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第二章 人間の国
第32話 ビビの思惑
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「──どこまで付いて来る気なんだろうな……?」
「……」
俺の何気ない問い掛けに、アスカは無言で答えた。
ギルドの報酬で金に余裕が出来た俺達は、アリスに紹介して貰った武器屋でアスカの装備を整えた。装備と言っても、買ったのは、特に魔法への耐性があると言うアスカの青いローブと、同じく魔力を増強する効果があるらしい短杖だけなのだが。
武器屋の目利きによると、俺の黒いコートはかなり優れた品らしい。物理も魔法も、攻撃に対する耐久性はピカ一との事だ。あの神、たまには良い物をよこすじゃないか。
で、今はその帰り道なのだが……。
俺は、チラリと後を振り返った。慌てて、建物の物陰に隠れる人影が、一つ。
バレバレなんだが……。
どう見ても、ヴィヴィアンだ。しかも酷いのは、顔だけをそっと覗かせてこちらの様子を伺う、その姿すらも丸見えだと言う事。
「はぁ……。何なんだ、一体……」
どうやら、あれでも彼女は、真剣に俺達を尾行しているつもりらしい。何の用があって、そんな事をしているのか迄はわからないが。
とりあえず彼女の事は無視する事にして、俺達は宿に戻った。部屋で少し寛いでから、一階の食堂で食事を摂る。その為に一階に降りた、その時だった。
「あら。貴方達もこの宿に泊まってらしたの? 偶然ね。私もここの宿を使ってますのよ」
明らかに待ち構えていたらしき様子の、ヴィヴィアン。オホホホとわざとらしい笑いを浮かべながら、計画通りとばかりに近付いて来る。殆ど空になった、飲みかけの珈琲が痛々しい。
「お前、何やってんだ? こんな所で……。仲間の件なら、既に断った筈なんだが……」
バレバレなんだが、敢えてそこは突っ込まない。俺なりの優しさだ。しかし、ヴィヴィアンはあくまでバレていないと思っているのか、更にわざとらしい言葉を吐き始めた。
「ちょ、ちょうどこれから食事でも頂こうかと思って、降りて来ました所ですのよ。た、たった今!」
その珈琲は何なんだ。そう言いそうになるのをグッと堪え、俺は答えた。
「……そうか。それは奇妙な偶然もあった物だな」
我ながら、白々しい。そんなやり取りをしていると、いつの間にか先にテーブルに付いているアスカが声をかけて来た。
「とりあえず、座ったら?」
言葉少なく、俺達に席へ付けと促して来る。よく見ると、テーブルにはエールが三つ置いてあった。まさか、ヴィヴィアンも一緒に、と言う事だろうか? てっきりまた、あの凄まじい殺気を発する物だとばかり思っていたのだが……意外だ。もしかしすると、アスカは俺が思っていたよりも、よっぽど大人なのかも知れない。
そんな事を考えながら、とりあえず俺とヴィヴィアンもテーブルに付く。すると、早速ヴィヴィアンが話し始めた。
「お気遣い、感謝致しますわ。ただ……ごめんなさい。私、お酒は果実酒しか飲みませんの」
そう言って、アスカが用意したエールを遠回しに遠慮する。すると、その様子を見ていた隣の酔っ払いが俺達に絡んで来た。
「何だよ、姉ちゃん! エールは要らないのかい? だったら俺が……」
そう言って、勝手にビビの前に置かれたジョッキを手に取り、美味そうに煽り始める。そして、次の瞬間。
「ぐはあぁっ!!」
突然、飲んだばかりのエールを吐き出して苦しみ始める、酔っ払いの男。同時に、傍らにいたアスカが舌打ちした。
「……ちっ!」
暫く、呆然とその様子を眺めるヴィヴィアン。そして……
「あ、貴女……。一体、何を飲ませようと致しましたの……?」
自分に薦められたエールを飲んでのたうち回る男を見て、驚きと恐怖に青褪めるヴィヴィアン。その表情は、明らかに引きつっている。
