電脳の妖精〜突然撃ち込まれたミサイルと、二次元美少女からの犯行声明

真木悔人

文字の大きさ
20 / 21
妖精の隠れ家

第20話 『妖精』VS『透明な魔女』

しおりを挟む
 ──『妖精の隠れ家』PM11︰59分。


 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

 リーさんの話の後、俺達は全員が店に残っていた。この時の為に。テーブル席を取り囲む様に、リーさんのノートPCを其々が覗き込む。

 俺達が見つめているのは、ある企業の掲示板ホームページだ。リーさん曰く、この企業のホームページは、『透明な魔女やつ』がいつもに使うサーバーらしい。なるほど……。確かに、普段からしてる、妖精リーさんにしか分からない待合せ場所メッセージだ。

「そろそろだな…」

 誰に言う訳でも無く、オカキンが呟く。

 リーさんの話によると、『透明な魔女やつら』が仕掛けて来るのは日付けが変わる、ちょうど0時。あの書込みがあった時刻らしい。

『わざわざ手間をかけて、ちょうど0時に書込みをしたのには意味がある筈だ』

 とは、リーさんの言葉。確かに、言われてみればあの書込みは異常だ。あそこまで『0』が揃うなんて。まさか、そこにもちゃんと意味メッセージがあったとは……。

「──来るぞ!」

 リーさんの言葉と共に、カウンターの奥、店内の壁に掛けられた時計を見上げる。時計の針は、殆ど重なっている。秒針だけが大きくずれ、ゆっくりと『9』の文字に差し掛かっていた。

 異常に静まり返る店内に、初めて聞く、秒針を刻む音がカチカチと響く。長い……。まるで、時の流れに取り残された様に、一秒が間延びして感じる。

 後、3秒……2……1……

「──来た!」

 やや大き目の声で呟くと同時、リーさんはキーボードを叩いた。内容が更新され、新たな情報が画面モニターに映し出される。


 137:お客様名:透明な魔女
 2020/06/08(月)00:00:00.00
 ID:※※※※※※※※※

 おはよう。
 やじ馬が煩わしいからこっちで待つよ。
 会うのが楽しみだ。ここなら誰も入れない。
 しかも議事録を盗めば奴等の悪事を暴ける。
 やれば社員が救われるオマケ付きさw

 https://www.※※※※※※.com

 妖精よ、騙されちゃいけない。
 この世界は歪んでいる。
 まるで、ピサの斜塔の様にね。
 無理に直そうとすれば崩壊するよ?


「どう言う事……?」

 映し出された書き込みを見て、亜里沙さんが聞く。俺も、その内容を自分なりに整理した。

 俺達に向けたであろうメッセージと、聞いた事も無い企業のホームページらしきURLリンク。言葉通りに受け取るなら、『透明な魔女やつ』はこの企業のサーバーで待つと言う事なのだろう。このURLリンクのホームページは、それだけ素人やじ馬には侵入ハッキングが難しい対策セキュリティが施されていると言う事か。

 どんな方法で、こちらと接触コンタクトするつもりなのか迄はわからない。おそらく、リーさんにならわかるのだろう。

「また……縦読みだね……」

 ボソリと萌くんが呟いた。

 ハッとして、再び画面モニターを覗き込む。一見、何の問題も無さそうな文面。わざわざ、この企業の悪事を暴いた情報は、まるで、俺達をバカにしている様にさえ見える。そして、ホームページらしきURLリンクの下……何か意味がありそうな、『透明な魔女やつ』からの意味深なメッセージ。

 しかし、萌くんが指摘したのは上の文。俺達をバカにした様なメッセージの方だ。前回の書き込みと同じ様に、その文面を縦読みで読み直す。

「お……や……会……しや?」

「──親会社か!」

 同じくして、辿々しく希ちゃんが読み上げ、オカキンがそれを声にした。すぐに気が付いてたのか、リーさんは既に、この企業の親会社を調べている。俺は、その様子を黙って見守った。

「武山製薬……」

 あっと言う間に、親会社の存在を割り出すリーさん。彼が口にしたその名は、俺でも知っている様な大企業。すると、心配そうな表情かおで亜里沙さんが問い掛けた。

「難しいの? 侵入するのハッキング……」

「この国じゃトップクラスの機密保護セキュリティだ……この企業は。だが、俺には問題無い」

 力強く、問題無いと答えるリーさん。やはり、只者では無い。こんな大企業のサーバーに、こうもアッサリと侵入ハッキング出来ると言い切るなんて……。

 すると、リーさんは慌ただしくキーボードを叩き始めた。どうやら、侵入ハッキングを開始したらしい。見た事も無い文字列コード画面モニターに並び、何かを打ち込み始める。


 ◆PASSCODE?
 『1qj5※※※※※※※※※※※』


 幾つもの作業ウィンドウが重なり合い、目まぐるしく文字列コードが流れて行く。凄まじいスピードで上から下へ、現れては消える文字列コードの波。素早く、確実に、一桁ずつ割り出されて行くパスワード。俺達は只、ジッとその作業を見守った。誰一人、口を開く事も出来ない。


 ◆PASSCODE?
 『1qj54wbn_M2yd7※』


 あと、一つ! ここ迄、僅か二分。殆ど時間はかかっていない。そして、ようやくリーさんがその手を止める。

「──よし!」

 小さく、ホッとした様に呟いたリーさん。なんとリーさんは、その咥え煙草の灰が落ち切る間に、全ての作業ハッキングを完了させてしまった。

「凄い……」

 思わず、俺は零した。初めて目の前で見た、リーさんの超技術ハッキング。正直、何をしているのかはサッパリだが、それが只事では無い事くらいはわかる。

「さて、と。何処にいやがる……『透明な魔女インビジブルウィッチ』!」

 作業は少し落ち着いたのか、今度は、慎重な面持ちでキーボードを叩くリーさん。内部サーバー内に侵入を果たし、『透明な魔女やつ』の存在を探している様だ。程無くして、何かを見つけたリーさんが呟いた。

「……このファイルか」

 見つけたのは、『to.the.fairy』と名付けられたテキストファイル。俺でもわかる、『透明な魔女やつ』が残した俺達への贈物メッセージだ。慎重に、そのファイルプロパティを検証するリーさん。意を決し、管理画面コントロールパネル上でポインターを動かし、アイコンに重ねる。開くクリック。その時、突然、画面モニターにポップアップが表示された。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■

     WARNING!!
 
   Your access has been detected 
 ■■■■■■■■■■■■■■■■


 まるで画面モニターを埋め尽くす様な、次々に開く、赤いウインドウ。不安を煽る様な、危険を知らせる、その黒い文字フォント警告WARNING!!。舌打ちし、リーさんが即座に叫んだ。


「──ちぃっ! やられたっ……こいつはトラップだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

処理中です...