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第一章 宿屋をやると決意する俺
13、採点
しおりを挟むようやく追いついた二人はとても心配そうに駆け寄ってきた。
「マスター!! 大丈夫か!?」
「ば、バンさん!」
セシノはさらにフォグから飛び降りると、わざわざ俺の前まで来て心配そうに全身を確認しはじめたのだ。
「セシノは大げさ過ぎる、大丈夫だって。それに見ての通り女帝様には早々にお帰りしてもらったから安心しろ」
「いや、あの……バンさんが湖に連れ込まれたらどうしようってフォグさんが心配してたので、私も心配で心配で……」
「そうか、二人とも心配かけて悪かったな。確かに連れ込まれそうになったんけど、丁度マリーが助けてくれたんだ」
そう言ってマリーを見たのに、まだ考え事をしてるのか二人が来た事にも気がついてないようだった。
「それで、マリーのやつは何考えてんだ?」
「さあ……?」
「おい、マリー!!」
フォグの呼びかけで、マリーはようやく二人がいる事に気がついたようだった。
「……なんじゃ、ノロマな狼がやっと来よったかのぅ」
「誰がノロマだ!? 俺は人を乗せて走るときはちゃんと速度を落としてんだぜ!!」
「そんな事はどうでもよいのじゃ」
「そんな事!?」
フォグはマリーの言葉に固まってしまったのに、マリーは全く気にせず俺の方を向いた。
「マスター、ワシは調べたい事があるから、一度牧場の方へと戻るのじゃ。もしこちらに来るときは事前に連絡するがよいのじゃ、ワシが直々に迎えに行ってやるからのぅ」
「わかった」
そしてここを離れるために一旦後ろを向いたマリーだったが、何かを思い出したように顔だけこちらを向けて俺に言う。
「ああ、それから……今回の罠についてじゃが」
俺はその言葉にゲッと、顔を顰める。
何故かいつも罠の練習をするたびに、マリーは勝手に採点をしていくのだ。
それも辛口なせいで、俺はガチ凹みした事が何度もあった。
「50点じゃな」
「ぐ……別に良いだろ、成功したんだから!!」
本来は俺を蹴落としたアンナに使う用の罠である。
今回のこの罠はアンナに追いかけられる恐怖と、逃げられないという絶望を味わって貰いたくて考えたものなのだ。
「逃げ惑い、失禁するところを嘲笑いたいと……子供みたいな発想じゃな」
「そ、それは口に出して言うなよ!!」
「ふん。これでは甘いと言っておるのじゃ、もっと徹底的に叩きのめした方がマスターもスッキリするじゃろ?」
「そうかもしれないけど、あんまり残虐なのはちょっと……って、それはもういいだろ! それにマリーは牧場に戻るんじゃないのか!?」
「そうじゃった、マスターをからかってたら忘れるところじゃった、ではまた後でな」
そう言って人型からスライムに戻ったマリーは、瞬時にその場からいなくなったのだった。
しかしセシノは俺たちの会話に疑問を持ったようだ。
「あの、色々気になる所があったのですけど一ついいですか?
「一つだけでいいのか? そんな遠慮するなって、別にいくつ聞いてもいいんだぞ」
「いえ、心臓に悪いのでとりあえず一つだけにします。その、ダンジョンに牧場って……?」
「あー。えっとだな、それはモンスターを育成するための牧場のことだ」
ダンジョンには必ずモンスターを育てるための牧場がそれぞれ存在しているらしく、倒されたモンスターの魂はそこに帰ってくるようになっているんだそうだ。
このダンジョンボックスという不思議な物を作り出したのが誰かしらないけど、何のためにそんな仕組みなのか、俺もここにいる仲間たちも誰一人知らない。
「あの、モンスター牧場……ってことはモンスターだらけって事ですよね?」
「そうだな。川エリアの向こう側には危険区域があってそこが牧場になってるんだ。セシノは絶対一人で行ったらダメなところだけど……そうだ! せっかくだから一緒にダンジョンを回らないか?」
「え!?」
突然の提案に、セシノは驚いて不安そうに俺を見つめる。
「俺がいればモンスターに襲われないし、今日はこのダンジョンにもう冒険者はいないみたいだから、貸切ってやつだ。それにフォグも付き合ってくれるだろ?」
「そうだな、俺は予定がないからマスターに付き合うぜ」
「ありがとな、フォグ」
感謝を込めて俺はフォグを撫でると、嬉しそうに尻尾を振っていた。
そんな俺たちを見て、セシノは少し困った顔をしてしまった。
「あ、あの……どうしていきなりそんな事を?」
「うーん、そうだなぁ。確かにセシノが昨日と今日で色んな事があってまだ混乱してるのはわかる。でもそれをゆっくり考える前に、少しでも気分転換になればいいと思ったんだけど、どうかな?」
間違いなく考える時間は必要だろうけど、今は少しでも元気になってほしいからな。
そしてセシノは少し考えた後に、意を決して顔を上げた。
「あ、あの! 案内、お願いします。私バンさんの事よくわかってないですけど、知りたいと思ったので……」
「おお! そうかそうか、このダンジョンの事知りたいと思ってくれてありがとな!」
「いや、ダンジョンじゃなくて……私は、その……」
「え、何か言ったか?」
「な、なんでもありません!!」
焦って手を振るセシノの顔は少し赤くなっていたので、俺は心配になってセシノのおでこに触れてしまった。
「セシノ、顔が赤いけど体調が悪いのか」
「だ、大丈夫ですから!? 私に触れないで下さい!!」
「あ、ごめん!!」
凄い拒絶されてしまった。
やっぱり俺みたいなオッサンに触れられたくないよな……少し泣きそうだよ。
「い、いえ! こちらこそ叫んでしまってすみません……余りにも驚いてしまって。お、お腹が空いててイライラしてるのかもしれません!!」
「そ、そうなのか? 朝早かったから仕方がない。まだお昼には少し早いけど、先に昼ごはん食べてからダンジョンを回る事にしようか?」
「あ、あの、今のはその……」
自分の言った言葉に動揺しているセシノは、さっきよりもさらに顔が赤くなっていた。
だけど恥ずかしそうにしているセシノを見て、俺は今度は何も言わないであげる事にしたのだ。
「じゃあ、お昼食べに俺の家に行こうか。そうだ、少し退屈かもしれないけどご飯を食べながら俺の話を聞かないか?」
「……え?」
「セシノには過去のこと話しても良いかなって思ったんだ」
今日一日セシノを見ていて、どうせもう二度と会えなくなるのなら、こんな俺の事を少しでも覚えていて欲しいと思ってしまったのだ。
それに、きっと冒険者をやめるだろうセシノには知られて困る事もなくなったからな。
だから本格的に俺の話をしたいと思ってしまったのかもしれない。
「あの、私が聞いてもいいなら聞きたいです」
そう頷いてくれたセシノを連れて、俺はご飯を食べるために一度家に帰ったのだった。
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