──俺は、考えを改めた。どうやら、アスカが割と大人かも知れないと言う憶測は、完全に俺の勘違いだったらしい。
「……」
俺の何気ない問い掛けに、アスカは無言で答えた。
ギルドの報酬で金に余裕が出来た俺達は、アリスに紹介して貰った武器屋でアスカの装備を整えた。装備と言っても、買ったのは、特に魔法への耐性があると言うアスカの青いローブと、同じく魔力を増強する効果があるらしい短杖だけなのだが。
武器屋の目利きによると、俺の黒いコートはかなり優れた品らしい。物理も魔法も、攻撃に対する耐久性はピカ一との事だ。あの神、たまには良い物をよこすじゃないか。
で、今はその帰り道なのだが……。
俺は、チラリと後を振り返った。慌てて、建物の物陰に隠れる人影が、一つ。
バレバレなんだが……。
どう見ても、ヴィヴィアンだ。しかも酷いのは、顔だけをそっと覗かせてこちらの様子を伺う、その姿すらも丸見えだと言う事。
「はぁ……。何なんだ、一体……」
どうやら、あれでも彼女は、真剣に俺達を尾行しているつもりらしい。何の用があって、そんな事をしているのか迄はわからないが。
とりあえず彼女の事は無視する事にして、俺達は宿に戻った。部屋で少し寛いでから、一階の食堂で食事を摂る。その為に一階に降りた、その時だった。
「あら。貴方達もこの宿に泊まってらしたの? 偶然ね。私もここの宿を使ってますのよ」
明らかに待ち構えていたらしき様子の、ヴィヴィアン。オホホホとわざとらしい笑いを浮かべながら、計画通りとばかりに近付いて来る。殆ど空になった、飲みかけの珈琲が痛々しい。
「お前、何やってんだ? こんな所で……。仲間の件なら、既に断った筈なんだが……」
バレバレなんだが、敢えてそこは突っ込まない。俺なりの優しさだ。しかし、ヴィヴィアンはあくまでバレていないと思っているのか、更にわざとらしい言葉を吐き始めた。
「ちょ、ちょうどこれから食事でも頂こうかと思って、降りて来ました所ですのよ。た、たった今!」
その珈琲は何なんだ。そう言いそうになるのをグッと堪え、俺は答えた。
「……そうか。それは奇妙な偶然もあった物だな」
我ながら、白々しい。そんなやり取りをしていると、いつの間にか先にテーブルに付いているアスカが声をかけて来た。
「とりあえず、座ったら?」
言葉少なく、俺達に席へ付けと促して来る。よく見ると、テーブルにはエールが三つ置いてあった。まさか、ヴィヴィアンも一緒に、と言う事だろうか? てっきりまた、あの凄まじい殺気を発する物だとばかり思っていたのだが……意外だ。もしかしすると、アスカは俺が思っていたよりも、よっぽど大人なのかも知れない。
そんな事を考えながら、とりあえず俺とヴィヴィアンもテーブルに付く。すると、早速ヴィヴィアンが話し始めた。
「お気遣い、感謝致しますわ。ただ……ごめんなさい。私、お酒は果実酒しか飲みませんの」
そう言って、アスカが用意したエールを遠回しに遠慮する。すると、その様子を見ていた隣の酔っ払いが俺達に絡んで来た。
「何だよ、姉ちゃん! エールは要らないのかい? だったら俺が……」
そう言って、勝手にビビの前に置かれたジョッキを手に取り、美味そうに煽り始める。そして、次の瞬間。
「ぐはあぁっ!!」
突然、飲んだばかりのエールを吐き出して苦しみ始める、酔っ払いの男。同時に、傍らにいたアスカが舌打ちした。
「……ちっ!」
暫く、呆然とその様子を眺めるヴィヴィアン。そして……
「あ、貴女……。一体、何を飲ませようと致しましたの……?」
自分に薦められたエールを飲んでのたうち回る男を見て、驚きと恐怖に青褪めるヴィヴィアン。その表情は、明らかに引きつっている。
──俺は、考えを改めた。どうやら、アスカが割と大人かも知れないと言う憶測は、完全に俺の勘違いだったらしい。
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