り、一部渋滞している場所を利用してパトカーを撒こうとする。
目論見が成功したのか、コールダスクは渋滞している車の間をバイクで上手くすり抜け、そのまま板橋本町ICで下りて赤羽へ向かった。
(……さすがに追って来ねぇか。そろそろクライアントから警察に報告があるはずだし、もう少し粘れば大丈夫そうだ)
コールダスクは速度を上げ、ICからバイクで15分程度の距離にある隠れ家へ辿り着いた。
隠れ家の鍵は二重構造になっており、シリンダー錠の鍵を回した後、ドアの裏側にあるセキュリティ・システムにスマホで通知しなければ開かない仕様である。
だが最悪なことに、コールダスクは逃げる途中にスマホを落としたらしく、ジャケットを探しても見つかることはなかった。
コールダスクが頭を抱えてドアの前で蹲ると、不思議なことにカチャリとドアが開いて、一人の男が中から顔を出した。
「おや、遅かったね」
「あんた……誰?」
「君を逮捕する」
すると、隠れ家の中から数人の警察官が現れ、コールダスクを地面に押さえ付けて両手に手錠を掛ける。
本人は「イテェ、イテェ!」と叫ぶも、警察官は容赦せず髪を掴んで無理矢理立ち上がらせ、そのまま建物の脇に停めていたパトカーに彼を押し込んだ。
――そして二時間後。
コールダスクは取調室に通され、両手に手錠を掛けられたままパイプ椅子に座っていた。
見ると、顔に何度か殴られたような痣があり、頬と目の周りが紫色に膨れ上がっている。
(ちっくしょう……だから警察に関わるのは嫌なんだ)
日本は世界大戦の敗戦後、アメリカと同盟国にはなったが、敗戦国にも関わらず軍組織と警察が現代でも権力を保持しており、特に国内は武器開発に力を入れて技術が発展したため、それに並行するようにテクノロジーが異様な進化を遂げた。
コールダスクのような『ハッカー』は、この世界で大いに需要があるも、警察に目を付けられるため捕まるのは日常茶飯事である。
その点、彼は優秀なハッカーなので警察に逮捕された回数が少なく、ネット界隈でちょっとした有名人だったが、今回のカウントで評判はダダ下がりになるだろう。
「そう不貞腐れるな、さっきコルト・テック社から連絡があったよ」
ドアを開け、一人の男が取調室に入って来た。
顔を見ると、隠れ家のドアを開けて最初に話し掛けられた警察の男である。
「あんた……どうやって俺の家に入ったんだよ?」
「あれくらいのセキュリティはすぐに突破できるよ。警察を侮っちゃいけないな」
男は手を差し出してコールダスクに握手を求めた。
「……手錠をしてるんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「ああすまない、ついクセでね。私の名前は高田玲紀だ。君の噂は聞いているよ、若いのに腕があるハッカーとして界隈では有名だからね。会えて光栄だ」
「……良くそんな歯の浮いたセリフが言えるよな、こんだけ殴られたんだぜ」
「今の日本は無政府状態に近いからな。だから警察は犯罪者に舐められるのが怖いんだよ。もっと早くにコルト・テックから連絡があれば、痛い目に遭わずに済んだだろうに」
高田は手元の資料を開いて、しばらく内容に目を通す。
「コールダスク……本名はデアンドレ・マーシー。見た目は欧米人だが、日本生まれの日本育ちで生粋の日本人だ。国籍もちゃんと保有しているし、違法性もなさそうだね」
「なんだよ、俺が黒人だから不法移民だって思ったのか?」
「いやいや、念のための確認だよ。他意はない。それに、君のお父さんは日本人だしな」
「親父はとっくの昔に死んだ」
「そうか……それはお気の毒に」
高田の言葉はちっとも心が籠っておらず、コールダスクは苛立ちで眉間に皺が寄った。
「では釈放の手続きをしよう。ああそれから、君のクライアントの一人がここへ来ているよ。コルト・テックには、警察もオイシイ思いをさせて貰っているからね。彼らによろしく伝えておいてくれ」
そして高田は手錠の鍵を外し、コールダスクと一緒に取調室を出た。
諸々の手続きを経た後、コールダスクは警視庁の一階へ行くと、スーツ姿の男が彼を出迎えた。
「完全にしくじったなコールダスク。今後の査定に響くから覚悟しておけ」
「分かってるよ望月さん。処罰は受けるさ」
「まったく、我が社のセキュリティをチェックするハッカーが捕まってどうする? 私たちが無視したら、おまえはブタ箱に放り込まれるんだぞ」
「今回は優秀なエンジニアが警察にいたのかも。あの高田ってヤツが怪しいけど」
「……まあいい、あまりミスを重ねるとおまえを雇えなくなるから覚えておけ」
そう言うと、望月と呼ばれた男はコールダスクに背を向けて警視庁の外へ出た。
――今回の件でコルト・テック社が焦る理由はもう一つある。
表向きは「企業のセキュリティをチェック」するのがコールダスクの本業だが、裏では他社の機密データをハッキングする仕事も請け負っているため、警察に捕まるのは非常にマズイ。
