憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

第一章 転生編

第14話 空想の能力

「う……」


　俺が薄く目を開くと、頬に冷たい土の感触と、横向きになった世界が視界に飛び込んできた。どうやら今、俺は地面に横たわっている状態らしい。俺はゆっくり上半身を起こすと、まず自分の体を確かめた。


　──うん。体の変成は完了しているみたいだ。


　俺はゆっくり立ち上がり、側にある青い石を拾い胸元のペンダントに嵌はめ込んだ。雪の大切にしていた物だから、しっかり回収しておかないと。

　とりあえず、大きく背伸びをしてから右、左と順に肩を回し、コキコキと軽く首を鳴らす。そして、二、三回屈伸をしてから、ゆっくりと辺りを見渡した。

　町の外れかと思われる、路地の一角。

　袋小路で人通りはない。

　雪を襲おうとした破落戸ごろつき達が、腰を抜かしたまま、遠巻きに俺を取り囲む様にして座り込んでいる。どいつも皆、信じられない物を見ているような目で俺を見つめ、俺が少し体を動かす度にビクリと反応し、その目に怯えの色を浮かばせていた。

　無理もない。

　自分達が襲おうとした少女が服毒自殺を図ったかと思ったら、一瞬で男になって生まれ変わったのだから。

　ファラシエルが言うには、俺や雪がいた空想世界は、現実と時間の流れ方が違うらしい。空想空間は意識してこちらの世界と同調しない限り、圧倒的に時間の流れが早いそうだ。

　つまり、俺達が空想世界で過ごした時間は、現実世界にしてみれば、正に一瞬の出来事という訳。まんま、某アニメのあの白い部屋だ。

　まあ、どうせ今から死ぬんだ。こいつらが何を見たところで、対して問題にはならないだろう。能力ちからの試運転にはちょうどいい。

（ようやく、こいつらをぶっ殺せるよ）

　俺は、意識の中で雪に話しかけた。

『私を襲おうとしていた人達ですね』

（そうだ。あの時から、俺はこいつ等をぶち殺すと決めていた）

『私の為に怒って下さるのは、何だかとても嬉しいのですが……相手は五人です。出来るだけ、無茶は控えて下さい』


　──ああ、雪は知らないんだったな。


（心配いらん。どうやら、俺は普通ではないらしいんだ）

　俺は、ゆっくりと破落戸のひとりに向かって歩き始めた。

「な、なんだお前！　さっきの女はどうした！」

　男は後退りながら、懐からナイフを取り出した。

「くっ、来るなっ！　ぶっ殺すぞ！」

　びびりまくっている癖に、何言ってんだか。

「とりあえず、お前らは皆殺しだ。雪に手を出そうとした事を……後悔しながら死ね」

　俺は、一瞬で男との間合いを詰めると、軽く顔面をぶん殴った。たいして力は入れてないのだが……。男の頭は内部から爆発した様に破裂して、首から上が吹き飛んだ。

『…………』


　──こりゃ、酷い。


　自分のチートっ振りに、思わず頬が引き吊った。雪も若干引いている。

「うわああああああああ！」

「バ……バケモンだぁぁぁ！！」

「ひっ！　ひいいいっ！！」

「た……助け……」

　俺は、更に残りの四人を纏めて、袋小路の壁際に放り投げた。

　俺としては、適当にひとりづつ放り投げただけなんだが、こいつらには瞬間移動でもした様に、一瞬で動いた様に見えるんだろう。何せ俺の能力は、戦闘中に集中すると、俺だけ空想空間の時間軸で行動できると言う反則技。

　はっきり言って、無敵だ。

「さて……分かっちゃいたが、お前らじゃ実験にもならん。もう死ね」

　俺は、手前の二人を蹴飛ばした。
　
　男達の上半身が吹き飛ぶ。

「わっ、悪かったっ！　もう、あの異人には手を出さねぇ！　助けてくれっ！」

「かっ、金なら払うっ！　足りなきゃ──」


「五月蝿うるさい」

　踏みつけたら、頭がペシャンコになった。


「お前が雪の事を口にするな」

　腹を蹴り上げたら、胴体が爆発した。


『…………』


（…………）


　俺は、とりあえず無言で破落戸共から金目の物を奪い、ゆっくりと大通りに向かって歩き始めた。


『真人さん……容赦ないですね……』

（雪に手を出した、あいつらが悪い）


　俺は何となく、自分のチートっ振りから話を逸らした。そして、それなりの金を手にした俺は、ホクホク顔で町へと繰り出す。


　とりあえず、色々と準備を整えよう……





  ──────────

　因みに、俺に発現した能力ちからは、今、把握している範囲だとこんな感じだ。


【加速空間アクセルルーム】
　空想空間の時間軸で行動、思考出来る。時間軸は調整可能。
【過重力世界エクセスグラビティ】
　圧倒的な過負荷、圧力に耐えられる驚異的な身体能力と強靭な肉体（攻撃力と防御力）。


　絶対、あれが影響してるよな……これ。あの、戦闘民族の某アニメが。二つ目なんかモロだし。

　それとも他に、何か発現した理由でもあるんだろうか……俺の無意識の中に。まあ、発現した理由は分からないが、今、自分で理解出来る能力はこんな感じだ。


　──他にも、何か出来そうな気はする。この能力、まだまだ奥が深そうだ。