MEMOVERUS ~幻異界転生~

中島 弓夜

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第二章 穂積海斗 21歳

私の愛した人

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「え……?」

海斗は腹部を確認すると、クライザーレの杖が突き出しているのが見えた。
そのまま海斗は地面に倒れ、多量の出血により目がかすみ始める。

ドスドスドスッ!

海斗は何度も杖で背中を刺され、その衝撃と痛みでビクビクと体が痙攣けいれんする。

(誰が……やってるんだ?)

海斗は霞む目で背後にいる人物を見た。

――その人物とは……奈波である。

奈波は狂ったように海斗を杖で刺し、その瞳は狩りを行う獣のように血走っていた。
もう海斗に抵抗する力は残されていない。
すでに命のともしびは消え掛かっており、そのまま息絶えるのも時間の問題であった。

そうか俺は悪い夢を見ているんだ。
このまま目を閉じてすべてを忘れてしまおう。
なっちゃんがこんなことするはずないだろ。
センスのない悪夢だよな。

海斗はそんなことを考えながら、心の中で「もうどうでもいい」とつぶやき、薄れゆく意識の中でゆっくりと目を閉じた。
ふと仁翔の姿が思い浮かんだが、この状況では彼にたくされた言葉もなんら意味を成さなかった。

――だがその時、奈波の動きが何故か止まる。

「捕まえたっ! 海斗、この娘の心臓を突けっ! ヤツはそこにいる!」

奈波から何かを必死で訴えるような声が聞こえ、海斗は少しだけ意識を取り戻す。

(何を言ってるんだ……?)

海斗は目を覚まそうと頭を振るが、思っている以上にダメージは大きく、指を動かすことさえままならない。

「は……や……く……しろぉぉぉ! 善き者の浸食しんしょくがまた始まってしまう!」

海斗は「善き者」という言葉を聞くと、息を整えて再び日本刀を握り締めた。
フラついた足取りでゆっくりと立ち上がると、凄まじい形相で何かに苦しんでいる奈波と向き合う。
もう海斗には衝動的に動く力しか残っておらず、善悪の判断もできないでいたため、目の前にいる人物が奈波かどうかでさえ分からなくなっていた。

そして日本刀のつかを頬の辺りまで持ち上げ、突きの構えに切り替える。
次の瞬間、海斗は地面を蹴って前方に飛び出し、そのまま奈波の心臓に向かって日本刀を突き刺した。

「キャアアアァァァ!!!」

――奈波は叫び声を上げながら、膝から崩れ落ちるように地面に倒れた。
その隣で海斗も同じく倒れてしまう。

これはきっとなっちゃんじゃない。
善き者が取り憑いた別の生き物なんだ。
だから俺の敵だ。
だから殺しても問題ない。

朦朧もうろうとした意識の中で、海斗はそんなことを考えていた。
その時、倒れていた奈波から声が聞こえる。

「よ、よくやった……善き者は消滅したぞ。ああ……この娘の意識が戻って来る。とてつもない悲しみを感じるな……駄目だ海斗……この娘の言うことを聞くんじゃない……聞くんじゃないぞ……」

海斗は息が乱れながらも必死で立ち上がり、倒れている奈波の体を抱き上げた。

「七奈美さん……?」

その言葉で奈波の目が開いた。
そして掠れた声で海斗に何かを伝えようとする。

「海斗……どうして……? 大好きだったのに……」

そう言うと奈波は力尽きるように、そのまま息を引き取った。
海斗は今の言葉が「七奈美」ではなく、「奈波」が伝えたものだと気が付く。

「うわあああぁぁぁ―――!!!」

海斗は奈波を抱き締めながら、天にも届くような声で泣き叫んだ。
……だが愛した人はもう戻らず、冷たい亡骸むくろだけが残されていた。
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