その点は抜かりなく、企業が警察に賄賂を渡すなどして穏便に済ませようとしているも、弱い立場の者が詰められれば過去の犯罪を暴かれてしまう可能性があり、大企業であっても悪い噂が止められなくなってしまう。
コールダスクはまさに弱い立場の代表者だ。
下手なことを喋れば企業の不利益に直結するため、場合よっては切り捨て……つまり殺されてしまうのである。
……そしてコールダスクは外へ出ると、望月が黒塗りの車の後部座席に座っていた。
「送ってくれるの?」
「馬鹿を言うな、歩いて帰るんだ。おまえと顔を合わせるのは今回限りだと思え。また後日連絡する」
そう言うと、望月はウィンドウを閉じて運転手に車を出すよう指示した。
残されたコールダスクは不満そうな顔をしたが、すぐに諦めて駅に向かって歩き出した。
――午前の日差しが強い中、しばらく歩いていると巨大な看板が目の前に現れた。
そこには「東京オリンピック、開催迄あと147日」と書かれている。
(何が東京オリンピックだよ……こんな世の中でスポーツなんかやってられるか)
コールダスクは、心の中でそんなことを呟いていると、横を走り抜けたバイクが何故か彼の前で止まった。
バイクに乗っていたのはライダースーツを身に纏った女性で、ヘルメットを取れば誰もが振り返るような美人だったため、彼はおどけて「ヒュー」と口笛を鳴らした。
不思議なことに、その女性はこちらに向かって歩いて来る。
「おい、おまえ!」
急に呼び止められたため、コールダスクは慌て出す。
「な、なんスか? 口笛鳴らしたの気に障りました?」
「またチャラチャラした悪党の風体だな……今度はなんだ、殺人でもしたのか?」
「してないっスよ、そんなこと! あんた、見た目で俺を悪党と決め付けるのエグいだろ!」
「まあ、おまえがどんな人生を送ったかなんて関係ない。そんなことは1ミリも興味がないからな」
そう言うと、その女性は胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
「このカードに触れて、おまえのイーテルヴィータを確定しろ」
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しくじった自分が悪いため文句も言えず、警察から逃げる最中、クライアントに言い訳する理由ばかり考えていた。
「そこのバイク、止まれっ! 場合によっては発砲する!」
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『コールダスク』と呼ばれた黒人の少年は、それでも振り返らずバイクの速度をさらに上げた。
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(次の板橋JCTで撒くか。その後に一般道へ下りて赤羽の隠れ家に向かおう)
コールダスクは車の間をすり抜けながら、首都高の難所とも言われる板橋JCTに入り、一部渋滞している場所を利用してパトカーを撒こうとする。
目論見が成功したのか、コールダスクは渋滞している車の間をバイクで上手くすり抜け、そのまま板橋本町ICで下りて赤羽へ向かった。
(……さすがに追って来ねぇか。そろそろクライアントから警察に報告があるはずだし、もう少し粘れば大丈夫そうだ)
コールダスクは速度を上げ、ICからバイクで15分程度の距離にある隠れ家へ辿り着いた。
隠れ家の鍵は二重構造になっており、シリンダー錠の鍵を回した後、ドアの裏側にあるセキュリティ・システムにスマホで通知しなければ開かない仕様である。
だが最悪なことに、コールダスクは逃げる途中にスマホを落としたらしく、ジャケットを探しても見つかることはなかった。
コールダスクが頭を抱えてドアの前で蹲ると、不思議なことにカチャリとドアが開いて、一人の男が中から顔を出した。
「おや、遅かったね」
「あんた……誰?」
「君を逮捕する」
すると、隠れ家の中から数人の警察官が現れ、コールダスクを地面に押さえ付けて両手に手錠を掛ける。
本人は「イテェ、イテェ!」と叫ぶも、警察官は容赦せず髪を掴んで無理矢理立ち上がらせ、そのまま建物の脇に停めていたパトカーに彼を押し込んだ。
――そして二時間後。
コールダスクは取調室に通され、両手に手錠を掛けられたままパイプ椅子に座っていた。
見ると、顔に何度か殴られたような痣があり、頬と目の周りが紫色に膨れ上がっている。
(ちっくしょう……だから警察に関わるのは嫌なんだ)
日本は世界大戦の敗戦後、アメリカと同盟国にはなったが、敗戦国にも関わらず軍組織と警察が現代でも権力を保持しており、特に国内は武器開発に力を入れて技術が発展したため、それに並行するようにテクノロジーが異様な進化を遂げた。
