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第二章 人間の国
第30話 ヴィヴィアン
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「──ユ、固有能力……」
アスカが呟いた。
そう言えば、アンクは言っていた。この世界の魔法は、使える者がいても殆どが初級魔法か中級魔法。上級魔法やそれに匹敵する様な物は、ほぼ固有能力である場合が多いと。確かに今、目の前で使用された炎の魔法は、明らかに初級の威力では無かった。ならば、固有能力だと考える方が、確かに自然なのかも知れない。
「とりあえず、無事で良かったけど……。まさか、こんな所で混血に出会うとはな……」
或いは、王族。固有能力を持っていると言う事は、王家の血を引いている可能性がある。言われてみれば、襲われていた美女は、確かにどこか気品の様な物を感じさせる。
「ハァ……ハァ……」
肩を揺らすその美女は、まだ少し動揺している。余程、蛇が苦手なのだろう。今の攻撃を見ても、全く持って容赦無い。見るのも嫌、と言う感じだった。一刻も早く、目の前から消えろと言わんばかりに。
「大丈夫ですか?」
間を見計らい、俺は彼女に声をかけた。ようやく俺達の存在に気が付いたのか、彼女はビクリと反応してこちらに振り向く。
「え、ええ……。問題ありませんわ。それより……」
彼女は少し焦り気味で、言い辛そうに口を開いた。
「いつからそこに居ましたの? そ、その……見ました? 今の……」
「炎の魔法の事ですか?」
隠さず、正直に答える。すると、彼女は諦めた様な表情で溜息をついた。
「ハァ……。見られた物は仕方ありませんね。仰る通り、今のは固有能力ですわ。私は、王家に名を連ねる者ですので」
やはりか。
まあ、混血者にしては身なりもいいし、それ以外で固有持ちは考えられない。本人も、その辺りは十分理解している様だ。
「私は、オルキア王国の第三王女、ヴィヴィアン。でも、今はその身分を隠していますの。貴方達、今見た事は忘れて貰えるかしら?」
そう、少し上から目線で話す彼女、ヴィヴィアン。
「で、そのお姫様が、何で護衛も付けずにこんな所へ? しかも、身分を隠してまで…」
素朴な疑問。幾ら俺がこの世界の常識に疎いとは言え、普通に考えれば有り得ない状況だ。
「何の刺激も無いお城に居たら、退屈で気が滅入ってしまうもの。それに……」
おいおい。
どうやら、このお姫様はとんでも無いお転婆らしい。見た目は清楚系その物なのに……。そんな彼女は、更に続けた。
「お城では、私が固有持ちだと言う事は隠していますの。もしバレたら、一族の固有持ちと結婚させられてしまいますので。好きでも無い男と一緒になるなんて、真平御免ですわ」
そう言いながら、ヴィヴィアンは仕立ての良いワンピースから肩口を覗かせた。そして、星形の痣をシールの様に剥がして見せる。
「……偽物?」
脇にいたアスカが、そう呟いた。その言葉に、ヴィヴィアンが答える。
「そう。星型の痣は、偽装ですわ。混血者の血が薄い私達王家の人間は、15歳になるまで純血か混血交じり持ちかわかりませんの。それまで、どちらも発現しませんからね。そして、15歳の誕生日に、突然痣は現れますの。体のどこかにね」
そう言って、今度はスカートを捲り上げるヴィヴィアン。ドキリとして少し動揺する俺を他所に、ヴィヴィアンは太股を曝け出した。チラリと目を向けた視線の先に、俺やアスカとは違う意匠の紋様が視界に入る。俺達がそれを見た事を確認すると、ヴィヴィアンは悪戯っぽく笑って告げた。
「──だから、私は固有能力が発現した事を隠しましたの。王家を飛び出して冒険者になる為にね」
アスカが呟いた。
そう言えば、アンクは言っていた。この世界の魔法は、使える者がいても殆どが初級魔法か中級魔法。上級魔法やそれに匹敵する様な物は、ほぼ固有能力である場合が多いと。確かに今、目の前で使用された炎の魔法は、明らかに初級の威力では無かった。ならば、固有能力だと考える方が、確かに自然なのかも知れない。
「とりあえず、無事で良かったけど……。まさか、こんな所で混血に出会うとはな……」
或いは、王族。固有能力を持っていると言う事は、王家の血を引いている可能性がある。言われてみれば、襲われていた美女は、確かにどこか気品の様な物を感じさせる。
「ハァ……ハァ……」
肩を揺らすその美女は、まだ少し動揺している。余程、蛇が苦手なのだろう。今の攻撃を見ても、全く持って容赦無い。見るのも嫌、と言う感じだった。一刻も早く、目の前から消えろと言わんばかりに。
「大丈夫ですか?」
間を見計らい、俺は彼女に声をかけた。ようやく俺達の存在に気が付いたのか、彼女はビクリと反応してこちらに振り向く。
「え、ええ……。問題ありませんわ。それより……」
彼女は少し焦り気味で、言い辛そうに口を開いた。
「いつからそこに居ましたの? そ、その……見ました? 今の……」
「炎の魔法の事ですか?」
隠さず、正直に答える。すると、彼女は諦めた様な表情で溜息をついた。
「ハァ……。見られた物は仕方ありませんね。仰る通り、今のは固有能力ですわ。私は、王家に名を連ねる者ですので」
やはりか。
まあ、混血者にしては身なりもいいし、それ以外で固有持ちは考えられない。本人も、その辺りは十分理解している様だ。
「私は、オルキア王国の第三王女、ヴィヴィアン。でも、今はその身分を隠していますの。貴方達、今見た事は忘れて貰えるかしら?」
そう、少し上から目線で話す彼女、ヴィヴィアン。
「で、そのお姫様が、何で護衛も付けずにこんな所へ? しかも、身分を隠してまで…」
素朴な疑問。幾ら俺がこの世界の常識に疎いとは言え、普通に考えれば有り得ない状況だ。
「何の刺激も無いお城に居たら、退屈で気が滅入ってしまうもの。それに……」
おいおい。
どうやら、このお姫様はとんでも無いお転婆らしい。見た目は清楚系その物なのに……。そんな彼女は、更に続けた。
「お城では、私が固有持ちだと言う事は隠していますの。もしバレたら、一族の固有持ちと結婚させられてしまいますので。好きでも無い男と一緒になるなんて、真平御免ですわ」
そう言いながら、ヴィヴィアンは仕立ての良いワンピースから肩口を覗かせた。そして、星形の痣をシールの様に剥がして見せる。
「……偽物?」
脇にいたアスカが、そう呟いた。その言葉に、ヴィヴィアンが答える。
「そう。星型の痣は、偽装ですわ。混血者の血が薄い私達王家の人間は、15歳になるまで純血か混血交じり持ちかわかりませんの。それまで、どちらも発現しませんからね。そして、15歳の誕生日に、突然痣は現れますの。体のどこかにね」
そう言って、今度はスカートを捲り上げるヴィヴィアン。ドキリとして少し動揺する俺を他所に、ヴィヴィアンは太股を曝け出した。チラリと目を向けた視線の先に、俺やアスカとは違う意匠の紋様が視界に入る。俺達がそれを見た事を確認すると、ヴィヴィアンは悪戯っぽく笑って告げた。
「──だから、私は固有能力が発現した事を隠しましたの。王家を飛び出して冒険者になる為にね」
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