MEMOVERUS ~幻異界転生~

中島 弓夜

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第六章 コールダスク 18歳

Omen

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コールダスクは望月の話を聞いて唖然あぜんとする。
「マ、マラーニャ!? 望月さん正気ですか? あの女がどれだけ恐ろしいスキルを持ってるか、あんたは知らないから安易に雇ったりするんだ!」
「それは知っている。だがな、ライバルのオラダンス社の手に渡れば、我が社にとって尋常じんじょうではない被害の出る可能性がある。今回の決断は保険の意味を込めたものだ」
「しかしですね……」
「これは役員会議で決定した、おまえに撤回てっかいする権限はない。教育係としての役目を大人しく受けろ。これは上司の命令だ」
「……分かりました」
「それでいい、また後日連絡する」

……望月との通話が切れ、コールダスクは落胆らくたんしたように大きな溜息を吐いた。

「その様子だと、何か問題が起きたようだな」
「いや、最悪なことになりそうだ。コルト・テックがハッカーのマラーニャを雇ったらしい。こいつは女性ですけど、企業データを盗むスキルがずば抜けて高くて、わずか数分で1PBペタバイトもの内部データや社用システムを凍結させました。彼女の犯行で大企業の10社が、倒産寸前にまで追い込まれたんだ」
「何故コルト・テックが、その女を雇う必要があるんだ?」
「噂に聞いたけど、軍組織が彼女を捕縛ほばくして巣鴨の拘置所に勾留こうりゅうしていたみたいで、軍はコルト・テックのライバル企業と親密だから、その企業の手に渡ることを恐れた感じだね」
「そんなに恐ろしい女なのか?」
「スキルは俺と比較にもならない。教育係を任されたけど、教えられることなんて一つもないんだ。それに、彼女は気まぐれで犯罪に手を染めるから、俺の話なんて聞く耳すら持たないさ」
「まあ、コルト・テックが勝手に雇ったんだろ? じゃあ同僚になるから、おまえにとっては心強い味方になるかもしれないじゃないか」
「そんな単純な話じゃ……」

――その時、コールダスクはふと画面に視線を向けると、猿渡の会社を録画していたカメラに奇妙なものが映り込む。
(なんだ……今、大きな影が横切ったような気がする)
コールダスクは目を凝らしてもう一度画面を確認すると、大きな影と思われた物体は巨大な原生種であった。
「ああっ! 七奈美さん、あれを見てくれ!」
「原生種じゃないか! なんで猿渡の会社を襲うんだ?」
「ちょっと行って来ます! 七奈美さんはここで待っていてください」
「何故だ? 私も行くぞ」
「二日酔いなんでしょ。死にそうな顔で付いて来られても、こっちが困るんで」
そう言われて七奈美も悔しそうな顔をしたが、頭痛が取れないためコールダスクに従うしかない。
コールダスクはすぐに着替え、日本刀とリボルバーを装備すると、予備のバイクを走らせて猿渡の会社へ向かった。

――30分後。
渋谷区にある猿渡の会社に到着すると、コールダスクはバイクを降りてオフィスビルのエレベーターに乗り込む。
(猿渡のオフィスは52階……こんな高さをあの巨体で登ったのか?)
コールダスクは原生種の能力に驚くも、気持ちを落ち着かせるため大きく深呼吸した。
そして「チン」と音がした後、エレベーターのドアが開いたため、慎重に進みながらコールダスクは猿渡のオフィスへ足を踏み入れる。

辺りは不気味なほど音一つなく、原生種が動き回っている気配も感じられない。
だが、何人かのスタッフが床に倒れており、そのほとんどが体の一部を噛み千切ちぎられていた。
(やはりいるな。この状況だと生存者は残ってないのかも)
……すると、奥から女性のすすり泣く声が聞こえて来た。
コールダスクは生き残った者がいると思い、声がした部屋のドアを開けて中の様子を確認する。

(う、うわっ!)

見ると、啜り泣いていたのは原生種の皮膚に浮き上がった人間の顔だった。
原生種の姿はクラゲのようであり、何本かの触手が体全体を支えている。
そのクラゲ型の原生種は、コールダスクの存在に気が付いたため、巨体をひるがえしてこちらへ襲い掛かって来た。
コールダスクは即座に反応し、部屋から飛び出して原生種を広い場所へ誘い込む。
原生種は部屋の壁を突き破ってコールダスクを追うと、その勢いのまま彼に向かって体当たりしようとした。
(そんなノロい動作で当たるかよ!)
コールダスクは横跳びして原生種の攻撃をかわすと、背後からリボルバーを連射して甚大じんだいな傷を負わせる。
ダメージが大きかったのか、原生種の皮膚に浮き上がった何人かの顔が悲鳴を上げ、コールダスクはたまらず耳をふさいだ。
「うるせぇな! こいつでトドメだ!」
コールダスクは日本刀を頭上に掲げて素早く振り下ろすと、ヴォラレウス直伝の衝撃波が放たれ、その衝撃波は原生種の体を真っ二つに斬り裂く。
その後、原生種は断末魔だんまつまを叫びながら床へ崩れ落ちた。

――コールダスクは勝利したことを喜んだが、一方で衝撃波を放った反動が体にダメージとして現れ、両腕を見ると何本かの血管が破裂しているのが分かった。
(いってぇ……やっぱり人間の体じゃ無理があるな。使う時は慎重にしないと)

コールダスクは痛む腕をさすりながらオフィスの奥へ進むと、「社長室」と書かれた部屋のドアを開けて中へと入る。
部屋の中央には猿渡が血だらけで倒れており、呼び掛けても返事は返って来なかった。
(遅かったか……こいつが幻異界の刺客だと思ってたけど、どうやら違うらしいな)

……その時、コールダスクの携帯が部屋の中で鳴り響いた。
スマホを取り出して画面を見ると、何故か「非通知」と表示されている。
(嘘だろ……あり得ない)
コールダスクは通話のボタンを押して、相手が誰かを確認する。
しばらく無言の後、突然聞こえたのは甲高かんだかい女性の声だった。

「キャハハハ! コールダスクぅ、おっひさ~!」
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