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職業 《 勇者 》
52話 新たな町へ
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600年前に甚大な被害を出したというキマイラに対し、メーシャは怪我もなく宣言通り圧勝することができた。
無意識的ではあったが、メーシャは戦いの中でウロボロスのチカラをもうひとつ更なる高みへと進められたのだった。
それは相手のマナという根源たるエネルギーに作用するもので、ラードロの身体を構成するナノウイルスに対しても特効である。今までもラードロに対し大きなダメージを与えたり、核の宝石を破壊して解放していたので、どうしても本体にもダメージが残っていた。
しかし、このチカラを使いこなすことが出来れば侵食が進んでいても本体を完全救出できるはずだ。
* * * * *
そしてキマイラ戦から2日後。
メーシャは"港町トゥルケーゼ"に向かうため、サンディーの背中に乗って平原を進んでいた。
「ふぃ~、風が気持ちいいね……!」
サンディーは頭を出してうねりながら時速80kmくらいで進み、小腹が減ったら気まぐれに弱いモンスターを丸呑みにするため急な方向転換するので、全くといって快適な旅ではないはずなのだが、メーシャはモンスターに乗っての旅というシチュエーションにテンションが爆アガり。ドーパミンのせいか、全てのマイナス要素もエンジョイできる寛容さを持っていた。
「キュイー!」
──ドッゴーンっ!!
サンディーが目の前に現れた大きな岩に正面突撃で粉砕。身体に付着したカケラを身体ふりふりして落とす。
サンディーはとても楽しそうだった。メーシャも楽しそうだった。
「さ、サンディー!? 落ちますって!」
ヒデヨシは全身を使って背中にしがみつき、サンディーから振り落とされるのをなんとか防ぐ。しかし、もうひとりの同行者はそうもいかなかった。
「あぁあぁああああ──!!?」
灼熱さんは手に持っていた小さなオニギリと共に吹っ飛んでいってしまう。
「灼熱さーん!!! ……ああ、だからサンディーの背中でご飯はやめた方がいいって言ったんです」
ヒデヨシは小さくなっていく灼熱さんから目を逸らして言った。
「もう、しゃーないなー……」
メーシャはオーラを手の形に変えて伸ばし、サッと灼熱さんをキャッチしてサンディーの上に戻す。
「お、おう!? 助かったぜぃ、メーシャのお嬢……! 危うくオニギリと一緒に泥に生き埋めにされるところだった」
灼熱さんは急いでオニギリを食べ切ってサンディーの背中にしがみついた。
灼熱さんは"ハムオブザスター"という炎の扱いが得意なモンスターで、燃えるような赤い毛のロボロフスキーハムスターみたいな姿をしている。
以前ラードロ化させられていた所をメーシャ達に助けられ、ハムオブザスターの誇りを取り返すため一緒にドラゴン=ラードロを倒す事を決めたのだった。
仲間のバトルヌートリアとデスハリネズミがアレッサンドリーテの住民と馴染み生活が落ち着いたところで、灼熱さんは冒険者登録を済ませて研修を行い、今回戦闘の経験や気たる決戦の時に息が合わないなんて事がないように一緒について来ることになった。
「キュ、キィキュキュイ!」
「ほんとだ。潮風の香りがしてきたね!」
「町も見えてきましたよ!」
爽やかな潮の香り、キラキラと光を反射する水、そこに浮かぶ無数の船、そびえ立つ灯台と港、白を基調とした建物の数々、アレッサンドリーテ最大規模の冒険者の要塞、海産物と輸入品の売買を行う商人や町をにぎわせるたくさんの人たち。
ここが"港町トゥルケーゼ"だ。
● ● ●
