MEMOVERUS ~幻異界転生~

中島 弓夜

文字の大きさ
8 / 85
第一章 穂積海斗 22歳

失敗した人生

しおりを挟む
海斗は後楽こうらく球陣城塞きゅうじんじょうさいのシェルターへ戻ると、施設に備わっている武器庫を訪れた。
武器庫を管理しているオロチが出迎え、海斗は日本刀の『兼佐陀かねさだ紫電しでん』とリボルバー『KH621』を収納台に置く。
オロチと呼ばれるその男は、このシェルターで武器開発に従事しており、何年か前に仁翔に雇われたのだと本人に聞いた。

「どうでした旦那? ぶっ飛んで最強でしたでしょ」
「ああ、申し分なかったよ」
「へへへ、そう言ってくれたら職人冥利しょくにんみょうりに尽きやす」

オロチは嬉しそうに収納台を武器庫の中へ運んだ。

「お師匠はまだシェルターにいるのか?」
「さあて……あっしは武器庫にこもりっきりなんで、ボスが何してるのか分かりませんぜ」
「たまには外に出ろよ、武器の開発も大事だけどさ」
「そりゃ無理な相談だ。武器開発はあっしの生きがい、人生そのものですから」

人生そのものか……オロチの言葉に海斗はうらやましそうに微笑んだ。
そして海斗は武器庫を出ると、そのままシェルター内にある『刻殺ときごろしの間』へと向かう。
刻殺しの間には中央に台座のようなものがあり、そこへ海斗は取り出したメモヴェルスのカードを置いた。
すると目の前に何枚かのモニターが現れ、海斗は台座にあるパネルを操作すると、モニターの画面が切り替わり東京の風景が映し出される。

「おい海斗、今日は吉祥寺へ遊びに行こうぜ」
「また酒かよ……おまえは大学生なのにリーマンみたいな生活するんだな」
「陽介は出世するかもな~。今時流行んない飲み会とか好きそうだし、年上からはモテるんじゃね?」
「うるせぇぞ溝やん、俺はただ好きで酒飲んでんの! おっさんにモテるとか気持ち悪いこと言うなや」

モニターには海斗と陽介、いつも一緒にいた友人の溝口が映し出され、三人で楽しそうに談笑している。
そして夜に場面が切り替わり、三人は吉祥寺にある居酒屋へと足を運んだ。

「ここの焼き鳥、うめぇ~」
「陽介さぁ、大学を卒業したらどうすんの?」
「おまえはどうすんだよ海斗」
「俺と溝やんは東京が地元だから就職するけど、陽介は実家が福岡だろ。帰るのか地元に?」
「よく分かんね」
「いい加減だなぁ……今年から就活だよ俺とおまえも」
「う~ん、ここで彼女ができちまったし、俺も東京で働くかもな。上京組が都会で成功するってのも、ドラマのストーリーとしてはよくある話だろ」
「家族より彼女が優先か……惚気のろけるんじゃないよ」
「まあ、東京で家庭を築いて俺の子供とおまえらのガキが一緒に遊ぶとか見ていて面白いかもな」
「おいおい、おれらの子供をガキ呼ばわりすんな」
「ははははは」
「ははははは」

幸せそうな三人の姿を見て、パネルを操作している海斗の手が止まる。
しばらくモニターを見つめていた海斗は、大学生活での様々な思い出が蘇り、頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。

「おい、止めんか」

部屋の中に入って来た仁翔が、横からパネルを操作してモニターの画面を消した。

「失敗したイーテルヴィータをのぞき見てはいかん。あれでもちゃんと意識は残っとるから、再び戻るよう『善き者』と『悪しき者』に過去を上書きされるぞ」
「……すいません」

海斗は服のそでで涙をぬぐう。

「あれを失敗したと言うのは抵抗がありますね、俺は」
「皮肉な話じゃが、失敗したイーテルヴィータは無難で幸せな人生を送る。この世のことわりに気付いては困るからな。おまえさんの人生と並走して多次元的に無限のイーテルヴィータが生成されているが、そのほとんどはメモヴェルスの存在に触れてすらおらん」
「……分かっています」
「いいや、おまえさんは分かってない」

仁翔は持っていた日本刀を構え、海斗の前に立った。

「おまえさんが今の能力を手に入れたのはメモヴェルスのお陰じゃと、一ヶ月前に説明したな」
「はい」
「では、その仕組みについて知っておるか?」
「いえ……そこまでは詳しく知りません」
「これはメモヴェルスの欠片であり、およそ1年前の過去を書き換える力を持っている。つまりおまえさんは1年間、この刻殺しの間で修業して強くなったというワケじゃ」
「1年間……たったそれだけの期間で今の能力を?」
「そうじゃ、だがちょっとした条件を加えておる」

仁翔は海斗に向かって日本刀を横に薙ぎ払った。
海斗は即座に反応し、後ろに飛び退いて仁翔の切り払いを避ける。
だが仁翔は手を止めず次々と攻撃を繰り出したため、海斗の服にいくつかの切り目が入り、そこから血がにじみ出た。

「おまえさんの能力は日本の伝統剣術、柳生新陰流や北辰一刀流、天然理心流などを基礎としておるが、これらを応用する力はまだまだ未熟じゃ。それに持っていた日本刀を失えば、防御することができずに攻撃を受けてしまう」
「俺は剣術と銃器の知識しか得てないです」
「……ではメモヴェルスを使って過去を書き換えてみよう」

仁翔は鞘に刀を収めると、台座のパネルを操作した。

「メモヴェルスには365日、24時間、1分1秒たりとも集中力を欠かさずに武術の修業にはげんだと記録する。通常の人間なら学びに10年を必要とする能力が、わずか数秒で手に入れられるんじゃ」

――身体にふわっとした感触が走り、海斗は合気道や柔術といった様々な武術を思い出す。
次の瞬間、仁翔は居合で鞘から抜刀すると、その切っ先が海斗へ届く前に腕をつかんで仁翔を投げ飛ばした。

「……上出来じゃ」
「すいませんお師匠、思い切り投げ飛ばしてしまいました」
「これでメモヴェルスの真の力が分かったじゃろう。まさに神の力というヤツじゃ。ふっ、それを頻繁ひんぱんに行う『善き者』や『悪しき者』が神に該当するかは分からんがな」

仁翔は「イタタタ」と言いながら、痛む腰をさすって立ち上がる。

「自分の能力を実感することは、メモヴェルスの力を利用したという事実に繋がる。まずは現実を受け入れることじゃな。事実から目をそららせば心にすきが生まれ、奴らに付け込まれてしまう。おまえさんが246万回も失敗している理由が分かったじゃろう」
「こんな凄い力なら、俺をもっとパワーアップしてくださいよ」
「……欲を出すな欲を。いきなりとんでもないレベルでパワーアップすれば、おまえさんの人格まで狂ってしまうじゃろ。力に溺れればどうしても欲が出るからな、人間のさがというものじゃ」

海斗は不服そうな顔をしたが、仁翔の言うことにも一理あると思い口を閉ざした。

「イーテルヴィータ……つまりは『人生の通り道』という意味じゃが、おまえさんはこの不可思議な世界を生きる者として確定している。辛いのはこちらも重々承知しているが、他のイーテルヴィータに思いをせるな。あれは『善き者』と『悪しき者』が仕組んだまがい物の人生だと肝にめいじておけ」
「……分かりました」

海斗はそう言うと、台座に置かれていたメモヴェルスのカードを手に取り、懐のポケットに収めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜

伽羅
ファンタジー
 事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。  しかも王子だって!?  けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。  助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。  以前、投稿していた作品を加筆修正しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...