大嫌いな幼馴染みはどうやら私のことが好きらしい

Adria

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玲子との面談

(うう、あんなところで立ち話をしていないで使用人棟の事務所で話しておけば良かった……!)

 そうしたら玲子に聞かれなかったのにと肩を落としながら、侑奈は玲子と一緒に彼女の部屋へ向かった。

(そういえば……週末に隆文のマンションに泊まったことがバレたら、どうなるのかしら)

 もしかすると侑奈と隆文を置き去りにして瞬く間に話が進むかもしれない。そこまで考えて背筋が寒くなった。そのとき玲子が手招きしたので、侑奈は向かい合う形でソファーに腰掛ける。


「あの……仕事中に雑談していてすみませんでした」
「そんなことは別にいいのよ。それよりおめでとう。隆文とお付き合いすることになったんでしょう? そのうえお泊まりだなんて、最近の子は進むのが早いわね。あまりにも嬉しかったから話を聞きたくて、仕事を切り上げて帰ってきちゃった」

(バ、バレてる……!?)

 息継ぎも忘れてすごく嬉しそうに話し出す玲子に、侑奈は慄いた。

「た、隆文から聞いたんですか?」
「いいえ、悠斗くんに教えてもらったの」
「え……」

 予想もしていなかった名前が上がって、侑奈は目をぱちくりさせた。だが、次の瞬間には得心がいって大仰な溜息をつく。

 隆文のことだ。大方、嬉しすぎて黙っていられず親友である兄に報告したのだろう。

(ばかふみ……)

 もう兄に何も話すなと隆文に釘を刺して置かねばと、侑奈は心の中で舌打ちをした。


「……玲子さん。私たちは、私たちのペースで進むので、もう少し見守っていてくださいませんか? 今は婚約とか結婚とか考えずに、まずは付き合ってみたいんです」
「あら、そうなの? でも婚約くらいはしておいたほうがいいと思うわよ。そのほうが何かと便利だし」
「え……便利?」

 侑奈が目を瞬かせると、補足するように玲子が言葉を続けた。

「これは私たちの勝手な都合なんだけど、侑奈ちゃんがうちの会社で働くにあたっても、両家の事業についても、隆文の婚約者という立場のほうが助かるのよ」
「事業って……私たちやっぱり政略結婚なんですか?」
「いいえ。婚約してくれるなら結びつけやすいってだけで、貴方たちがどうこうならなくても、うちと花秋家はこれからも仲良くやっていくつもりよ」

(そっか……そうよね。良かった……)

 隆文同様――政略結婚ではないときっぱり言い切ってくれた玲子に、ホッと息をつく。

「それに付き合っているなら、今後は隆文のパートナーとしてパーティーに出てもらうことになるし、やっぱり婚約者のほうがいいわよ。言っておくけど、私の孫はものすごくモテるのよ。婚約者として睨みを利かせたほうがいいんじゃなくて?」
「え……」

 挑発的に笑った玲子に、心臓がドキリと跳ねる。
 だが、彼女の言うとおり確かに隆文はかっこいい。容姿端麗な上に、めちゃくちゃ気がきくし優しくもなった。そのうえ家柄もいいときている。

(そうだよね……今の隆文、紳士だしすごく素敵だし、そりゃモテるよね)


「えっと……」

 侑奈が躊躇いがちに玲子を見ると彼女が、侑奈の手をそっと握った。そして柔らかく微笑みかけてくれる。

「お願い、侑奈ちゃん。私たちには待っている時間がないの。私や多喜子が生きているうちに貴方たちの結婚式を見せてちょうだい」
「は? やめてください! 縁起でもない! 長生きしてもらわないと困ります!」

 侑奈がギョッとすると、玲子がクスクス笑う。揶揄われているように感じて、少し不満げに彼女を見る。

「ふふっ、ありがとう。でも、いつまで元気でいられるか分からないから……たまに不安になるのよ」
「玲子さん……」

 悲しげに笑った玲子に胸が痛くなる。
 玲子も祖父母もとても元気なので忘れそうになるが、彼女らの年齢を考えると、その不安を馬鹿げたことと簡単には一蹴できない。

「お願い、侑奈ちゃん」

 玲子の縋るような目に侑奈は言葉を詰まらせた。しばらく逡巡したあと、こくりと首肯する。その途端、玲子が相好を崩した。

「ありがとう、侑奈ちゃん! 嗚呼、そうと決まったからには今すぐ婚約披露パーティーの準備をしなきゃいけないわね」
「え……わざわざパーティーなんてしなくても……」
「駄目よ。侑奈ちゃんがうちの嫁になるって広く周知させないと」

 眉尻を下げると、玲子がすかざず否定する。そして宥めるように侑奈の背中をさすった。

「私が責任を持って侑奈ちゃんを必ず幸せにするから、貴方は何も心配しなくていいのよ」
「玲子さんがしてくれるんですか?」
「もちろん隆文だって貴方を幸せにしてくれるわ。だけど侑奈ちゃんに、うちに嫁いできてよかったと思ってもらうには、皆で貴方を大切にしないと」
「もう充分大切にしてもらっています」

 侑奈はクスリと笑った。
 優しい人だ。彼女の思いに応えるためなら、苦手なパーティーを頑張りたいと思えた。
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