虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

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異世界フィオール

13話 不審者情報あり

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 アレッサンドリーテ商業地区、とある冒険者用道具屋さんにて。
 店主のお姉さんと、なんだかチャラい冒険者のお兄さんが話していた。

「──聞きましたか? ここの近くで……」

「ああ……不審者が出たってね。なんでも、ヒトに手をかざしては走り去っていくお嬢ちゃんがいるらしいじゃん?」

 チャラいお兄さんは瓶に入った回復薬を受け取ると、懐からタリスマンを取り出して慣れた手つきでレジのスキャナーにかざす。このお店ではこうやってお会計をするようだ。

「そうなんですよ。結界があるから大丈夫だとおもいますけど、ちょっと恐いですね……。まあ、最悪ウチらは店を閉めて防護結界でシェルター化すれば良いですけどね。何をしてくるか分からないですしお兄さんも気をつけて」

「オレちゃんもけっこー強いし、パーティのハニーたちも頼りになる子ばっかりだから心配しなくて大丈夫だよ。……でも、気遣いうれしかったぜ。ありがとうお嬢ちゃん」

 チャラいお兄さんはピッと指を立てた後店主のお姉さんにウインクをしてお店を後にした。


 この街に出没したという不審者。そう、それはの事である。この不審者情報はもう商業地区ほぼ全域に広がっていて、すでに衛兵の皆さんが不審者を捕らえるべく捜索中だ。
 しかし、なぜここまでの状態になるまでメーシャが暴れたかというと理由があった──。

「こ、言葉が全然わかんない……!! 英語じゃないし、当たり前だけどフランス語とかドイツ語でもないし、アジア圏の言語でもない!! どうしよっ!?」

 時間を少しさかのぼり…………メーシャは異世界のヒトとコミュニケーションをはかろうとしたところ、異世界人は地球で聞いた事ない言語を話していて全く会話にならなかったのだ。
 何度かジェスチャーも試そうとしたが、そもそも文化が違えばジェスチャーも違う。ほんのり通じる部分もあったが、何か気に障るジェスチャーが混じっていたのか怪しまれて衛兵を呼ばれるのがオチだった。


ちゅえちゅうデウスさんはちちうちゅーち言葉が分かるようにちちゅあちゅうちし忘れたんでしょうか

 ヒデヨシの言う通り、デウスは言語適応の魔法も忘れていた。ただ、もし覚えていたとしても、魔力を既に使い果たしてしまっているので結局結果は同じではあるが。

「う~ん……このままじゃドラゴン=ラードロどころじゃないし、何か方法考えないと……。1から学んでいくのは現実的じゃないし、とは言え言葉を一瞬で自分のものにするなんて…………ん?!」

 メーシャは何かをおもいついたのか、表情が一気にパーっと明るくなる。

「そっか! にしちゃえばいいんだ!!」

「ちう?」

「あのね、あーしのチカラって"奪って自分のモノにする"でしょ? だから、人が喋ってるのをスキャンするカンジ? で奪って自分のモノにできればさ、その奪った言葉を理解できるようになるんじゃないかって! まー、正直できるかわかんないけど、やってみる価値はあると思うの!」

 言葉なんて奪ってしまえばその人が言葉を使えなくなるのではないかという考えに一度おちいったが、よくよく考えてみると口から放たれた音の振動の一部を拝借できれば言語の解読はもちろん、人への悪影響も無い完璧な作戦なのではという結論に至った。

「ちゅう~!」

 ヒデヨシは型破りな作戦に思わず感心して拍手をしてしまう。

「じゃ、そうと決まれば駆け抜けるよ! できるだけたくさんサンプルが欲しいからね」

 言葉の数なんてものは数え切れないほどこの世に存在する。全部は無理にしても、最低限人と会話できるレベルまで言葉を手に入れるとなると、単語の重複や不規則変化する動詞などを考慮して数千人分くらいの言葉は欲しい。ゆっくりしていたら夜になってまた朝になってしまう。

「ちう!」

 ヒデヨシは動き回って迷子にならないようにメーシャの肩に飛び乗る。

「オーラを手に集中させて…………れっつ、メーシャミラクル~!」

 こうして、メーシャは言語を習得するために街を走り回り、喋ってる人を見つけては片っ端から手をかざしてオーラで吸収し、用が済んだら走り去ってまた喋ってる人を見つけたら…………と繰り返していき、数時間で見事アレッサンドリーテの有名人(不審者)に成り上がったのだった。


 * * * * *

 一段落して、メーシャは他のヒトの邪魔にならないように人通りの少ない裏路地に来ていた。

「──ふぃ~! 結構集まったし、いったん手持ちの言語をラーニングもしたいし、とりまこんなもんでイイかな? どれどれ……?」

 メーシャの目のところにバイザー型の、耳のところにはヘッドホン型のオーラが出現したかと思うと、先ほど異世界の皆様方が喋っていた異世界フィオール語が音と文字として流れてメーシャにどんどんインプットされていく。
 そのスピードは凄まじく、数時間の成果をなんとものの数十秒で出力してしまうほどだ。

「あばばばば……!? 頭が変になりそう~だし~!」

 正規ではなk突貫工事の学習なので仕方ないが、この方法はメーシャの脳には大きな負担がかかってしまう。デウスからチカラを貰っているのでいくらか軽くなっているものの、それでも30時間くらい寝なかったくらいの疲労はまぬがれない。

「ち……ちゅう?」

「…………あ。でも、なんか聞こえてくる言葉がちょっと分かってきたかも! 頭がぼーっとしてるから今はあんまり処理は早くできないけど、これで一晩お休みしたら多分最低限の会話ならなんとか問題無いレベルまでいける気がする」

 メーシャは疲れて声がふにゃふにゃ。今晩は早めに寝た方が良さそうだと思った、その時──。

「おい貴様、そこで何をしている!」

「市民に手をかざしては走り去っていくという不審者はお前のことだな!」

「何がしたいのか分からんが、暴れなければ手荒なことはしない。詳しく話を聞かせてもらおうか」

 不審者情報を受けて出動した、くたびれた軽装を身につけている衛兵が3人現れた。
 一応鎧は着けているものの兜は見当たらない事から、さほど重大なことだとは思っていないのだろう。しかし、そのおかげでメーシャに感動を与え、より不審に思わせてしまうことになる。

「え!? マジか! もしかして!? そんでそっちの人は顔がアリさんだから……虫人むしんちゅ? む~……分かんない! でも、みんな地球では見たことない人種の方々じゃん! ああ~……みんなお友達になりたい! ねぇねぇ、みんなヒマ? これからショッピングしない?!」

 ハイテンションのメーシャは早口でまくし立ててしまうのだった。日本語で…………そう、日本語で。


「……な、何を言っているんだこいつは?」
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