44 / 168
第二章 開業準備をする俺
44、糞な冒険者
しおりを挟む何とかタグをキャッチした俺はそれを大事に抱えた。
せっかくサバンが俺のために調整してくれた大事なタグなのだ。ここで失くす訳にはいかない!
そう思いながらも俺は間抜けな声を上げて階段を転がり落ちていく。
「いっただだたっただだっ!!!」
下まで綺麗に落ちた俺は痛む体をさすりながら顔を上げる。周りを見回すとそこは依頼が張り出されている掲示板の近くで、突然落ちてきた俺を見て周りが騒めいているのがわかった。
しかも最悪な事に俺を落とした二人組が階段から笑いながら降りてくるのがみえた。
そして倒れている俺のもとまでくると、スキンヘッドの男が胸ぐらを掴んで言った。
「必死でキャッチご苦労様! だけど残念だっなぁ~!?お前がキャッチしたタグは実は偽物でした!」
「なっ!?」
「ギャハハハハハ!!!! あんなに必死になって取ったのに偽物とかさ……まじで笑えるんだけど!!?」
急いで俺は手に持ったタグを見た。
それは確かに形は似てるが、冒険者タグではなかった。
「俺のタグを返せ!!」
「やだね、返して欲しかったら俺たちの役に立って貰わないとなぁ~?」
「ウグァッ!!」
気がつけば俺は男に投げ飛ばされていた。
そして近くの掲示板にぶつかったせいで、依頼書が飛び散るのが見える。
俺は痛む体ですぐに起き上がると、男たちはニヤけながらこちらに歩いてきていた。
くそ、コイツらこんな人前で脅してくるつもりなのか……?
しかし周りの冒険者たちは、この光景を見慣れているのかガヤを飛ばす奴らしかいない。
さらには煽って来る奴までいて不愉快だった。
「またアイツら新人イビリかよ……」
「お! いいぞ、もっとやれ~!!」
「うおぉ~、ド派手にいけ!」
そんな声を耳にして、俺がコイツらの話を聞く必要性とタグを今持つ事の必要性を天秤にかけていた。
目的だった宿屋の許可を取ることは完遂したのだから、当分タグは使わないだろう……。
それに今の俺にはセシノとマリー、二人を危険な目に合わせる訳にはいかない。
体まで張ったのに情けないが、今タグの事は諦めるしかないようだ。
「わかった。そのタグは預けておく……もし捨てるような事があれば、天罰が下っても文句は言うなよ?」
というかこう言うクソな奴らには天罰が下るべきだと、俺は祈りも込めて言っただけで実際何か手を出すつもりはない。ただの負け犬の遠ぼえだ。
「あひゃひゃひゃ!!! 天罰、何言ってんだお前?」
「まさかお面被ってるからって、ヒーロー気分かよ!! まじウケるんだけど!」
そう笑う男たちを無視して、俺は階段を登って行く。正直体が痛くて歩くのもやっとな感じなのだが、そこは無理をしてでも早く立ち去る必要があった。
これ以上あの冒険者たちに関わると、何か実害が起きる予感しかしないのだ。
タグについてはサバンに申し訳ないが、今度謝っておこう……。
「バンさん、大丈夫ですか!!?」
ようやく階段を登り切った俺は、大人しく待っていてくれたセシノに支えられるように崩れそうになっていた。
「ごめん、少し大丈夫じゃないかも……? でも二人ともよく我慢してくれたな。偉いぞ~」
「頭を撫でようとするでない! 今はワシらが出て行ってもこんな子供の姿では悪化させる事しか出来ぬからのぅ……セシノを引き留めたワシの頑張りをわかって欲しいものじゃ」
「そうか、マリーがセシノを止めてくれたんだなありがとう」
一度嫌がられたのに、マリーの頭をプニプニと撫でてやる。一瞬凄く不服そうな顔をしたけどすぐに、諦めたように大人しく撫でさせてくれた。
「ふん、それよりもセシノは気が気じゃなさそうじゃな、早くここを去るのじゃよ」
「そうですよ、とにかく帰って手当しましょう!」
「でも、セシノ……元仲間を探さなくていいのか?」
「そんなことよりも、バンさんの手当の方が大事ですから!!」
そう言って俺の腕を引き摺るように進んで行くセシノに、俺は嬉しくなってしまう。
そんな俺にマリーが小声で話しかけてきた。
「マスター、ニヤニヤして気持ち悪いのじゃ……」
「いや気持ち悪いって酷いっ、てかお面の中を透視するなよ……。でも、こんなふうに俺を心配してくれる奴って今までいなかったから、凄く新鮮でさ~」
今まで人からは蔑まれる事しかなかったし、モンスターたちはこんな必死に心配してくれないから仕方がない。
「成る程のぅ……そういうものなのじゃな」
「何に納得したかしらないが、とりあえずセシノのために早く帰るか~」
「二人とも話してないで、早く歩いて下さい!」
ゆっくり歩いてる俺たちに焦れたセシノは、更に俺を引っ張る。そのせいで先程の打身がズキリと痛む。
「いたた……」
「ご、ごめんなさい。怪我してるのに私ったら……」
「これぐらい大丈夫だって、さあ早く俺たちの家に帰るぞ」
「は、はい!」
俺は痛む体を無理して動かし、どうにか『カルテットリバーサイド』の転移ポートまで辿り着いた。
セシノにカッコ悪いところは見せたくなくて頑張ったものの、転移した瞬間安心したのか俺はその場に崩れ落ちたのだった。
「バンさん! しっかりして下さい、バンさん!!」
薄れゆく意識の中で、セシノの声だけが響いていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる