大嫌いな幼馴染みはどうやら私のことが好きらしい

Adria

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昨日のお礼③

「んっ、ぁ……」

 自らしたキスを合図に隆文の腕の中に閉じ込められ、強引に唇を貪られる。煽ったのは自分だが、その性急さと部屋を包む何ともいえない雰囲気に負けてしまいそうだった。

「んぅっ!?」

(し、舌が……)

 侑奈が強く目を瞑ったとき口の中に彼の舌が入ってきて、その熱さに目を見開く。

 初めてするキスに戸惑いつつも、隆文に舌を強く吸い上げられると、思考に靄がかかってうまく頭が働かなかった。酸欠だからだろうか。

「んぅ……ちょ、ちょっと……待っ……ぁ」 
「待てない。俺の言うこと聞かないで、このキスをはじめたのは侑奈だろ。今さら止まれるかよ」

 喉の奥で軽快に笑う隆文に胸の鼓動が加速する。その胸中を悟られたくなくて、侑奈は目を伏せて視線を外した。彼はそんな侑奈の頬を撫でて、またキスをしてくる。くちゅくちゅと舌を絡めて吸いながら、彼の手が侑奈のお尻を撫でた。

「んっ、待っ……お尻、触らなっ……あっ」

 感触を楽しむように動く隆文の手に体がビクッと震えて、慌てて彼の胸を叩く。手の動きは止まったが、かわりに自分を見る彼の瞳に息を呑む羽目になった。

(た、隆文の目……ちょっと怖いかも……)

 まるで獲物を前にした肉食獣のような瞳に少し怖気づいてしまう。隆文の服を縋るように掴むと、彼は纏めている侑奈の黒髪を解いて丁寧に指を通すと、ぎゅっと抱き締めてきた。


「侑奈……」

 別に初めて呼ばれたわけでもないのに、耳元で囁かれるとゾクゾクした。恥ずかしくて目を逸らすと、隆文がクスッと笑う。

「やっぱり不快だったか?」
「え……」

 恥じらいを嫌だと勘違いした隆文に驚いてしまい、言葉を詰まらせる。すると、隆文が侑奈から体を離そうとした。

「ち、違うんです。私、キス……はじめてだから……上手に息ができなくて……。それに舌が入ってくるのにも、少しびっくりしちゃって。だ、だから……嫌とかじゃなくて」

 自分でも、らしくないと思えるくらい、弁解する声が上擦っていた。自分から言い出したのに上手にできないせいで彼を傷つけたかと思うと、顔を上げられない。

(そもそも初めてなのに……キスで相性を確認しようだなんて大それたこと……私ったら)

「へ? はじめて?」

 必死になって弁解しているというのに、当の本人は間の抜けた声を出してくる。その声に侑奈が顔を上げると、隆文は声以上に間抜けな表情をしていた。

(何、その顔……)

「嘘だろ。お前まさか、しょ……っ」
「だって勉強で忙しくて、恋愛どころじゃなかったんです。それに、意地悪な誰かさんのせいで男の子が苦手だったし……」

 分かりやすく動揺している隆文を睨みつけ、彼の言葉を遮る。そして、さらにきつい眼差しを向けると、隆文の表情がみるみるうちに明るくなっていった。

「嘘だろ。ずっと俺だけを気にして、処女でいてくれたって言うのか?」
「べ、別に、隆文のために誰とも付き合わなかったわけじゃありません。ただ、機会がなかっただけで……」
「やっぱり侑奈を泣かせるのは俺の専売特許だな」
「は?」

 すごく嬉しそうにこぼした彼の独り言にくわっと目を剥く。聞き捨てならない。ふざけるなと言おうとした途端、彼が侑奈を抱き上げた。

「きゃっ」

 突然の浮遊感に驚いて隆文にしがみつくと、彼は侑奈を抱いたままベッドへ移動した。このまま押し倒されると思って強く目を瞑ると、ペロリと唇を舐められる。

(あ、あれ?)

 拍子抜けしたような顔で隆文を見つめると、彼がフッと笑う。そして侑奈を膝に座らせ、額や瞼、頬にキスを落としてきた。

「ちょっと、くすぐったいです……」
「俺たち付き合おうか」
「は……い?」

 急な提案に目が点になる。侑奈が固まっていると、また唇が重ねられて何度も啄むようなキスをしてきた。

「そもそも試すならまずそこからだろ。初心者が体からスタートさせるなよ」
「んっ……っふ、ぁ」

 返事をしようとしたのに唇の隙間からまた舌が入ってきて、口の中をぐるりと舐め回された。歯や歯の裏を舐められ、上顎を舌の先でなぞるように舐められると息が上がってしまう。

(どうしよう……隆文とのキス気持ちいい……)

