ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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第三章 温泉を作る俺

53、トロッコ

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 俺は大回りで尻尾側まで抜けると、アーゴが俺を視認出来そうな位置まで移動する。
 そしてアーゴに身振り手振りで伝たわれ! と、念を送った。

『赤竜をどうにか引きつけてくれ~!!』

 アーゴは俺の動きを見て何となく察してくれたのか、今まで防戦一方だったのをやめたのだ。

「ぐるぅぅうううぎぃいいぁああぁあ!!!」

 突然アーゴが赤竜を持ち上げようとしたため、驚いた赤竜が唸り声を上げる。
 それを見た俺は、いまだ! と赤竜までの距離を一気に駆け抜けた。
 そしてどうにかトロッコのもとまで辿り着いた俺は、それを動かそうとして気がついた。

「あー、しまった。このトロッコ、俺は動かせないやつだったわ……」
 
 ポツリと呟いた俺は魔力を入れながら確認する。
 確かに俺の魔力は入っていく、でも操作をする事が出来ない。代わりに手で押しても引いても全く動く気配がなかった。
 と、言う事はここまであの魔法使いの、確かミラって言う子を連れて来なくてはならない……。
 幸い赤竜はアーゴの方しか向いていない上に、持ち上げられているからアーゴの下を通り抜ければ三人のところまで戻れる。そして戻ったら魔法の女の子を持ち上げてここまでこれば良いわけだ……。
 ここはダッシュで行くしかない! と、俺はどうにか赤竜とアーゴの下をくぐり抜けて三人のところまで戻る事に成功した。

「どうしましたか、お面様?」
「やはりトロッコは見つからなかったんですね……よし、死のう」
「待って早まるな!! トロッコは見つけたけど、俺じゃ動かせなかった。だから魔法使いであるミラを借りて行っていいかな?」
「わ、私でしゅ、ですか?」
「ああ、そうだ。まだ動けなさそうだから持ち上げるけど許してくれよ!!」

 俺はミラから許可を得る前に、その小さい身体を抱えるように持ち上げた。

「ひゃぅ! ちょっ、ちょっと待ってくだひゃー!」
「口開いてると舌噛むから気をつけてくれよ!」

 口を手で押さえるミラを確認して、俺は走り出す。
 一人で走ってるときとは違い、スピードが出ないためハラハラしながら赤竜の下を通り抜けていた。
 そしてトロッコまで後一歩まで来たところで、アーゴが叫んだ。

「ヨケテ!!」

 基本俺以外の前でモンスターは喋らないのだけど、流石に今の状況でそうも言ってられなかった。
 見上げた俺の真上から、赤竜が降ってくるのが見えたのだ。
 どうやら、アーゴの手から逃れてその反動で落下しているらしい。しかしそんな事呑気に観察してる場合じゃない!!
 俺に抱えられてるミラはパニックになって喚いているのを、無視して俺は魔力を練った。

「お面の兄しゃんっ!? せ、赤竜がががが!! も、もうおしまいでしゅ!!?」
「プロテクト・ゾーン展開!!」

 急いで結界を俺の周りに顕現させる。
 すぐにズシンっと、赤竜が落ちてきた音が鳴り響く。そして砂埃が舞い、視界が悪くなっていた。
 暫くして抱えてるミラが嘆きはじめた。

「あーもう私死んだんでしゅ! 先ゆくことをおゆるしです……です……? あれ、私生きてるですよ!」
「ああ、ちゃんと生きてるから暫く静かにしていてくれよ!」

 赤竜が結界の上に乗っているのが、ここからでもチラリと見える。
 俺たちは砂埃が晴れる前にトロッコに向かわないと行けない。しかしトロッコは結界の範囲外にいるため、この結界を一度解除しないといけなかった。
 しかし結界の上には赤竜が乗っていて、このまま解除してしまえば俺たちはペシャンコになるだろう。

「赤竜がここから退いてくれればいいけど、そうなれば俺たちは完全に攻撃対象とみなされる。どうするべきか……」
「お面のお兄さん……あの!」
「ん、どうした?」
「私、重力魔法が使えるんです」
「……それは珍しいな」

 魔法適性がある者のみ魔法は使う事ができるのだけど、5大要素以外の魔法が使える者は貴重とされている。
 だから、この子はかなり優秀なのかもしれない。
 そう思ったらすぐに否定されてしまった。

「いや、逆にそれしか出来ないのですけど……なので、上にいる赤竜を持ち上げようかとおもうのです……んん? ……あれ、魔法が使えないです!」
「悪いな、俺の結界の中では魔法が使えないんだ」
「そ、そんなぁ~。お兄さんの結界はゴミなんですか~!?」

 ミラは混乱しているからこんな事を言ったんだと思うけど、ゴミか……昔も良く言われていたから仕方が無いけど、今言われても嫌だな。

「はっ、私ったら気が動転しちゃって失礼な事を言ってしまったです……すみませんです」
「いや、それはいいけど……それよりもその重力魔法って言うのは発動にどれぐらいかかるんだ?」
「瞬きするぐらいです!」

 多分すごく早いって事なのを理解した俺は、頭にシュミレートしていた。
 結界を解いて、ミラに重力魔法を。そしてトロッコまで走り、トロッコに乗って赤竜をどうにかして二人のところまで辿り着く……。
 赤竜をどうにかって、無理だ。しかし、もうここまできたらあとは突っ切るしかない。

「よし、俺が結界を解いたらすぐに重力魔法で赤竜を浮かせてくれ」
「わかりました、でも多分トロッコに乗ったらそっちに魔力を割かないといけないので、魔法は切れると思いますけど……?」
「あとは俺がどうにかする。お前はひたすら魔法制御しててくれ」
「はい!」

 そろそろ砂埃が晴れてしまうだろう、時間はあまり無い。
 すぐにトロッコに向かえるように結界の端まで行くと、俺はミラに言った。

「3カウントで行くからな! 3、2、1……プロテクト・ゾーン解除!!」
「重力場展開しますですよ!」

 俺の結界が消えるのと同時にミラが魔法を放ったのが見えた。
 それは紫色の球体で、赤竜の一部を包み込むとゆっくりと持ち上げ始めた。
 それに気づいた赤竜はもがき出し、アーゴがさらに牽制をしてくれていた。
 それを確認して、俺はミラを抱えて走り出した。

「トロッコまで抱えて走るぞ!」
「お願いします!」

 後ろでは赤竜の怒りの声が聞こえるが、俺は振り返る事はしない。
 ただトロッコまでミラを運ぶだけだ。

「よし、トロッコまでついた!」
「トロッコ動かすので赤竜が落ちますですよ!」
「待った、俺が囮になるからここからは君だけで行ってくれ」
「……へ?」

 考えに考えた結果、これが俺の出した答えだった。
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