博多に移住して人生をやり直す

耶麻寿

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第二章 1年生 1学期

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エイジア製菓学校の1年生にとって、最初の関門が7月後半に行われる実技テストだ。
この結果によって、選択科目の枠が埋まっていく。
自分が製パンを選択したくても、テストの点数次第では製菓コースしか選べない。
学生によっては来季の奨学金にも響くので、皆がピリピリし始めている。

「絵美里さん、バターロールを教えますから、後でハンドドリップを教えてくれませんか?」
貴大が絵美里を誘っている。なかなか賢いやり方だ。
仕事が出来る男は、女にモテる。

「良いけど」
絵美里もまんざらではない様子で、別の作業台に移って2人でパン作りを始めていた。

「何か良い感じですね」
2人を見ながら花蓮が呟く。

「俺もぼちぼち製菓の練習を始める」

「誰とですか?」

「健太と涼介っていう男たちだ。明るくて、いい奴なんだ」
製パンの課題はバターロールだから、生地を切り分けて50gに揃えていく。
伸ばして巻いたら、もう一度ホイロに入れて再発酵。
その間に、ハンドドリップをする花蓮の様子を見ていた。
俺が教える必要が無いほどの出来で、コーヒーが仕上がる。

「美味い、合格間違いなしだ」

「合格は当然です、カフェ専科に負けない点数をたたき出すつもりですから」
来季も奨学生を目指している花蓮は、他の連中とは目指すところが違っていた。
みんなで焼き上がったパンを試食する。

「貴大、真面目にパンと取り組んでるんだな」

「当然ですよ、卒業までには花蓮を抜いて学長賞は俺のものです」

「あんたなんかに負けるわけがないでしょ」
俺たちのやりとりを見ていた絵美里の表情が優しい。
貴大に悪い印象は持っていないようだ。

翌日から、製菓実習室の自習に参加する。
製菓学科は男子約50人に女子約100人の大所帯だから、目立つ男子は注目される。
サッカー部だった健太とバスケ部だった涼介は、女子たちから狙われているようだ。

「俺が女子だったら、嫉妬の嵐だな」

「正直、彼奴等あいつらにはうんざりです」
二人共、普段から女子の圧を感じているようだ。

製菓の課題は、タルトレット生地だ。
福岡は苺のあまおう、葡萄の巨峰やピオーネ、無花果いちじくのとよみつひめなどフルーツの一大産地だから、タルトレット生地は大事なテーマになる。
材料の計量に始まり、成形、温度管理、発酵、焼成と挙げればきりがないほど、製菓、製パン、カフェ、全ての作業に物理・化学を感じている。
その効率性と正確性を追い求めて、作業を進めていく。

生地が焼き上がるまで、俺が買ってきた巨峰と無花果を健太と涼介が飾り切りをしている。
二人共、テクニックが凄い。そりゃあ、女子も惚れるわ。
焼き上がった生地を確認したら、フルーツタルトに仕上げていく。
自分の作った生地にクリームの下地を塗り、フルーツを盛り付ける。
俺的には満足な出来上がり、コーヒーを淹れて試食をするのが至福の時間だ。

「香山さん、もう十分合格レベルです。
後は回数を重ねて、試験のプレッシャーに勝つだけですね」

健太のお墨付きをもらい、後は自主練をするだけだ。

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