メーシャたちは町を探索する前にシタデルにおもむいていた。
シタデルは全体が白い石造りで、木と鋼でできた両開きの門をくぐれば広い中庭があり、周囲を堀と壁で囲まれていて、2ヶ所外に続く道には鋼の格子状の上げ下げできるタイプの門が設置されている。
「──じゃあサンディーはここでお留守番お願いね」
「キュ……」
お留守番と聞いてサンディーは落ち込んでしまう。
だがサンディーはまだ地面をえぐらずに道を進む事ができないので、今回シタデルの中庭で預かってもらうことになったのだ。
「ちゃんとタコ見つけて来るから、そんな落ち込まないのっ」
メーシャがサンディーの頭をよしよしとなでてあげる。
「キュ?」
「ほんと。だから、それまでここで地面をえぐらないようにする練習しときな? そしたら一緒に町をまわれるようになるからさ」
この町の道路は身体の大きなモンスターも通れるように大きめに作られているので、サンディーも道さえ壊さなければ窮屈な思いもせずに町の探索を楽しめるようになるのだ。
「……キィ」
「ここ2、3日でずっと上達してきていますし、きっともうすぐですよ」
ヒデヨシもサンディーをはげます。
「サンディー嬢ちゃん、少しでも好物のタコ……? とやらが見つかるよう、あっしも微力ながら頑張らせてもらうぜぃ。だからちぃ~っとばかし、待っててくんな」
灼熱さんも今日が初対面ながらサンディーを気遣う言葉をかける。義理人情にあつい性格なのだろう。
『メーシャ、俺様はサンディーと一緒に待ってるわ』
「そうなの?」
『地面をえぐらないようにする練習に付き合ってやろうと思ってな。ひとりも可哀想だし、その魔法に役にたつ知識を思い出したからちょうど良いと思ってな』
「デウス長生きだし、そういう知識もあるのか。ありがとね」
デウスは最新のこの世界の知識や、ヒトが使うような普通の魔法については少々うとい部分もあるが、イニシエの時代から生きている龍神なので色んな知識が蓄えられているのだ。
「おう。……そうだ、この町にはキマイラの時に言ったたこ焼きっぽい食べ物があるはずだから、タコ探しのついでに探してみると良いぜ』
「分かった、楽しみにしとくし!」
デウスの言い方を考えると、たこ焼きの様ではあるがタコは入っていないか、タコは使われているがまん丸じゃないか、もしくは調味料が違うのか。どうころんでもメーシャにとってこの料理との出会いはプラスになるはずだ。
「じゃあ、行ってきます」
『良い土産話を期待してるからな!』
「キュイッキー!」
無意識的ではあったが、メーシャは戦いの中でウロボロスのチカラをもうひとつ更なる高みへと進められたのだった。
それは相手のマナという根源たるエネルギーに作用するもので、ラードロの身体を構成するナノウイルスに対しても特効である。今までもラードロに対し大きなダメージを与えたり、核の宝石を破壊して解放していたので、どうしても本体にもダメージが残っていた。
しかし、このチカラを使いこなすことが出来れば侵食が進んでいても本体を完全救出できるはずだ。
* * * * *
そしてキマイラ戦から2日後。
メーシャは"港町トゥルケーゼ"に向かうため、サンディーの背中に乗って平原を進んでいた。
「ふぃ~、風が気持ちいいね……!」
サンディーは頭を出してうねりながら時速80kmくらいで進み、小腹が減ったら気まぐれに弱いモンスターを丸呑みにするため急な方向転換するので、全くといって快適な旅ではないはずなのだが、メーシャはモンスターに乗っての旅というシチュエーションにテンションが爆アガり。ドーパミンのせいか、全てのマイナス要素もエンジョイできる寛容さを持っていた。
「キュイー!」
──ドッゴーンっ!!
