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第三章 温泉を作る俺
66、乾燥装置
しおりを挟む足の隙間に座るマリーを見て、多分鑑定結果を見やすくしてくれただけだとは思うのだけど、この体勢は親と子供みたいで恥ずかしい。
そう思っていると、マリーが振り返りニカリと笑いながら小声で言った。
「マスター、もしやワシの色気にやられたのじゃな?」
「いや、子供に色気はないだろ?」
「なんじゃと? ならば特別に大人のお姉さんになってやっても良いのじゃぞ?」
「いや、やめろって。ここにはセシノもいるんだぞ?」
「ふっふっふっ、ならばセシノがいないところならマスターをからかっても許されるのじゃな」
そういう問題ではないのだけど、マリーが楽しそうなのでそういう事にしておいてやる。
「それで、鑑定結果は?」
「これを見るのじゃ!」
マリーが指し示したところにはこう書いてあった。
「疲労回復、美肌効果、火傷、腰痛、肩こりに効く。これが効能だな。それで魔法的な効果は……?」
「それはこっちじゃ」
「生命力、魔力を入浴時間毎に20%回復、火属性+30%、入浴後半日であれば攻撃力、魔法攻撃力が10%UP……これはなかなかヤバいのついてないか?」
「これはこの温泉の魔法効果目当てでくる冒険者が殺到しそうじゃな?」
確かに効果がありすぎるというのも問題になりそうだ……。
「でもそれなら効能を隠しておけば大丈夫な気がしますけど……それに私としては露天風呂に入れて本当によかったです」
「まあ、確かにそうだな」
嬉しそうなセシノを見たら、とりあえずこのままでいいかと思ってしまう俺がいた。
「明日からは温泉宿『トラパラ』として再スタートですね!」
「ああ、コレで観光地計画第一歩がようやくスタートしたんだな……」
「何言ってるんですか、それはもうスタートしてましたよ?」
そうかもしれないけど、こうしてちゃんと形になったことがようやく実感できたのだから仕方がない。
現状では、ただ泊まれる洋館が立ってたいるだけだからな……。
「明日の事なんですけど、ここが温泉宿としてリニューアルした事を、私がミラさん達の所へ伝えに行ってきますね。それと、ついでに家にも顔を見せに行きたいので……」
「それは別にいいんだが、セシノ一人で大丈夫か?」
「今回マリーさんは忙しいそうなので、フォグさんにゲートまで送り迎えしてもらうので大丈夫です」
「なら気をつけて行くんだぞ?」
「はい、大丈夫です」
明日知らせに行くという事は、早くて明後日には『暁の宴』の人たちが来るという事だ。
俺は表にはでないけど、もしバッタリ出くわしてもバレないように気をつけないとな。
そう思ってると、マリーが突然へにゃへにゃな声をあげたのだ。
「それはそうと、そろそろ熱くて本当に溶けそうになって来たのじゃ……」
「それはのぼせたんじゃないのか? って、マリー本当に溶けてるから!」
焦った俺はフォグと一緒にマリーを持ち上げる。すでに溶けかけていたマリーの体を全部出すのは少し苦労した。
「マリーさんは先に入ってましたから、仕方ありませんね」
「モンスターでものぼせたりするんだな……」
「確かにそれは不思議だぜ……。でも俺は全然大丈夫だぜ、マスター!」
フォグはまだまだ平気そうに、胸を張った。
それに引き換えマリーはまだ少しぐったりしていた。もしかしてマリーは熱に弱かったのだろうか?
「マリー、大丈夫か?」
「うむ。大丈夫じゃ……それより風呂から出るならあのマジックアイテムを試して欲しいのじゃ」
「どの?」
俺はマリーが指し示した方を見た。そこには知らぬ間に魔法陣が準備されていた。
「余った鱗を使って、瞬間乾燥装置を作ってみたのじゃ。魔力を持っているなら誰でも使えるからのぅ」
「いつのまにこんな物まで作ってたんだ?」
「これを作るついでに試しに作って見たのじゃ。熱かったり乾きが中途半端ではいかんからのぅ、試して欲しいのじゃ」
「わかった、俺が実験台になろう」
流石にセシノとかにお願いして、火傷でもしたら大変だからな。
そう思い、俺はその魔法陣の上に乗ってみる。
一瞬フワっと柔らかい風が体を撫でたのがわかった。でもそれだけだった。
「え、今ので終わり……でもちゃんと服は乾いてるし、どうなってんだ?」
「マスター、中までしっかり乾いておるかのぅ?」
そう言われて俺は服をペラリとめくって確認する。何だろう、服が洗濯したみたいにフワフワに仕上がってる……それも中までしっかり乾いていた。
「中までバッチリだったよ。セシノも試してみるか?」
「は、はい」
セシノは少し緊張しながら、同じように魔法陣の上に乗っていた。
側から見ても、本当に髪の毛が少し靡いて服がふっくらしたようにしかみえない。
「これは、凄いです。それに服がふんわりしてます! 洗濯した物をこれで乾かしたら凄い綺麗に仕上がりそうですね」
「確かにその通りだ。宿屋だし備え付けの洗濯場所でも作るか?」
「それも有りかもしれませんね。一応それ用の場所も確保しておきましょう」
「マリー、そう言うわけだから申し訳ないけどこの装置もう2、3個お願いしてもいいか?」
俺は少し元気になってきたマリーの横に座る。
「ああ、わかったのじゃ。しかし鱗が足りないのでレッドにもらってきて欲しいのじゃが、ついでにこれを渡しておいてくれなのじゃ」
「これは?」
「レッドの神殿をゴージャスにする為のアイテムじゃ、綺麗に着飾ってやるのじゃぞ?」
前にレッドと約束していた神殿を豪華に飾り立てると言う話を、マリーにお願いしていた事を俺は思い出す。
「ああ、それは任せてくれ! でももう遅いから明日でもいいか?」
「大丈夫じゃよ」
「よーし、なら皆聞いてくれ! 温泉宿『トラパラ』は明後日改めてリニューアルオープンする事になるからな、ミラたちがどれぐらい仲間を連れてくるかわからないが、頑張るぞ!」
「「おー!!」」
俺とセシノは一緒に拳を突き上げていた。
その瞬間、俺はさっき作った料理の存在をすっかり忘れていた事を思い出したのだ。
「しまったな……すぐ食べると思って、料理をダイニングに置いたままだった」
「ええ、本当ですか? でもせっかくバンさんが作って下さったのですから、宿に戻ったら私が温め直しますよ。だから今はもう少しだけこの露天風呂を眺めてもいいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。俺ももう少しここにいたいからな」
そして俺は出来上がった露天風呂とセシノたちを見て満足していた。
きっとこれなら、明後日からはまた忙しくなるかもしれない。そうすれば、また一人の生活に戻るなんて事はもうないよな……?
そう思いホッとした俺は、この満足感でアンナの事を忘れかけていた。
しかしその存在が思惑通り近づいて来ている事を、このときの俺は知らなかった。
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