40 / 168
第二章 開業準備をする俺
40、秘密(セシノ視点)
しおりを挟む「いいか、セシノ。マスターにはお面男の話はバラしてはいかんのじゃ」
マリーさんにそう言われて私は混乱した。
そして気がついたら、私はマリーさんとお昼ご飯の準備をしていた。
バンさんは一人でギルド職員さんと話しているみたいだし、大丈夫か心配だ。
バンさん、突然捕まったりしないよね……?
「心配そうじゃな、セシノ」
「い、いえ……バンさんならきっと何でも一人でできますよね」
「そんな事はないのじゃ。あやつは人と関わらないようにする為、一人で出来るように装っているだけの弱虫じゃからな……」
弱虫なバンさんを想像したけど、全く想像がつかなくてクスリと笑ってしまう。
それと同時に、何故マリーさんは私にバンさんの話をしてくれるのか気になってしまう。
「どうしてマリーさんは、バンさんの話をこんなにも私にしてくれるのですか?」
「ああそれは、セシノがマスターの事を好いているからじゃ」
「す、好いて!? い、いや確かにバンさんは好きですけど、それは別に愛とか恋とかそう言うのではなくて……」
私は何故か動揺してしまって、手で頬を包み込む。顔が赤くなっているせいなのか、少し熱い気がした。
「まあ、それはどちらでもよいのじゃ。ワシにとってマスターを幸せに出来る人である事が大事なのじゃ」
「幸せに出来る人……? それはマリーさんたちじゃダメなんですか?」
「モンスターのワシらでは人の感情は全く理解できんのじゃ、だからこそセシノのようにマスターに寄り添うことの出来る人物は貴重なのじゃよ」
いつもバンさんに厳しい事ばかり言うのに、二人で話すときはいつもバンさんの事を心配しているマリーさんには、人に近い心があるように思えるのに……。
「だからこそ、ワシはセシノに期待しておるのじゃ!」
「もしかしてバンさんにお面男の正体を教えないのも……」
「マスターがお面男だと知れ渡れば、無駄な諍いが起こるかもしれぬ。本人が知らなければバレる事も無いじゃろうし、そのための工作はしたからのぅ……これで、もうマスターをお面男と思う奴はおらぬじゃろう」
でもこのままいけば、お面男を神聖視する人が出てくるような気もするけど……。
大事にならないよう、祈るしかないよね。
「それでセシノよ、どれだけジャガイモを丸め続けるつもりじゃ? 少し作り過ぎてはないかのぅ……」
「あっ! 考え事してたらつい……」
どうしよう、こんなに沢山作っても二人しかいないんだから食べきれないじゃない。
「ではここら辺で区切るのがいいじゃろう、それにしてもこの厨房は天井が高すぎるのじゃ……」
「確かに、一部の調味料が届かないですね。どうしましょう?」
「そうじゃ、ワシが肩車をしてやるのじゃ!!」
「え?」
そしてマリーさんに肩車をしてもらった瞬間だった、扉がバタンと開いたのは……。
そこにはバンさんが不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
「二人とも悪いが俺はギルドに行く事になったから……って、二人で何やってんだ?」
「あ、いえ……少し上にある調味料がとれなくてですね」
「ああ、ここには脚立がなかったな。それは悪かった、今度お前らの身長に合わせて改めてキッチンも改造しような」
「あ、はい。ありがとうございます」
慌てて調味料を取った私は、すぐにマリーさんに下ろしてもらう。
だってこのまま近づかれたら、角度的に下着が見えちゃいそうだったんだもの。
少し捲れたスカートを直していると、マリーさんがバンさんに話しかけていた。
「して、マスターよ。ギルドに行くと言うのはどう言う事じゃ?」
「どうやら、ここで宿屋をやっても良いらしくてな。その申請に言ってくる」
その事に驚いた私は、何故かバンさんを一人でギルドに行かせたくなくて、つい手を挙げていた。
「あ、あのそれなら私も着いていっても良いですか?」
「え、料理はどうするんだ?」
そう言われても、これはバンさんのための料理だからと夕飯にまわす事にして、とりあえず私とマリーさんはバンさんについて行くことにしたのだった。
そんな私たちを呆れたように見ながら、バンさんは快く許してくれた。
「よし、わかった。三人でギルドに行こう」
そして私たちはギルド職員さんが待っている場所へと向かった。
そこには大きくて厳ついギルド職員さんがいて、私は少しびっくりしてしまう。
「おいおい、ギルドに行くのに子供連れか? まさかお前の子供……!!?」
「そんな訳ないだろうが!!」
気軽にやりとりをしている二人を見て、もしかして知り合いだったのだろうかと首を傾げる。
「コイツらは俺の保護者一名と、俺が保護者をしている子一名だ」
「一体何言ってんだお前は……?」
多分マリーさんがバンさんの保護者で、バンさんは私の保護者だから間違ってないのだけど、凄くわかりづらい。
ギルド職員さんはバンさんを可哀想な目で見ると、改めてこちらを見た。
「俺はサバン、ダンジョン調査班の班長をしている。それからこっちが……」
「僕はクラウです」
「ワタクシはマヨ・サジョウですわ。事情はよくわかりませんでしたが、班長がいいと仰るのでしたらワタクシたちはついて行くだけですわよ」
「と、言うわけだからよろしく頼むな嬢ちゃんたち」
そう言って三人は私たちに頭を下げる。
私も慌てて頭を下げると、バンさんが自己紹介をしてくれた。
「こっちがセシノ、この子はあのズーロウの被害者なんだ。だから余り詮索はしないでくれ」
「なんだと、あの男の……わかった。お前たちも余計な事は聞くんじゃ無いぞ、とくにクラウ」
「はいはい、わかってますよ。大丈夫ですって近づかないように離れておきますから」
何だろう、クラウさんに少し見つめられただけなのに凄く嫌な感じがした。でももうニッコリ笑う姿からは全く何も感じなくて、ホッとしてしまう。
「それから、こっちはマリー。こいつは見張り役みたいなもんだから気にしないでくれ」
「いやいや、幼女に見守られてるお前がよくわからん! それにいつのまにお前はロリコンになったんだ!?」
「ロリコンじゃねぇ!!!?」
「幼女に見守られるのが性癖なんじゃないのか……?」
「違うわ!! 俺は年上が好きだから断固としてありえない!」
その一言に、少しショックを受けている私がいた。
別にバンさんが好きなわけじゃないのに、何で落ち込んでるのよ私は……。
「そんな事より、ギルドに向かうんだろ? 早くしないと日が暮れるぞ」
「そうだな。ここに来るまで3時間かかったからな……」
「まあ、俺がいれば1時間もかからないと思うから安心しろ」
「「ええ!?」」
そう言って驚くクラウさんとマヨさんを置いて、私たちはすぐに歩き始めた。後ろでは二人が「待ってください!!」と、叫んでいるのが聞こえる。
しかし私はそんなことよりも横にいるバンさんを見て、先程マリーさんと話した事を思い出していた。
バンさんを幸せにするために、私もできる事を頑張りたい。そのために今日はギルドまでついて行くと決めたのだから。
そう思い、気合を入れて私は改めてバンさんの横に並んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる