ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

文字の大きさ
60 / 168
第三章 温泉を作る俺

60、足湯

しおりを挟む

 それから俺たちは先に夕飯を食べると、庭園温泉へと戻ってきていた。

「どうだ、そろそろ温かくなってきたころかな?」

 池の中に手を入れると少し温めだけど、だいぶ暖かくなっていた。
 ここの温泉はゆっくり浸かる用ではないから、これぐらいの温度の方がいいのかもしれない。

「バンさん、どうですか?」
「少し温いけどこれで大丈夫だ。足だけ軽く入れてみていいぞー」
「やったですー!」

 すでに靴を脱いでスタンバイしていたミラが嬉しそうに足をチャポンっと池に入れながら座った。

「少し温いですけど、気持ちいいです~」
「わ、私も!」
「僕も……」
「では、私めも失礼しますね」

 並んで座る4人は、足湯がとても気持ちいいのだろう。凄く顔がホッコリしている。
 俺はそれを見て上手く出来てよかったとため息をつきながら、そういえば5人の男たちはどうなったかと置いてきた場所を確認する。
 どうやらまだ気絶しているのか、トロッコはそのままだった。
 これなら帰るまで放置しても大丈夫だろうと、俺も足を湯にいれた。

「あーー、生き返るな~」
「バンさん、おじさんくさいですよ」
「もうおじさんだから、いいんだよ」
「よくないです!!」
 
 横でセシノが小言をいっているけど、俺は足湯が気持ちよくて話をほぼ聞いてなかった。
 そして小言が終わった頃、ミラが何か閃いたのか声を上げた。

「そうです! 今度私たちのファミリーの人たちを連れて、ここに泊まりに来てもいいですか?」
「ああ、いいぞ。お客さんが増えるのは俺にとってもありがたいからなー。でも、できたら来るのは露天風呂が完成してからにして欲しい」
「え、ここには露天風呂もできるのですね……。今から楽しみです。効能はどんなのにする予定なのでしょうか?」

 突然興奮し始めたセーラは、かなりのお風呂好きなのかもしれない。

「えっと……上手く効果が付くかはわからないけど、疲労回復と美肌効果はあるといいかと思ってるんだけど……」
「良いかと思いますよ! もしよろしければ、ここはダンジョンですから生命力、魔力、状態異常、すべて回復するような温泉だと嬉しいのですが……流石にそこまでいくと欲張り過ぎですよね」
「確かに全部は難しいかもしれなけど需要はありそうだな。ありがとう、考えておく」

 ダンジョンだからこその効果をつけると言うのはありだろう。
 そう思っていたら、シガンも何か言いたそうにこちら見ていた。

「あの無理だとは思うんですけど、僕みたいなのはダンジョンで武器を手放したくないので、軽装のまま入れたりすると嬉しいです」
「成る程、温泉に服のまま入ってもすぐに乾かせるアイテムがあればいいって事か?」
「そんな便利な物があればですけど……」
「いやいや、貴重な意見ありがとう。調べておくよ」

 これはマリーと相談して、と言う感じだな。

「やっぱ、お客さんの意見を聞いてみるというのは大事だよな。今後のためにご意見箱を用意してみようかな」
「それはいいですね!」
「その前にお客さんが来ないと意味ないけどなー」

 今日、俺は忙しかったけど宿の客は今日も0人だったのだから早く温泉を完成させないとな……。

「私たちもとても良い宿と食堂でしたとファミリー内で宣伝させてもらいますから、安心してくださいね」
「セーラ……そんな大袈裟に言ってもらうなんて、なんか申し訳ないな」
「何言ってるんです! 私たちにとっては、凄くいい宿屋です」
「そうか、ありがとな」

 まあこいつらは客として来ている訳じゃないけど、ファミリーの人たちに伝えてくれるだけでも良い宣伝にはなるだろう。
 そこまで考えて、そういえば何処のファミリーに所属しているかを確認していない事に気がついた。

「聞き忘れていたけどさ、ミラたちは何処のファミリーに所属してるんだ? 温泉が出来たときに伝えにいくにしても、ファミリーがわからなかったら伝えられないからな」
「確かにいわれてみたら、まだファミリーの名前を言ってませんでしたね」

 セーラさんは、そう言うと二人と顔を見合わせて頷いきあうと、改めて背筋を伸ばし俺を見た。

「私たちは冒険者ファミリー『暁の宴』から参りました」
「……え?」

 今、『暁の宴』って言わなかったか?
 俺は聞き間違えたのかと思いもう一度聞いていた。

「悪い、もう一度聞いてもいいか?」
「すみません、聞き取り辛かったでしょうか。では、コホン。私たちは『暁の宴』に所属している冒険者です」

 やはり『暁の宴』に聞こえる。
 『暁の宴』といえば、俺が8年前に所属していたファミリーの名前だ。
 でも俺が知っているファミリーには、エースが3人以上もいるような強豪ファミリーではなかったはずなのだ。だから俺は全く疑ってもいなかった。

「……バンテットさん、どうしたのです?」
「いや、聞いたことのあるファミリーだったから、少し驚いただけだ。そうだ、もう良い時間だろ? あの男共も連れて帰らないと行けないし、そろそろ帰ったらどうだ?」

 俺は動揺しているのを気づかれないように、3人に帰る事を進めていた。
 少し突然過ぎたかもしれないのに、3人はかなり遅い時間になっていた事に焦ってすぐに帰り支度をはじめたのだった。
 そして3人を見送ったあと、遠くを眺めながら俺はため息をついていた。
 あの子たちを助けたのはいいが、困った事になりそうな予感がするのだ。

「バンさん、あの……」

 横で一緒に見送りをしていたセシノが、申し訳なさそうに俺に話しかけて来た。

「ん? どうしたセシノ」
「先程、ファミリーネームを聞いてから態度がおかしくなった気がするのですけど……あのファミリーに何かありましたか?」

 どうやら動揺するのを誤魔化したつもりだけど、セシノにはバレていたようだ。
 それにこのことはセシノに誤魔化し続ける必要もないだろうと、俺は元ファミリーの話をする事にした。

「アイツら三人が所属している『暁の宴』って、俺が8年前に所属してたファミリーなんだよ」
「え? バンさんあそこのファミリーに所属していたんですか?」
「なんだ、セシノは知ってるファミリーなのか?」
「ええ。今このエリアだと四番目の勢力とされるファミリーですから」

 いつのまにそんなに強豪になってしまったんだ……と、8年の月日を感じてしまい俺は再びため息をついていた。

「俺がいたときは、まだ中堅に入ったばかりのファミリーだったのにな……」
「8年経ってるのですから仕方がないですよ。でもそのファミリーの人たちがこの宿にきたとしたら、バンさんは困るってことですよね?」
「8年経ってるから、メンバーはほぼ変わってると思うけど……知り合いの何人かには絶対にバレる自信がある」
「これは困りましたね」

 ミラたちは皆いい子だから、絶対に宣伝してくれたうえに沢山の仲間を連れて、来てくれるという事がわかってしまうのだ。
 
「そうだ! これからはバンさんが余り表に出なくてもやっていけるように、フォグさんたちにも手伝って貰いましょうよ!」
「は? フォグたちに……それは一体どうやって?」
「凄くいい案が思いついたので、それはまたのお楽しみにしておいて下さいね」
「えっとよくわからないが、そっちは頼んだ」
「はい!」

 正直、どこからどう見てもモンスターであるフォグたちを働かせる方法が全くわからない。
 でも、再び温泉に足をつけて伸びをするセシノを見て、少しだけ不安がなくなった俺もまた、少し温い温泉に足を入れたのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...