コールダスクのような『ハッカー』は、この世界で大いに需要があるも、警察に目を付けられるため捕まるのは日常茶飯事である。
その点、彼は優秀なハッカーなので警察に逮捕された回数が少なく、ネット界隈でちょっとした有名人だったが、今回のカウントで評判はダダ下がりになるだろう。
「そう不貞腐れるな、さっきコルト・テック社から連絡があったよ」
ドアを開け、一人の男が取調室に入って来た。
顔を見ると、隠れ家のドアを開けて最初に話し掛けられた警察の男である。
「あんた……どうやって俺の家に入ったんだよ?」
「あれくらいのセキュリティはすぐに突破できるよ。警察を侮っちゃいけないな」
男は手を差し出してコールダスクに握手を求めた。
「……手錠をしてるんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「ああすまない、ついクセでね。私の名前は高田玲紀だ。君の噂は聞いているよ、若いのに腕があるハッカーとして界隈では有名だからね。会えて光栄だ」
「……良くそんな歯の浮いたセリフが言えるよな、こんだけ殴られたんだぜ」
「今の日本は無政府状態に近いからな。だから警察は犯罪者に舐められるのが怖いんだよ。もっと早くにコルト・テックから連絡があれば、痛い目に遭わずに済んだだろうに」
高田は手元の資料を開いて、しばらく内容に目を通す。
「コールダスク……本名はデアンドレ・マーシー。見た目は欧米人だが、日本生まれの日本育ちで生粋の日本人だ。国籍もちゃんと保有しているし、違法性もなさそうだね」
「なんだよ、俺が黒人だから不法移民だって思ったのか?」
「いやいや、念のための確認だよ。他意はない。それに、君のお父さんは日本人だしな」
「親父はとっくの昔に死んだ」
「そうか……それはお気の毒に」
高田の言葉はちっとも心が籠っておらず、コールダスクは苛立ちで眉間に皺が寄った。
「では釈放の手続きをしよう。ああそれから、君のクライアントの一人がここへ来ているよ。コルト・テックには、警察もオイシイ思いをさせて貰っているからね。彼らによろしく伝えておいてくれ」
そして高田は手錠の鍵を外し、コールダスクと一緒に取調室を出た。
諸々の手続きを経た後、コールダスクは警視庁の一階へ行くと、スーツ姿の男が彼を出迎えた。
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「分かってるよ望月さん。処罰は受けるさ」
「まったく、我が社のセキュリティをチェックするハッカーが捕まってどうする? 私たちが無視したら、おまえはブタ箱に放り込まれるんだぞ」
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「……まあいい、あまりミスを重ねるとおまえを雇えなくなるから覚えておけ」
そう言うと、望月と呼ばれた男はコールダスクに背を向けて警視庁の外へ出た。
――今回の件でコルト・テック社が焦る理由はもう一つある。
表向きは「企業のセキュリティをチェック」するのがコールダスクの本業だが、裏では他社の機密データをハッキングする仕事も請け負っているため、警察に捕まるのは非常にマズイ。
その点は抜かりなく、企業が警察に賄賂を渡すなどして穏便に済ませようとしているも、弱い立場の者が詰められれば過去の犯罪を暴かれてしまう可能性があり、大企業であっても悪い噂が止められなくなってしまう。
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そう言うと、望月はウィンドウを閉じて運転手に車を出すよう指示した。
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そこには「東京オリンピック、開催迄あと147日」と書かれている。
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バイクに乗っていたのはライダースーツを身に纏った女性で、ヘルメットを取れば誰もが振り返るような美人だったため、彼はおどけて「ヒュー」と口笛を鳴らした。
不思議なことに、その女性はこちらに向かって歩いて来る。
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急に呼び止められたため、コールダスクは慌て出す。
「な、なんスか? 口笛鳴らしたの気に障りました?」
「またチャラチャラした悪党の風体だな……今度はなんだ、殺人でもしたのか?」
「してないっスよ、そんなこと! あんた、見た目で俺を悪党と決め付けるのエグいだろ!」
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