サンディーが目の前に現れた大きな岩に正面突撃で粉砕。身体に付着したカケラを身体ふりふりして落とす。
サンディーはとても楽しそうだった。メーシャも楽しそうだった。
「さ、サンディー!? 落ちますって!」
ヒデヨシは全身を使って背中にしがみつき、サンディーから振り落とされるのをなんとか防ぐ。しかし、もうひとりの同行者はそうもいかなかった。
「あぁあぁああああ──!!?」
灼熱さんは手に持っていた小さなオニギリと共に吹っ飛んでいってしまう。
「灼熱さーん!!! ……ああ、だからサンディーの背中でご飯はやめた方がいいって言ったんです」
ヒデヨシは小さくなっていく灼熱さんから目を逸らして言った。
「もう、しゃーないなー……」
メーシャはオーラを手の形に変えて伸ばし、サッと灼熱さんをキャッチしてサンディーの上に戻す。
「お、おう!? 助かったぜぃ、メーシャのお嬢……! 危うくオニギリと一緒に泥に生き埋めにされるところだった」
灼熱さんは急いでオニギリを食べ切ってサンディーの背中にしがみついた。
灼熱さんは"ハムオブザスター"という炎の扱いが得意なモンスターで、燃えるような赤い毛のロボロフスキーハムスターみたいな姿をしている。
以前ラードロ化させられていた所をメーシャ達に助けられ、ハムオブザスターの誇りを取り返すため一緒にドラゴン=ラードロを倒す事を決めたのだった。
仲間のバトルヌートリアとデスハリネズミがアレッサンドリーテの住民と馴染み生活が落ち着いたところで、灼熱さんは冒険者登録を済ませて研修を行い、今回戦闘の経験や気たる決戦の時に息が合わないなんて事がないように一緒について来ることになった。
「キュ、キィキュキュイ!」
「ほんとだ。潮風の香りがしてきたね!」
「町も見えてきましたよ!」
爽やかな潮の香り、キラキラと光を反射する水、そこに浮かぶ無数の船、そびえ立つ灯台と港、白を基調とした建物の数々、アレッサンドリーテ最大規模の冒険者の要塞、海産物と輸入品の売買を行う商人や町をにぎわせるたくさんの人たち。
ここが"港町トゥルケーゼ"だ。
● ● ●
メーシャたちは町を探索する前にシタデルにおもむいていた。
シタデルは全体が白い石造りで、木と鋼でできた両開きの門をくぐれば広い中庭があり、周囲を堀と壁で囲まれていて、2ヶ所外に続く道には鋼の格子状の上げ下げできるタイプの門が設置されている。
「──じゃあサンディーはここでお留守番お願いね」
「キュ……」
お留守番と聞いてサンディーは落ち込んでしまう。
だがサンディーはまだ地面をえぐらずに道を進む事ができないので、今回シタデルの中庭で預かってもらうことになったのだ。
「ちゃんとタコ見つけて来るから、そんな落ち込まないのっ」
メーシャがサンディーの頭をよしよしとなでてあげる。
「キュ?」
「ほんと。だから、それまでここで地面をえぐらないようにする練習しときな? そしたら一緒に町をまわれるようになるからさ」
この町の道路は身体の大きなモンスターも通れるように大きめに作られているので、サンディーも道さえ壊さなければ窮屈な思いもせずに町の探索を楽しめるようになるのだ。
「……キィ」
「ここ2、3日でずっと上達してきていますし、きっともうすぐですよ」
ヒデヨシもサンディーをはげます。
「サンディー嬢ちゃん、少しでも好物のタコ……? とやらが見つかるよう、あっしも微力ながら頑張らせてもらうぜぃ。だからちぃ~っとばかし、待っててくんな」
灼熱さんも今日が初対面ながらサンディーを気遣う言葉をかける。義理人情にあつい性格なのだろう。
『メーシャ、俺様はサンディーと一緒に待ってるわ』
「そうなの?」
『地面をえぐらないようにする練習に付き合ってやろうと思ってな。ひとりも可哀想だし、その魔法に役にたつ知識を思い出したからちょうど良いと思ってな』
「デウス長生きだし、そういう知識もあるのか。ありがとね」
デウスは最新のこの世界の知識や、ヒトが使うような普通の魔法については少々うとい部分もあるが、イニシエの時代から生きている龍神なので色んな知識が蓄えられているのだ。
「おう。……そうだ、この町にはキマイラの時に言ったたこ焼きっぽい食べ物があるはずだから、タコ探しのついでに探してみると良いぜ』
「分かった、楽しみにしとくし!」
デウスの言い方を考えると、たこ焼きの様ではあるがタコは入っていないか、タコは使われているがまん丸じゃないか、もしくは調味料が違うのか。どうころんでもメーシャにとってこの料理との出会いはプラスになるはずだ。
「じゃあ、行ってきます」
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「キュイッキー!」
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