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第二章 人間の国

第42話 撤退

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「──い、いつの間に……」


 左手で喉元を抑え、右手にベットリと付いた自らの血を眺めて驚くゴーザ。俺は、そんなゴーザに向かって警告した。

「次は、本気でやりましょうか? それがどういう事か、王国の騎士さんならおわかりになるとは思いますが……」

 抜いたままの短剣をチラつかせ、遠回しに『次はる』とそう告げる。あくまでも当然の様な顔をして話す俺に、周囲の部下達が騒ぎ始めた。

「う、うわああああっ!!」

「こ、殺されるっ!!」

 これが王国の騎士団かと情けなくなるくらい、取り乱すゴーザの部下達。俺は、そんな彼等を他所に、ゴーザに向かって駄目押しする。

「さあ、そろそろ本番を始めましょうか。今度は、手加減しません。スミスさんに実力ちからを見せる必要もありますし、何より、さっきのビビ達俺の連れに対する下衆な発言……許す気はありませんので」

 本気で殺るつもり等は毛頭無いが、イラッとしたのは本当だ。俺は、如何にも本気だと言わんばかりに、それらしく殺気を込めて構えた。

「ぐっ……き、貴様……覚えてろよ!」

 完全に俺の殺気に気圧されて、ゴーザは絞り出すように捨て台詞を吐く。そして、混乱している部下達に向かって怒鳴り付けた。

「おらっ! お前等、行くぞ! 撤退だ!」

 再び、逃げる様にして工房を出て行くゴーザ達。そんな彼等に向かい、スミスが叫ぶ。

「王国の面汚しが! 二度と来るんじゃねえ!」

 スミスの罵声に一瞬、顔をしかめつつも、黙って立ち去って行く王国の騎士達。彼等が居なくなった事を確かめて、俺はスミスに向かって話しかけた。

「スミスさん、約束です。魔法剣、打って頂けますよね?」

 交渉事の鉄則。こちらが優位にある時は、絶対に退かないで畳み掛ける。鉄は熱いうちに打て、だ。スミスもそんな事はわかっているのか、意外にあっさりとそれを引き受けた。

「ああ……約束は約束だからな。坊主、お前の持ってきた、間違い無く儂が仕上げてやる。只、その前に一つ聞かせろ。お前……もしかして混血者なのか?」

 俺の持ち込んだ羊皮紙をヒラヒラさせながら、スミスはそう問い掛けて来た。恐らく、固有能力ユニークスキルの存在に気が付いたのだろう。

 俺は、敢えて正直に話す事にした。これから、更に世話になるかも知れない相手だ。それが礼儀だと思ったし、全て本当の事を話しておいた方が、何かと都合が良い様な気もする。それに、俺は元々この世界の人間では無い。その為か、そこまで混血である事を、隠そうと言う意識自体が低かった。


「──ええ。仰る通り、俺は混血者です。ついでに、そこの二人も俺と同じ混血ですよ」

 ビビとアスカの方に目をやり、俺はスミスにそう告げる。すると、俺の言葉を聞いた彼の片眉がピクリと反応した。
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