「ん……ふぁっ、あ、んぅ」

 舌のつけ根からツーっと舐められ搦めとられて、体が震える。

 隆文とキスをしていると、頭がうまく働いてくれない気がする。侑奈が彼の服を弱々しく掴むと、唇をひと舐めして緩慢な動きで離れていった。

「今は婚約とか結婚とか考えなくていいから、まず付き合ってみようか? それに付き合ってるなら、侑奈がキスしようって言ってきても叱らなくていいわけだし」
「ひゃっ……」

 解放されてハァハァと荒い息を繰り返す侑奈の背中を優しくさすってきたかと思うと、次は耳たぶにキスされた。鼓膜に響くリップ音と、隆文の唇の感触に、カァッと体温が上がる。

「こうして触れ合ったり、デートしたり、恋人として過ごしてみたほうが、結婚後のイメージもつきやすいだろ?」
「や……それ、いやぁっ」
「へぇ、侑奈。耳弱いんだ?」

 彼は楽しそうに笑いながら、舌で耳の縁をなぞり、耳の中に差し込んできた。彼の吐息と耳の中に響く水音に頭がおかしくなりそうだ。

(話すのか……キスするのか、どっちかにして……)

「やだっ……耳にキスしないでっ……」

 彼から逃げようと捥がいた途端、耳たぶを甘噛みされて体が分かりやすく跳ねる。くつくつと笑う彼の膝の上から息も絶え絶えにおりた。


「馬鹿。意地悪……やっぱり嫌い」
「へぇ。侑奈は相性を試すためなら嫌いな男ともキスできるんだ?」
「は? そんなわけ……」
「なら、俺のこと嫌いじゃないよな?」
「……っ!」

 侑奈がついた悪態に挑発的に笑う隆文に、二の句が継げない。彼は楽しそうに笑いながら、侑奈の首筋に吸いついてきた。

「えっ、何? 待っ……ああっ」

 逃げようとする侑奈の体を巧みに押さえつけ、ベッドに沈める。その状況が信じられなくて顔を真っ赤にさせて目を大きく見開いた。


「やだ、待って……隆文くん、ごめんなさい」
「隆文」
「隆文……わ、私、はじめてなのに、相性とか言って調子乗ってましたよね? あ、謝るから、もう……」

 うつ伏せに寝ころばされ、その上に彼がのしかかっている。起きる未来が予測されて、血の気が引いていった。隆文は慌てる侑奈を楽しげに見つめながら、指で侑奈の背中を触ってくる。

「今さら中断なんてできるわけねぇだろ。だから、無理するなって言ってやったのに」
「ひゃあ……ご、ごめんなさっ……」
「謝ってないで、俺と付き合えるか考えてくれればいいから」

 ニコリと笑って背中に口づけ舌を這わせる隆文に、侑奈はもう泣きそうだった。涙をいっぱい溜めて彼に助けを求める。

 だがそれは逆効果だったようで、侑奈の泣き顔を見た途端、隆文の表情がかつてのいじめっ子の顔に変わった。


「可愛い。やっぱり侑奈は泣き顔が最高だよな。もっとその顔見せろよ」
「ひぇっ……」

(なんで? どうして?)

 侑奈が混乱している間にも、着ていたパジャマとキャミソールが脱がされ下着姿にされてしまう。ジタバタと暴れると、彼がキスするのに邪魔だと言ってブラのホックを外したので、慌ててブラが落ちないように片手で押さえた。そのせいで、まともな抵抗ができない。

(こ、これのどこがキス!?)

 背中に這う彼の舌の熱さに体が震える。侑奈が自分の浅はかさを呪っていると、隆文が侑奈の腰まわりを撫でながら笑った。

「もうやだ。どうして、こんな……。い、今の隆文は嫌です」

 いつもの優しい隆文に戻ってほしくて、縋るような目で彼のほうを向くと、楽しそうに笑っている彼と目が合う。その眼差しに心臓が跳ねてバッと視線を外した。


「侑奈。付き合うかどうか早く答えてくれないと、待ちくたびれすぎてもっと際どいところにまでキスしたくなるぞ。それでもいいなら答えなくてもいいが……」
「え……だ、駄目っ」

 侑奈が首を横に振ると、隆文が「じゃあ早く」と急かしてくる。首裏から背中、腰へとなぞるように滑る彼の舌に、半ばやけくそに叫んだ。

「分かった。付き合う! 付き合うからぁっ」

 その言葉と共に、隆文の舌の動きが止まる。
 はぁはぁと肩で息をしながら、侑奈がぐったりと体をベッドに沈めると、隆文が満足げに笑った。その表情に肌が粟立つ。

(あ、あれ? 付き合うってことは……それ以上のことも許すってことにならない?)
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